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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter3:Road to the RygiantByilie
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浄化人の蒼焔

アンナベリーの奇襲に備えて構えるザティスだったが、ついに向こうから仕掛けてきた。


煙を突き破るようにして、剣を突き立てつつ彼の頭上から下突きを放ってきたのだ。


ある程度奇襲を予測していたザティスは後ろに軽くバックステップした。だが、攻撃は突きだけではなかった。


「フロスト・パイクッ!!」


大剣が舞台に突き刺さると同時に激しい冷気があたりを覆い、床から無数の尖った氷の柱が隆起した。


大剣での直接攻撃だけではないだろうと予測していたザティスはとっさにジャンプし、この氷のトゲをかわした。


だが、それだけで攻撃はおさまらなかった。アンナベリーはすぐさま大剣を地面から抜くと、目にも留まらぬ速さで宙に紋様を描いた。


ほんの一瞬で呪文が発動し、キラキラ黄色に光る波動が空中の青年を襲った。


「セイクリッド・ファングですわ!!」


「エアリアル・バランシング!!」


隙のない立て続けのコンボをモロに喰らいそうになったが、ザティスは呪文を唱えて空中で体をよじって直撃を回避した。


だが抉るように牙は腹部をかすり、浅い傷では済まなかった。


「いっつ~!! ……!!」


ジャンプした彼は空中で異変に気づいた。舞台の上に居たはずのアンナベリーの姿がない。


必死に目であたりを見回したが、彼女の姿はどこにもなかった。


「上ッ―――!!」


頭上を振り向くと同時に彼女の強烈な大剣の平手打ちがザティスを襲った。


出来る限り速く防御の姿勢を取ったが間に合わない。右腕を盾にするようにして彼は身をかばった。


鈍くて重い一撃を喰らって、ザティスは舞台に叩きつけられた。そのまま舞台上で弾むように飛んで、うつ伏せに倒れ込んだ。


(ぐっ。なんとかアンチショックは成功。だが速ぇ……。さすがに実力差がありすぎるか……。今のうちに残り一本の回復薬を飲むぜ……)


相手に気づかれないようにそっと腰のポーチから回復剤を抜き取ると、腕を頭の下に敷いたままの姿勢からその薬をグビッと飲み干した。疲れが飛ぶような甘くて、爽やかな味がした。


一方のアンナベリーは地面に着地して体についた汚れを払った。ザティスはチラリチラリと相手を観察した。


それなりにダメージは通っているようで、表情には余裕がない。


いくら耐久型とは言え、あれだけ強烈な呪文を至近距離で喰らえばタダで済むわけはなかった。少し苛立った様子でぼやきだした。


「わたくしが見た事のない呪文……。貴方……遠距離魔法は使えないんじゃなくって? ウソをつきましたわね……。貴方がなりふり構わず本気で来るなら、わたくしも本気を出さないと失礼ですものね……ウフフ……」


(違うね。ありゃあんたの大剣のマナの強さを逆手に取っただけで、並みの物体が対象じゃあそこまで引き合う力は生まれねぇ。悔しいところだが、俺自身の力じゃねぇから遠距離でも発動できたのさ……)


ザティスは相手の的はずれな指摘に皮肉ぶってうつ伏せのまま笑った。


彼の呪文の中には遠距離で作用するものもいくつかあるが、それはどれも相手に依存するものばかりで、彼自身の実力で放てる遠距離呪文がないというのは本当のことだった。


特に遠距離攻撃呪文に関しては絶望的で生まれてこの方、発動出来たことが無いほどだ。


だが、やりようはいくらでもあるもので、今までコロシアムなどで遠距離が使えないことを狙って対策を立てられたりもした。そのたびになんとかして突破してきた。


今でもコンプレックスに感じることはそれなりにあるが、使えないから駄目とは思っていない。今の自分のバトルスタイルにはそれなりに自身があった。


うつ伏せのまま体力回復の時間稼ぎをしている間、そんな事をぼんやりと考えていた。きっと今回もどうにかなる。圧倒的な力量差はあったが、彼にはなんとなくそう思えた。


「あら、まだ起きてますのでしょう? これくらいで終わりなんてつまらないですものね!!」


アンナベリーはこちらの作戦に気づいたのか、その場で地面をかすめるように大剣を振って衝撃波を発生させた。


衝撃波は地面を舐めるように倒れ込んだままのザティスに迫った。


すぐに彼は回避行動をとって、体をゴロゴロと転がしながら衝撃波を間一髪で避けきった。


「あっぶね~!! あんのっ!! 無茶しやがるぜ!!」


「ほ~ら、やっぱり狸寝入りですのね。くだらない時間稼ぎはいいから、早くりましょうよ……。ウフフ……」


狂犬は考えていた。十八番の加速呪文、アクセラレイトを使うならそろそろ頃合いであると。


おそらくこれ以上、やりあっているとダメージを受けすぎてこちらの攻撃力が落ちてしまうことが予想できた。出し惜しみしている状況ではないということである。


アクセラレイトを使うにしても幾つか方法があった。原則としてアクセラレイトは一度使うと負担が大きく、体力が完全に回復するまでは使えない。


だが、セパレイトというテクニックを使うことによって何回かに呪文を分けることが出来る。


通常のアクセラレイトは数秒間、超加速することが可能だがそれをセパレイトしたものがアクセラレイト・クウォーターや、アクセラレイト・モーメントなどである。


特にモーメントは多用が可能で、今のザティスなら一回の戦闘で3回の発動が可能だ。


長時間のアドバンテージで一気に攻めるか、モーメントで分散させるかが難しいところだ。


アクセラレイト使用後は必ず相手の隙を突けるのでそれを起点するならば後者は3回直撃を狙うことが出来る。


ただしデメリットもある。1回、2回と数を重ねることにより、そのたびに体力の激しい消耗と全身の鈍痛が起こる。


経験上、3回目となると良くて全力の30%ほどしか力を出し切ることは出来ない。


ザティスは悩んでいた。それもそのはず、もし次の一手でアクセラレイトをフルタイムで発動すればそこで試合は終わる。


勝つか負けるかは定かではないが、発動し終わればそれ以上戦う体力は残らないのは明らかだった。


更に悩ましいのは相手の対策である。アンナベリーの口ぶりからして、こちらがアクセラレイトを温存しているのは読まれているだろう。セパレイトのテクニックも当然マークされているはずだ。


相手の力量が上回っている以上、逆にあえて狙ったタイミングで呪文を発動させて、戦闘不能に自滅させるという作戦も可能である。


いくら時間がないとはいえ、迂闊な発動はそれはそれで敗退を招く。


こんな風にあれこれ考えている事もおそらく相手はわかっているだろう。


どのタイミングで撃ってくるか。読み合いが続いていた。しかし、その膠着を破ったのはアンナベリーだった。


「そういう場合は……殺られる前に……殺る」


そう言うやいなや、彼女は剣を突き出したままこちらめがけて走り出してきた。ものすごい加速を見せつつ、彼女の滑走した後には蒼色の炎の壁が発生した。


「フレイムオ―シャン・クリアランス・メーン!! 浄化の蒼焔!!(あおほむら)」


ザティスは両手をついて素早く立ち上がりつつ、ローリングで彼女の突進をかわした。だが、燃え上がる蒼い炎は思ったより背丈が高く、2m程度の高さはあった。


炎が彼の視界を遮る。近づくと猛烈な熱があり、壁のように立ちはだかった。強行突破はできそうにない。


一方のアンナベリーは勢いを殺すこと無く、幾度も舞台の上を隅から隅へと行ったり来たりし、あちこちに炎を噴出させていた。


「ちっ!! これじゃ思うように仕掛けられねぇ!! おまけにあいつがどこにいるかもわからん!!」


気づけばいつのまにかザティスは炎の壁に四方を囲まれていた。もし、ここに突っ込まれでもしたら周囲の炎でダメージを受けてしまう。


もしかしたら祝宙紋唱ハピネス・ドロゥで仕掛けてくるかもしれない。


本気を出した彼女の技に思わず彼は冷や汗をかいた。間違いなくここがこの試合の正念場であると彼は確信し、大きく息を吸った。


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