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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter1:群青の群像
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対屍部隊編成

ファイセルのチームメイトであるアイネは清々しい朝を迎えた。


二階の窓から学院のある浮島が遠くに見える。


彼女の家はルーネス通りからは少し遠い、閑静かんせいな住宅街にある。


窓枠に手をかけると手元に何かいるのが見えた。


目をらすとピンクのカエルが張り付いている。


もしや、誰かの使い魔ではないかと思った。


「アイネ・クラヴェール。リジャントブイル魔術学院から緊急招集です。ヒーラーとして課外活動が課されています。至急学院に向かい、掲示板で内容を確認してください。ケロッ!!」


 カエルはすぐに破裂して跡形もなくなった。


緊急招集はなんだろうとのんびり考えながら、朝食を取り家を出た。


アイネの場合、スローペースなせいで、学院まで30分はかかる。


えっちらおっちらたどり着いて掲示板を詠む。


「え~っと、下記のヒーラー専攻の学生はミーティングルームに集合?」


自分の名前が掲示されていた。


ミーティングルームに入ると30人ほど集まっている。


制服の色から全学年から選ばれた面々だ。


研究生エルダーまでもが参加するとは大事が起こっているとアイネは思った。


腰ほどまである長い群青色の髪の男性教師が壇上だんじょうに立った。


「私は今回の課外活動を担当、指導する教師、スヴェインだ。よろしく頼む。え~、早速だが新聞を読んでた者ならわかるかもしれないが、南のトーベ国の鉱山で昨日、大規模な落盤事故があってな。事故当時、鉱山で働いていた500人以上が行方不明者だ。死者200名以上という情報も上がってきている」


スヴェインが手元の資料を元に情報を発表していくとミーティングルームがどよめいた。


「知っての通り、トーベ国は我が国の友好国だ。国内の人手だけでは救出活動が困難という救助依頼の連絡が王都に入っていて、ライネンテはそれに応じて軍隊を派遣して援助するそうだ。それに我々リジャントブイルの学生も加わることとなった。これが今回、諸君らに課される課外活動の内容だ」


緊急招集でしかも危険な鉱山での活動とあって多くの生徒が不安を口にしだした。


その様子を見かねてスヴェインは手を叩いて私語を止めた。


「ほらほら、落ち着け。なんのためのエルダーだ。お前らもう少し先輩を信頼しろ。チームに1人は必ずエルダーの生徒を入れてバックアップさせるから実習気分で任務を遂行する気でいなさい。私も引率として着いていくわけだし。まぁサポート側なのであまり腕っぷしは期待しないでほしいのだが」


スヴェインはなんだか申し訳なさそうにエルダー達に生徒を頼むように目配せした。


見る限りは全員が全員ヒーラー専門というわけでは無いようで武器を持っている生徒も混ざっている。


エルダー達からの合点の視線を受けスヴェインが真剣な顔つきになる。


「君らの任務は行方不明者の救出やけが人の治療だけじゃない。大量に人が死んだという事は強力なアンデッドが発生して坑道内をウロウロしている可能性が高い。だからトーベだけでは対処できんのだ。正直、鉱山崩落の危険性よりむしろアンデッドの危険性の方がずっと高い。だから出来る限りただのヒーラーでは無く、不死者アンデット戦を得意とする生徒を集めたのだ」


スヴェインは教室を見渡して満足げにそう言った。


「一応、我が国軍も協力してくれるが、基本的にはけが人の搬出やマギ・マインによる脱出口の確保や埋もれた箇所の解放のみだ。不死者アンデッドの対処に関しては我々が全て請け負うことになっている。一騎当千とまではいかんが、ここまで計算して練度の高い特殊部隊が組めるのはウチくらいしかないからな」


スヴェインは映写機を使ってボードに鉱山の図を写しながら説明を続けた。


「坑道への進入路は十数か所ある。1チーム3人の7チーム編成の少数部隊でこの進入路を手分けて探索する。坑道は狭いから大人数だとかえってやりににくくなるからな。最下層のあたりにまだ大勢人が取り残されているとの情報がある。とりあえずは最下層をめざし、坑道を下ったり、昇降機などがあれば適宜それを使ってくれ。地表から浅いところは国軍にまかせて、諸君らは下層側から脱出経路を切り開いていってほしい。ではチーム分けを発表する


クラス全体がスヴェインの指示通りチーム編成が完了していく。


アイネ達のチームはエルダー、ミドル、エレメンタリィの三学年で構成された。


他のチームも同じ編成のようだった。


「命を預ける仲間だ。自己紹介をしっかりして互いの能力を把握しあい、チームとして最高のパフォーマンスが発揮出来るようにしてくれ。では、30分後、学院裏の浜辺から学院のワイバーンを使って一気にトーヴェまで向かう。各自準備を怠らないように!!」


生徒全員が返事をして、ミーティングは解散となった。


「初めましてッス。今回リーダーを務めさせていただく研究生エルダー2年目のアンナベリー・リーゼスッス。よろしくお願いするッス!!」


 暗いえんじ色をした制服の背の低い少女がお辞儀をしてきた。


腰ほどまである桃色の美しい髪がれる。


背中には身の丈の2倍はあるかという大剣を背負っていた。


それにしてもかなり身長が低い。


リーリンカと同じくらいで140cmちょいといったところだろうか。


ひどく幼く見えるが、よくよく考えればエルダー2年という事でエレメンタリィ4年、ミドル3年を修めなければ進級できない学年だ。


最年少だとしても22歳にはなっている。


最初は思わず少女だと思ったが立派な大人の女性である。


だが背も小さいし、童顔だし、どっからどう見ても年下にしか見えない。


「あ……あの、本当にエルダー2年さんなんですか……」


思わずアイネは聞いてしまった。


「みんなから同じようにいわれるッス。個人的にその点は若干コンプレックスでもあるので突っ込まないでやってほしいッス……」


微妙な空気になってしまったが、すぐにアンナベリーが立て直した。


「で、見て分かる通り、得意なのは大剣での接近戦ッス。こう見えてもスタミナには自信があるッスので相手の攻撃を一手に引き受けて頑張るッス!! 私がみんなを守るので、安心してついて来てほしいッス!! 一応ルーンティア教のチャーチガーディアンも務めさせてもらってるので、アンデッドもどんと来いッス!!」


彼女は指出しグローブをギュウギュウいわせながらはめ直し、ニコリと笑った。


頼りになるようなセリフだが、見てくれからは正直とても戦えるようには思えない。


ただ、リジャントブイルにはこういう見た目と実力のギャップが激しい生徒がゴロゴロいる。


きっと腕が立つのだろうなとアイネは思った。


「では私も自己紹介を。ミドル2年目のリンチェ・ティンバーです」


深緑の制服の上から白いローブを羽織はおった女生徒が前に出る。


背中に長弓を背負っている。


黒髪のショートカットでクール系の印象を受けた。


「ここにいる皆さん方と同じく、初等科エレメンタリィ中等科ミドルと治療系の魔法を勉強してきました。中でも解毒系の呪文が得意です。弓はミドルに入ってからですが、それなりに使いこなせるようになりました。ただのゾンビくらいなら聖属性にエンチャントした弓で一撃で浄化できます。今回は前衛のアンナベリーさんが居るので安定して戦えると思います」


アンナベリーがそれに応じ、首を縦に振る。


最後に残ったアイネが自己紹介を始めた。


「私は初等科エレメンタリィ4年目のアイネ・クラヴェールです。私もルーンティア教徒ですので治癒魔法とは別に対アンデッドの心得こころえがあります。お二方のようにまだ攻撃系のスキルがない為、守っていただく形になると思いますが足手まといにならないように頑張ります!!」


おっとりした彼女が頭を深く下げて一礼するとチームメイト達が微笑ほほえんで迎え入れた。


「ん~、にしてもみんな女の子ッスねぇ。集まったのは男女半々くらいだったんッスけどね。なんか女子会みたいッスね……」


アンナベリーが冗談を言って空気を和ませる。


「さて、おちゃらけも程々にして、戦闘の作戦とか、フォーメーション、立ち回りの打ち合わせを出発するまでに練るッス。ここで手を抜くと後で痛い目をみかねないッスからね」


三人は時間ギリギリまでお互いがベストを尽くせる戦い方をシミューレートした。


準備が終わったので学院所有の巨大な翼竜、ワイバーンの大きなゴンドラに一同は乗り込んだ。


その頃、ファイセルはヨーグの森のそばの街に到着していた。


案の定、荷を積んだウィールネールが3匹ほど止まっている。


明らかに村の規模に似つかわしくない人通りの多さだ。


ヨーグの森から先に南下できず、足止めを食らっているのだろう。


とりあえず村の小さな銀行に寄り、大量に余ったお金を預けた。


銀行を出ると商人が数人、銀行の出口で待っていた。


「おい、そこの兄さん」


キャラバンのリーダー格らしき商人から声をかけられた。


「あんたその制服、北の学院の学生さんだろ? 今日の朝、通りがかった3人組の冒険者にアテラサウルスを倒してくれるように金を払って頼んだが戻って来んのだ。まさか餌食えじきになってしまったのではないだろうかと不安に思っている。様子を見に行きたくても我々では怖くて森に入れんのだ。そこで、学院生の腕を見込んで様子を見てきてくれるよう頼みたい。うちのキャラバンで報酬は出す。どうだ? やれそうか?」


ここでも学院生と認知されているのかと少し驚く。


だが、この商人たちも自分と同じくミナレート周辺から南下してきた者が多いはずだ。


それなら一目でリジャントブイル関係者だと思われるのも合点がいく。


商人達は一度に財布を取り出て金を出すような素振りを見せたが、とりあえずそれを止める。


「僕も南下する予定でしたし、とりあえず様子を見てきます。僕が森から無事に帰ったらそのお金はもらう事にしますよ」


まだ何もしていないのにお金をうけとるのはファイセルとしては納得がいかなかった。


「おい、あんな小僧一人で行かせて大丈夫なのかよ。誰かついてってやれよ」


「やだよ。お前が行けよ。俺ぁまだ死にたくねぇ」


 商人達が不安がって文句をたれる旅人たちに言った。


「お前らリジャントブイル魔術学院を知らんのか? あの制服、彼はそこの生徒さんだぞ? そんじょそこらの冒険者と一緒にしたら大間違いだ。きっとこの状況を打開してくれるだろう」


少年は随分買い被られたもんだなと思いつつ薄暗いヨーグの森へ入って行った。

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