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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter3:Road to the RygiantByilie
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大きな迷子と千客万来

気づくとゾヨゾヨじいさんの店の前は人だかりが出来ていた。普段あまり目にしない珍しい精霊が宙を漂っていたからだ。じいさんとアシェリィは顔を見合わせて互いに笑みを浮かべた。


店が繁盛すれば彼の助けになるだろうと彼女はサモナーズ・ブックからポンポンと水の無名下級幻魔を呼び出して客引きに使った。


この程度の幻魔ならば数を呼び出してもバテることはない。市場の人々は昼間なのにぼんやりと美しい水色をたたえて光る小さな精霊達に魅了された。みるみるうちに店の商品は売れていき、まだ午後三時ごろなのに、露店の商品はすべて売り切れた。


「オジョーサン、ホント、カンシャ。キット、セーレイサマ、ツカイ、チガイナイ。」


人が段々とはけていくと人だかりの奥から見慣れた顔が覗いた。黒髪の青年、ファイセルだ。彼は額に大粒の汗を浮かべながら膝に手をつきながら喋り始めた。


「ハァ……ハァ……見つけたよアシェリィ!! 幻魔の光を見てもしかしたらと思って!! 一度、像の周りも見に来たんだけど、まだ君は来てなくって。なにはともあれ再会出来て本当によかった!」


やりとりを見ていたゾヨゾヨは目を細めながらニヤリとアシェリィに微笑みかけた。


「マチビト、キタレリ。キット、セーレイサマ、ゴカゴ」


「ゾヨゾヨさん、本当にありがとう。おかげさまで先輩を見つけることが出来ました!!」


彼は再びニッコリと笑いながら、路地に敷いた布を畳んで店じまいをはじめた。アシェリィは探し人に出会えたし、もう売るものが無くなったのできっともう里に帰るのだろう。


ファイセルは彼の方を向き直ってお辞儀をしてお礼を伝えた。アシェリィもお礼を渡そうと声をかけた。


すると彼は片付けながら空いた方の手をひらひらと振って「お礼は構わない」といった意思を示したようだった。


「ゾヨゾヨさん、またいつか、ゆっくりお話してみたいですね」


別れ際にタコ頭のじいさんに声をかけるとじいさんは満足気に触手を揺らしながら布を背中に背負い、曲がった腰で歩きながら街中の人混みの中に消えていった。


「はーっ、ごめんねアシェリィ。僕が目を離したばっかりにこんな事に。ああ、ザティスは別行動で君を探してる。ここで落ち合う予定だから待ってれば来るハズさ」


アシェリィは改まって謝るファイセルを見てあたふたしだした。そして両手をかざして左右に振り、顔をあげるように促した。


「い、いえ、私がどんくさかったのがいけませんでした。……それに、いい事もありましたし、気にしないでください」


2人がしばらく龍殺しの戦士像のそばで待っているとザティスがやってきた。背が高く、頭一つ抜けているので人混みの中でも目立った。


もし迷ったままでもザティスなら見つけられたのではないだろうかとアシェリィは思った。あちこち駆けずり回ったはずだが、疲れの色は全く見えない。息が上がっていたファイセルとは対照的だった。


「よお。見つかったみてぇだな。無事で見つかってなによりだぜ。んじゃ、さっさと買い出しを済ませちまおうぜ」


「ザティス、ご苦労さん。そうだね。なんだかんだで結構時間が経ってしまったね。手早にアシェリィの必要品を用意して宿を確保するとしようよ」


ファイセルの提案通り、3人は市場を回って地図やランタンなど冒険に必要な細々としたものを揃えていった。市場を見て回るとファイセルが足を止めた。露店で何か見つけたらしい。


「あ、そうだ。緊急時の時のために海軍レーションを買い込んでおこう」


アシェリィは不思議そうな顔をして露店を覗き込んで彼に聞き返した。


「海軍レーションって何ですか?」


ファイセルは振り向くと思わず苦笑いした。いかにも曰くつきの品であるといった風である。レーションを手に取りながら指差した。彼の苦笑いは止まらない。


「そうだよね。こんなの食べたことないよね。これはライネンテ海軍レーション。ちょっとかじっただけで空腹感が癒えるマジックアイテムさ。栄養価も高くってすごい便利なんだけど……とにかくマズイんだよ。海軍の技術力があればおいしいのが作れそうな気もするんだけど、なんでもマズいところに”ミソ”があるらしい。食べてみるかい?」


その提案を普通なら断るところ、アシェリィはワクワクしていた。先ほどのセークの実もそうだったが、未知の味を味わうというのは冒険の醍醐味だと考えていたからだ。


ファイセルがいくつかレーションを買ったものの1つを受け取って箱を開けてみた。銀紙をはがすと四角形でハチミツを固めたような色をした携行食が姿を現した。


アシェリィは意外と豪快に戸惑うこと無くレーションをかじった。薄め損なったアマアマ麺つゆのようなあまじょっぱい味がする。それはともかく、直後に若干鼻にくる青臭い風味がツーンとやってきた。まるでセロリのような青臭く、刺激的な風味である。


「ん~、マズイと言われれば確かにマズイですけど、食べられないってほどじゃないですけどね……」


マズイと嫌悪感を露わにすると思い込んでいたファイセルはそんなリアクションに少し驚いたが、彼女の表情が晴れないのを見て言及した。


「あれ、いけるクチかい? 僕の周りでは苦手な人多くてね。ついつい顔をしかめるくらいの人も多いよ。まぁなんだかんだで君も仏頂面になってるけどね」


そう指摘されてアシェリィも苦笑いを浮かべた。一口かじったレーションを包みに戻し、ファイセルの許可をとってから肩掛けカバンにしまった。すぐに空腹を埋める効果は現れ、少しだけ小腹の空いている状態からお腹が満たされた状態になった。


市場には他にも武器や防具屋があったが、武器の面ではファイセルとザティスには特別新しい物は必要無さそうだった。ファイセルに至ってはどこに何を仕込んでいるかわからない程に武器を携行しているようだったし、ザティスは話を聞く限り格闘と魔法で戦うとのことだった。


アシェリィだけ丸腰だったので、何かしら武器が必要だろうとファイセルとザティスは相談し始めた。


「えーっと、サモナーの装備ってなんだろうね。魔術師お馴染みのワンドでもいいんだろうけど、アシェリィは直接魔法を使うわけじゃないから恩恵は少ないか……」


考えこむファイセルを見て思いついたようにザティスが経験談から語りだした。


「そうだな、テイマーやサモナーの連中がよく使ってるのはタクト(指揮棒)なんかだな。武器としての性能はいまいちだから今んとこはいらねぇかな」


そう話をつけてアシェリィの武器は見送ることにした。防具の面ではファイセルは体をすっぽり覆う濃い紫色のライラマ・ローブの下にリジャントブイルの深緑色の制服を着ていた。


防具としての性能面ではこれで十分で、下手な鎧よりは強度があるという。ザティスも深緑色の制服を着ていたが、むやみに目立たないようにマントを羽織っていた。


アシェリィはファイセルと同じローブをまとっていたが、まだ鮮度の高くパステルのライラック色をしていた。下はブラウスにスカートという軽装だったので、装備を整えることになった。


防具屋で女性向け防具一式を購入し、体の脆い部分を補うように装備を変えた。見た目は今までと大してかわらないブラウスとスカートだが、軽量な胸当てと脚部を守るニーハイソックス、ロングブーツを新調した。


どれも低級だが魔法強化エンチャントされた品であり、有ると無しとでは大きく防御面に差が出るという。


道具や装備を整える資金はファイセルがオルバから受け取っていた。彼の生活を見るに、一体どこから現金を得ているのかは謎だったが、それでもしっかり旅の資金を用意してくれていた。もっとも、資金はそれほど高額ではなかったので装備一式を整えると底をついてしまった。


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