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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter3:Road to the RygiantByilie
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アンラッキー・シャワー

ピタリと立ち止まったアシェリィを心配して、彼女の顔色を他の2人は覗き込んだ。


「アシェリィ、大丈夫かい? 木陰で休憩していくかい?」


ファイセルは彼女を気遣ってそう尋ねたが彼女は首を左右に振った。そしてカバンからサモナーズ・ブックを取り出してうつむいていた顔を上げた。


「ならば夕立を降らせばいいんです!! サモン・アクアマリン・ランフィーネ!!」


アシェリィが持っている辞典のように分厚い本のページがパラパラとめくれ、やがて水に淡く輝く拳より大きい程度の幻魔が姿を現した。


「それっ!! ヒーリン・レイン!!」


その掛け声と同時にランフィーネは空へと舞い上がって空の青さに溶けた。すると彼女らの頭上にもくもくと真っ白な雲が生まれた。


間もなく、その雲からアシェリィの周りにザーザーと雨が降り出した。恵みの雨が彼女たちや周囲の旅人達をを優しく包んだ。


「こ……これは……。師匠せんせいがアシェリィを弟子にとったのも頷けるね。サモナーはこういう形で天候魔法もカバーできるんだね」


「ほー、器用な事やるじゃねぇか。よく思いついたな。日照りの続いてる地域だとこういう能力は重宝されるかもなぁ」


しばしの涼にその場は癒やされたが、その平穏は突如、謎の轟音によって破られた。激しい地鳴りのようなものが聞こえる。


音だけではない。あたりの地面は振動していた。音の主に街道を行く人が気づくのに時間はかからなかった。道端の大きな岩が重い体を持ち上げるように動き出し、立ち上がろうとしていたのだ。


(ワレノネムリヲサマタゲルモノハダレダ……ユルスマジ……ワレノネムリヲサマタゲルコトナンピトタリトモカナワン……コザカシイミズノゲンマメ……)


「ハッ!! この大きな岩、幻魔です!! どうやら私が雨を降らせて眠りを邪魔したのを怒ってるみたいです!!」


アシェリィはそう言って立ち上がりつつある大岩を指差した。周りでは旅人や商人達がパニックを起こし、散り散りに逃げていった。


岩が立ち上がるのに時間があったということもあって逃げる時間は十分にあった。そうこうしているうちにその場に残ったのはファイセル達だけになった。立ち上がった岩は4m近くありそうな巨体だった。


「ゴーレムか……僕らには話が聞こえないけど、怒ってるんじゃ素直に通してくれないかもね……」


それを聞いてか聞かずか、岩の幻魔はのっしのっしと移動して行く手を塞ぐように立ちふさがった。3人はその巨体を見上げた。


頭に胴体、脚、腕と人型をした幻魔だ。動きは鈍いが見るからにパワータイプだ。薄着で防御力が下がってる今、下手に攻撃を受けるとタダでは済まなそうだった。


ファイセルとアシェリィが戦闘態勢で身構えるとそれを制止しながらザティスが前に出た。


「ファイセルは打たれ弱いし、今はコイツに大きなダメージを与えられる類のアイテムはねぇ。アシェリィもだ。っつーことでここは俺にまかせろ。2人は下がってな」


そう言いながら不敵に笑いながら狂犬は一人前に出た。それを心配してアシェリィは思わずファイセルに声をかけた。


「ファイセルさん!! ザティスさん一人で大丈夫なんですか? 私達も何か手助けしないと!!」


危機感を露わにする彼女にファイセルは手のひらをひらひらふって微笑んだ。その表情には緊張感の欠片もなかった。そんな対応をされてアシェリィは唖然として思わず黙りこんでしまった。


「あー、大丈夫だよ。ザティスなら。まぁ見てなって……」


そう会話しているそばからゴーレムが地面のザテイスめがけて強烈なパンチを放った。彼ははジャンプしてそれを軽やかにかわし、地面にめり込んだゴーレムの腕の上に立った。


「クイクリー・モーヴス!! 遅い!! 遅すぎるぜ!! 続けてのバフォブ・ウォルタ・グランティア!!」


ザティスが素早く詠唱すると彼の体がかすかな淡い水色に光った。そして素早くゴーレムの腕を駆け上がって肩の上に上り、ゴーレムの頭部めがけてローキックを放った。蹴りはクリティカルヒットして頭部を一撃で気化させた。


「まだだ!! ローからのッ!! ヒール・ウォルタ・フォール!!」


ザティスはそう言いながら力を込め、頭があった部分めがけてかかと落としを決めた。その一撃でゴーレムの胴を真っ二つに切り裂くように亀裂が入った。。


「ほらみなよ。ザティスは格闘と魔法のハイブリッドで戦えるんだ。体を水属性にエンチャントすることもできるから岩にはめっぽう強くてね。並みのゴーレムならまず苦戦することはないんだよ」


胴に切れ目を入れられた岩の幻魔は全くひるまずに着地したザティスを両手で左右から平手打ちにして押しつぶそうとした。猛スピードで両方の手のひらがせまってくる。


「だからトロいってんだよ!!」


彼は華麗にバク転を決めて幻魔との距離をあけた。そしてすぐに態勢を立て直し、再度駆けよって蹴りの連撃をお見舞いした。


「トレント・ナックル!! うらうらぁ!!」


連撃は鮮やかに決まり、岩はもくもくと黄土色の幻気を上げたが、蒸発して倒せる気配はない。岩の幻魔は想像以上にタフだった。頭を吹き飛ばされてもびくともせず、攻撃を繰り出してくる。


「ちっ、なんだコイツは。ただのゴーレムじゃねぇな。さすがは幻魔ってところか。しぶといやつだぜ」


「ザティスさん!! 幻魔は”痛み”を感じないんです!! ですから怯むことがないんです!! 気をつけて!!」


一方のファイセルと注意を促したアシェリィの2人はむやみに前に出ず見守っていた。決して勝てないわけではないのだが、相手が頑丈すぎてあと一歩及ばないといった感じだった。2人がそろそろ助太刀に出ようかと考えていた頃、アシェリィがサモナーズ・ブックの変化に気づいた。


「あれ……? 本の水幻魔のページが光ってる? これは……ザティスさんの水属性エンチャントと反応してるんだ!! これが師匠せんせいから教わった”属性と幻魔の呼応!!” それならこれで!! リリース・ジ・エレメンタル!!」


アシェリィは本を両手で開いてザティスに向けてページ側をかざした。サモナーズ・ブックは激しくめくれ、水属性の幻魔のページを行ったり来たりした。するとザティスの体の周りのオーラが水色にキラキラ光りだした。


「こ……こいつぁ……。水属性エンチャントが俺の限界を超えてやがる。アシェリィか?」


ザティスは自分の手や足がきらめていているのを驚いて少し見つめた。彼が気をとられているうちに岩の幻魔は平手でザティスを潰しにかかった。


「これなら行けるぜ!! 一気に決める!! 喰らえ!! ハイ・パームショット!!」


迫ってきた両手めがけて思い切り両手ではねのけるようにザティスは掌底を放った。それが直撃したゴーレムの手のひらは一気に煙を上げて気化した。


「追撃だ!! 濁流のデッドリー・ダンス!!」


続けて隙だらけになった胴にキラキラと光る拳と蹴りのコンビネーションの連撃が浴びせられた。その攻撃はまるで精霊の舞を見ているようでファイセルもアシェリィも思わず見とれた。


岩の幻魔は削られるように攻撃の当たった場所から次々と煙となってかき消えていった。そしてついにゴーレムは行動不能なまでに穴ぼこだらけになり、幻気の塊となって蒸発していった。ザティスは消えゆくゴーレムに背を向けると両手をパンパンと叩いた。


「ま、ざっとこんなもんだぜ。アシェリィ、また助けてもらっちまったな。にしてもほんとにサモナーって器用なもんなんだな」


本を閉じたアシェリィはそれに笑顔で返した。その顔は少し照れているようにも見えた。


「確かにサモナーは色々出来るんですけど、全く魔法の使えない”エンプ”の人たちと区別はつきにくいし、サモナーになれたとしても、幻魔との契約の過程で未熟なうちに死んでしまうケースが少なくないそうです。向こうから仕掛けてくる幻魔も居ますからね。私だって、お二人がいなければヒスピスもこのゴーレムにも勝てませんでしたし……」


サモナーについて語るアシェリィにファイセルが気になったことを指摘した。。


「あれ? あの幻魔との契約はしなくていいのかい?」


その問いにアシェリィは目をつむって残念そうに首を横にふった。そして脇に抱えたサモナーズ・ブックをトントンと指差した。


「ほら、倒したのに契約の証が出なかったじゃないですか。きっと、あの子は私が扱うにはまだ早すぎたんです。あれだけ強力な幻魔ですし、何より私には石・岩属性幻魔とのコネがほとんど無いですからね。相手にもされないってとこでしょうか」


「ふむふむ。なるほど……」


ファイセルは興味深げに顎に指を添えながら頷いた。師匠せんせいには聞かされていたが、幻魔界の社会は権利主義で属性間は組み合わせによるが基本的に排他的だという。推察するに水属性に近いアシェリィが岩属性の幻魔に嫌われるのは仕方ないことと思えた。


そんな話をしているうちにランフィーネの雨は切れて、再び太陽が姿を表していた。ザティスは両手を広げて手のひらを空に向けながら雨がやんだのを確認した。


「すっかり涼しくなったぜ。暑くなる前にさっさとティアランに向かおうぜ」


「そうだね。立ち話もほどほどにして、行こうかアシェリィ」


「はい!!」


三人の行く先の空には彼らの旅路を祝福するかのように虹が輝いて見えた。

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