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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter3:Road to the RygiantByilie
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帰ってきた兄弟子

シリルの爆破予告騒動からおよそ一月、アシェリィはオルバとの修行を終えてアザリ茶を飲みながら2人で談笑していた。その最中、オルバがポツリと口に出した。


「あ……お客さんだ。ファイセル君じゃないかな? ……でももう一人居るね。誰だろう。お~いカッゾ。通してやってよ」


「あいよ~」


扉の向こうからオヤジのダミ声のようなカッゾの声が響いた。彼は本当に頑固な職人気質のオヤジといった人間臭い性格で、泉のほとりの霧と、隠れ家への出入りを徹底的に管理している。オルバが居眠りしてまかせるほどそのセキュリティの精度は高い。


しばらくすると扉をノックする音がした。


「どうぞ。入りたまえ」


師匠せんせい、ファイセルです。お邪魔しますよ」


そう言うと木のこじんまりとした扉が開かれた。入ってきたのはファイセルだった。艶のある黒髪と愛嬌のある黒い少年のような瞳は相変わらずだ。


「やぁファイセル君。元気そうでなによりだ。ところでそちらのお客さんは?」


オルバは家の外にとどまっている青年を見て尋ねた。


「あ、ああ、彼はザティス。ザティス・アルバールって言います。今回、彼は王都ライネンテへの帰郷の予定だというので同行してくれる事になったんです。魔法・拳術を織り交ぜた戦法のグリモアル・ファイターです。前衛が居ないと心細ないですし……」


外にいる人物は遠慮しているからか、なかなか中に入ってこない。それを見たオルバは気を利かせて外の人物を部屋に招き入れた。


「あー、君、そんなにかしこまることはないよ。入りたまえ」


その言葉を聞くと180cmを超える巨体が前かがみになって扉から入ってきた。茶色の短髪の彫りが少し深く荒っぽそうな青年だ。


「んじゃあ遠慮なしに。はじめまして。俺はザティス・アルバー……」


入ってくるなり青年は自己紹介をし始めたがなぜか途中でそれをやめてひどく驚いた様子でオルバを指差した。差した指はかすかに震えている。


「お、おい。……マジかよ。アンタ、リジャントブイルのコロシアム連勝記録を持つ遊幻ゆうげんのクレケンティノスじゃねぇか!?」


彼は目を見開いて大きな声を上げた。それにアシェリィは驚いて少し怯えた。指さされた当の本人はきょとんとした顔で大男の方を向きなおった。暫くの間、沈黙が場を支配したが、割って入るようにファイセルが一言つぶやいた。


「いや、違うよ。きっと他人の空似だと思うよ」


大男はそれを聞いてもなお呆然としてつぶやくように語り始めた。


「確かに……確かに雰囲気は違うが、あんたはクレケンティノスだ。目に穴が空くほど映像を見た俺が言うんだ。間違いねぇ……」


ザティスはそんなはずはないとばかりにもう一度確認をとった。


「そ、そんな。どこからどうみてもクレケンティノスにちがいねぇ……」


するとオルバはその言葉もはねのけて手のひらを前に付き出した。そして脇目でチラリとアイサインをファイセルに送った。


「いいや、知らないね。私の名前はオルバ。二つ名がついてるから今はファーストネームしか無い。それに、クレケンティノスなんて名は聞いたことがないなぁ」


そのアイサインを見てファイセルが選んだ選択肢は”秘匿”だった。ハーミット・ワイズマンのセオリーである。疑念の気が晴れないザティスに追い打ちをかけるように伝えた。


「ねぇザティス、やっぱ違うよ。オルバ師匠せんせいはクレケンティノスじゃないって。僕、そんな話一度も聞いたことがないし。出身学校も違うよ」


それを聞いて我に返ったのか、彼は自分が初対面の人物に非礼な詮索をしてしまっている事に気づいた。そして態度を改めて深めに会釈をした。


「あ、こりゃすまね……いや、すいません。人違いだったんなら謝ります。挨拶もそこそこですいません。俺はザティス・アルバールって言います。よろしくお願いします」


それを聞くとオルバは軽く微笑んで場の緊張をときほぐした。場の空気は一気に和らいでその場の皆の肩の力が抜けた。


「何、気にすることはない。私が創雲そううんのオルバさ。そしてこっちの女の子が私の―――」


オルバはそういうとアシェリィのほうを向き直り、彼女を紹介し始めた。


「彼女が私の二番弟子、アーシェリィー・クレメンツ。召喚士サモナーの適性がある。もっとも、まだ駆け出しでね。今は実戦に耐えうるほどの力はないんだ。君らと同じようにリジャントブイル魔法学院を目指しているんだよ」


オルバはそう言うとテーブルの上に置いた厚い図鑑のような本をポンポンと叩いた。そして机の上から本を手に取り、ファイセルたちにパラパラとめくってみせた。


「これがサモナーズ・ブック。どう? さっぱりわからないでしょ。ここには幻魔達との契約内容なんかが記されているんだけど、幻魔って結構気まぐれだからね。その時その時でサインが違ったりするんだよ。だからこのサモナーズ・ブックを写しても本人、つまり私以外は使えないのさ」


オルバは本をトントンと手に当てながらアシェリィの方を見つつ話を続けた。


「ちなみに私が召喚した幻魔はアシェリィとは契約できない事になってる。あくまで私と契約してるわけだからね。結局、呼び出せる幻魔を増やすには地道に足を使って契約していくしかないのさ。だから君たちには彼女の護衛を依頼したわけだよ。幻魔と契約できるかどうかによって入試の結果は決まるからね」


それを聞いていたファイセルはオルバに質問をなげかけた。


「幻魔契約の必要性についてはわかりました。もう少し彼女の能力について教えて下さい。彼女のカバーとフォローをするには予め実力を詳しく聞いておく大切だと思いまして」


オルバとアシェリィは顔を見合わせてどちらが説明するかをめくばせしていたが、結局アシェリィが譲る形で賢人に解説は委ねられた。本人が説明するより客観的に見たほうがより実情に近いという判断も会ってのことだ。


「ん~、そうだな~。まず、主力である幻魔だけど、級のつけられないくらい”無名下級”の幻魔と数体契約しているね。さっきも言ったけど、実戦で戦えるような攻撃力のある幻魔はまだ居ない。サモナーとしてはまだ何も出来ないと言っても過言じゃない。修行期間が足りなくて下地の完成が限界だったのさ」


オルバはアザリ茶を一口飲んで喉を潤した。そして自信ありげに人差し指を振りながら解説を続けた。


「ただ、旅の足手まといにならないように召喚術の”センス”はみっちり特訓してある。肉体エンチャントに似た効果を幻魔を介してやるってアレだね。素早さを上げる”アジリティ”、打たれ強くなる”スティール”を特に鍛えておいたよ。力もあれば良かったけど、とりあえず簡単に死なない事が重要だったからそっちは完全に後回しだね」


ファイセルは興味深そうな表情で尋ねてきた。特にどれだけ打たれ強いかという点は重要なポイントである。うっかり適性を誤ってフォーメーションを組んだりすると命を落としかねないからだ。


「ん~、なんだかんだでファイセルくんより打たれ強いんじゃないかな。君の使う魔法の性質上、あんまり肉体エンチャント得意じゃないからしょうがないんだけど。だけど肉弾戦が出来るほど丈夫じゃないから注意が必要だよ。くれぐれも前線に放り出したりしないように。幻魔が充実しないうちはやっぱり無茶だからね」


そう説明したオルバは額に指を当てて何かを思い出すような仕草をした。きっと他に彼女についての情報を巡らせているのだろう。他に何が出来るのだろうとファイセルとザティスは彼女の方を見た。


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