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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter3:Road to the RygiantByilie
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猫かぶりの犬

 ウェイストの指先に止まった1匹のヤモリの「コマンダー」がチロチロと下を出して他の1匹のヤモリに命令した。


 キラキラ光る宝石のようなヤモリは素早くペタペタと地を這い、ポストの柱をよじ登り、隙間からポスト内に侵入した。


「ボーンザは本当に郵便物とポストには精通していると聞いてる。いくつかのパターンを想定しないと危険だ。


まずはポスト内の環境は正常。少なくともこのポスト自体は爆弾にされてないね。問題は郵便物本体だけど。手紙を縦横に這わせた時間から異物が付着していないかチェック……ただのハガキだね。


大きな異物もついていないようだね。あとは光に反応するかどうかってとこだけど。一つ一つこのチェックをしていかないといけないね……」


 あとはいよいよポストから取り出して調べるという段階だが、互いが互いを案じすぎてかえって手が出せないような状況に陥ってしまった。


 無責任に誰かに押し付けることは出来ないし、何より専門性の高い者が揃っている。場合によると誰か一人欠けるだけでも作戦成功の成否に影響しかねない。難しい所だった。


「押忍……自分、行きます」


 ずしりと立ち尽くすメンバーの間から前に出てきたのはクラッカスだった。


 彼の覚悟が痛いほど伝わってきて、その場の誰もが彼を止めることは出来なかった。心配する面々をよそにクラッカスはパカッっとポストを開いて中のハガキを取り出した。


「……普通の……ハガキっす」


 一同は安堵の溜息をついた。ウェイストがアシェリイの方を向いた。意見を仰ぎたいらしい。彼女は爆弾の心配がない事を伝えた。


 それはポストの前で立つクラッカスにも伝えられ、彼がこちらにその郵便物を持ってきた。真っ先に手紙を読んだのはカレンヌだった。


「ふんふん……なになに? エンムスビの手紙? もしあなたがこの手紙を友達のポストに入れれば良い殿方と出会えるでしょう……? なんだこれ、イタズラじゃんか」


 カレンヌは拍子抜けとばかりにハガキを指に挟んでヒラヒラ振った。


「いえ……カレンヌちゃん、これはバカにできないわよ。これを信じて実行してしまう女性は結構いると思うのよ……」


「シェアラ姉、なんか目がマジなんだけど……」


 それを脇から見ていたアシェリィは思わず声をあげた。


「やっぱり……聞いていた情報通りですね。どうやらボーンザの爆弾は人から人に、ポストからポストに渡ると強烈になっていくそうです。


だからこういったチェーンメールのような拡散しやすい類の手紙にしているんだという話でした」


 シーポスの面々はその情報を聞きつつ、あれやこれやと話しだした。そうしているうちにハガキは一周してウェイストに渡った。


「みんな、このハガキの変わたところ、わかったね?」


 手紙をしょっちゅう扱う、または扱っていた一同はすぐにわかったようで皆うなづいた。


「そう、このハガキにはこの近辺でみかけない切手が貼ってあるんだ。限定版だねこれは。まるで見つけてくれって言わんばかりだ。ボーンザって奴はかなり大胆不敵なのかもしれない」


 ウェイストは目を細めながらハガキの裏表を眺めている。すぐに爪を立てて切手をハガキから剥がした。


「……よし、念の為に僕のG・ゲッコーズを数匹ずつ渡すよ。アシェリィが察知したポストにシェアラねえ、クラッカス、カレンヌは向かって。


指の上にサブリーダーのヤモリを乗せておくから。そいつがしっぽを振ったら”安全”、クルクル指の上で回ったら”危険”のサインってことにしよう。


危険のサインが出た場合は無理に回収しない事。たとえそこだけ取り逃しても、他を回収すれば爆弾の威力はその分落ちるはず。だから無茶をしないこと」


 ウェイストはそう言いながら少し何やら考えているようだった。


「もしかしてアシェリィの言った相手の能力だとすると、ポスト自体が爆弾になってるケースは無いのかもしれない。


だって、手紙が拡散しないと爆弾の威力が上がらないのだから、開けて即爆破ってのは効率的じゃないね。それに、これだけ奴の郵便物がバラまかれているのにまだポストが爆発したって報告例がない。


もちろん予定通り安全チェックはするけどね。さて、長くなったけど、早速回収しよう!!」


 そうウェイストが言うと、一同の視線はアシェリィに集中した。4人の視線はちょっと気になったが、アシェリィは集中してメディテーション(瞑想)するとゆっくり目を開くと地図を取り出してマーキングし始めた。


 この地図をさわるのも何ヶ月ぶりだろうかと懐かしく思いながらアシェリィは次々と地図上に点を打っていった。シーポスのメンバーの地図にもマークがどんどん追加されていく。


「本局のスタッフが下手に関わると危ない。この爆弾地図は僕らだけで共有するよ。見てみた限り、まんべんなくあちこちのポストに入ってるみたいだね……。


そうだな、これなら4人でいつもの自分の回収コースの半分程度を回れば全部回収できる計算になるね。みんな焦らず、確実に回収していってほしい。あ、あとアシェリィは緊急時のためにここで待機。いいね?」


 ウェイストの指示は迅速かつ的確だった。メンバーはすぐに準備にとりかかることができた。一方でアシェリィは別の問題について考えをめぐらせていた。


(これで全部回収できるわけじゃないんだけど、皆を心配させないように言わないほうがいいよね……。


きっと師匠せんせいの言ってたとおり、アルルちゃんとM.D.T.Fの人たちが回収してくれるはず……今は信じるしか無い……)


そのやり取りが起こるしばらく前、丘犬ことアルルケンはM.D.T.Fのメンバーと接触していた。


「こちらプルネイ、郊外にして大きな獣と遭遇。あれが噂のオルバ殿の使い魔と噂の丘犬殿なのか……? 接触を試みる」

「了解」


 そうイヤリングにつぶやくとヒゲをたくわえた中年の男がゆっくり丘犬へと近づき始めた。


 丘犬はこちらの存在にすでに気づいていたらしく、こちらをずっと見つめている。逃げるといった様子もないのでM.D.T.Fの隊員は丘犬のそばまで寄った。


「貴殿がオルバ殿の使い、丘犬殿であられるか?」


 そう男が問うと、丘犬は見た目に反して礼儀正しく、やわらかな物腰で返答を返してきた。


「いかにも。私がオルバの使い魔、丘犬でございます……。M.D.T.Fのお方ですね? 今は何をなされていますか?」


 想定外の反応に隊員は拍子抜けした。見た目が鋭い狼なので、もっと荒々しい態度で接してくると思い込んでいたからだ。丘犬のほのかに青く、美しい灰色の毛が風にそよぐ。


「あ、ああ。我々三人は爆弾の元を処理しつつ、郊外からボーンザを追い込むように動いている」


「了解いたしました。今現在、オルバの弟子が事態を解決すべく、街の中央で爆発物を処理しているはずです。


いくら武闘派ではないとはいえ、腐っても二つ名持ち。彼らにボーンザの討伐ないしは拘束を担当させるのは無理があるかと思います。


郊外の爆弾処理はすべて私が受け持ちます。ですからM.D.T.F隊員の方はボーンザを追い詰めることだけに集中していただくよう、お願い致します。


可能ならばその旨をオルバの弟子に伝えてください。緑色のウェーブがかった長髪の少女がそれです」


 それを聞いた隊員はなにやらイヤリングで交信しているようだったが、手早く意見をまとめて丘犬に向き直った。


「こちらも了解しました。申し訳ないのですが、郊外の爆発物処理は丘犬様に一任したします。どうがご武運を。お言葉に甘えて我々はボーンザの追い込みに集中いたします。お弟子さん達には被害が行かぬよう努めますゆえ」


 そう言うとM.D.S.Fの隊員は胸に手のひらをあてて、背筋を伸ばして敬礼した。その姿はなんとも勇ましい。その隊員は深くお辞儀をするとまた交信を始めながら街の中心部に向かって走り出していった。


 それを見送ると丘犬、アルルケンは後ろ足で顔をかきむしって頭を大きく左右に振った。そしてやれやれと言わんばかりに鋭い目つきで隊員を見送った。


「かぁ~っ、堅苦しい言葉遣いは疲れるぜ。猫かぶりすんのめんどくせぇんだよなぁ。これもお仕事のひとつとはいえよ。


こういう役はもっとかわいい妖精とか、癒し系の妖精にやらせときゃいいだろ。全くオルバも手間はぶきやがって。人使いが荒い野郎だぜ」


 そう吐き捨てるように彼は言うとすぐに爆発の元の臭いを嗅ぎ、処理するべく郊外の野原を駆け出した。


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