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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter3:Road to the RygiantByilie
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2人の二つ名持ち

 姿を見せぬままだったが声の主の”影”はなにやらこわばっている様子だった。そんな彼が口を開いた。


「オルバ殿、斬宴ざんえんのモルポソという者をご存知ですかな?」


オルバは顎に手を添えてぼんやりと考えだした。


「モルポソ……モルポソ……。さて、アシェリィ、誰だかわかるかな?」


 いきなり話を振られたアシェリィはすこし慌てたが、モルポソは”その界隈”では超有名人だ。それなりに勉強してきた彼女にはそれがどんな人物なのかわかっていた。


斬宴ざんえんのモルポソ……。6年ほど前に歴史の表舞台に姿を現した大量殺人鬼シリアルキラーですね。なんでも二つ名の通り、リッパーズ・エッジを用いて相手を切り刻むとか。


有名人ばかりを狙っていてライネンテの賞金首になっているはずです。数年前に追手を巻くために潜伏して以来、行方知れずだったはずですが……」


 影が叩いているのか、乾いた拍手が森の中に響いた。


「これはこれはお嬢さん。まだお若いのによくおわかりで。単刀直入に言いましょう。斬宴のモルポソが活動を再開し、王都方面からシリルへ南下してきました。


我々は彼を追っていますが、何分素早いもので振り切られております。そして、今回モルポソのターゲットは……創雲のオルバ、貴君です」


 それを聞いてアシェリィは不思議そうな顔をした。


師匠せんせいを? またまた~。そんな事して何の特になるっていうんですか。先生は賞金首じゃないし、お金もココにはないですよ。あっ、有名人狩りってそういう事ですか……」


「こら、アシェリィ、もうちょっと師匠の身を心配しなさい」


 森の中からわざとらしい咳払いが聞こえた。影は間の抜けた内輪もめにペースを乱されて困惑しているようだった。


「ゴ、ゴホン。オルバ様だけがターゲットなら私がここに来る必要はありません。手紙か何かで十分でしょう。


しかし、今回は事情が事情です。……あの、お弟子さんが居らっしゃいますが、オルバ様ご本人だけにお伝えしたほうが良いのでは?」


 すっかりすっとぼけていたオルバはその振りにハッっとして少しだけ真面目な顔に戻ったが、すぐにおっとりとした表情に戻ってそれに答えた。


「なぜに? 弟子が聞いちゃマズイような内容なのかい?」


「べ、別に悪くはありませんが、きっとお弟子さんにも危険が及ぶでしょう」


 影は戸惑った口調になった。この2人相手だと非常にやりにくいなと影は内心呆れながら話を続けた。同時に本当にこれが名高い雲の賢人なのかと若干疑いはじめていた。


「かまわんよ。話してくれたまえ」


「……では……。今回、モルポソはテロリスト”郵爆のボーンザ”とタッグを組んでいます。


オルバ様はよほどの事でもなければ手合わせしないと踏んだモルポソは、シリルの街を人質にするつもりなのです。


もし、オルバ様がモルポソを相手にしなかった場合、シリルの街はボーンザの魔法によって大爆発。木っ端微塵に……」


「!!」


 アシェリィの表情が一気に深刻なものにかわった。


「アシェリィ、心を落ち着けなさい。こういう時こそ冷静さが重要だ。ここで取り乱したり、感情的になったら出来ることも出来なくなる。どうも君は良くも悪くも我を忘れるきらいがあるから。まずは話を聞くんだ。いいね?」


 それを聞くとアシェリィは顔をこわばらせながらもうなづいた。


「それで、現在M.D.T.F(魔術局タスクフォース)の者が3名、シリルに入っています。オルバ殿には大変申し訳ないのですが、その者たちと協力してモルポソを退治していただきたいのです。


我々が仕留めてもいいのですが、それではモルポソがボーンザに起爆指令を出す可能性があります。


モルポソの動機はあくまでオルバ殿、貴君の血を見たいという事だけなどです。安心してください。サポートをそちらに派遣い……」


「いや、私一人で十分だ」


 影がサポートの提案をしようとしているのを遮ってオルバは言った。


「!? オルバ殿、いくらオルバ殿とはいえ、暗殺特化のモルポソとは相性が悪すぎます。いくら幻魔を使役できるからとはいえ、肉弾戦にもちこまれたら切り刻まれてしまいます!!」


 それを聞いたオルバは引き締まった表情になった。アシェリィはこんなに真剣な表情をした彼を見た。まるで研ぎ澄まされた野生の狼のような威圧感が伝わってきた。


「創雲のオルバもあなどられたもんだね。サポートしてもらえるのはありがたいけど、もしサポーターに攻撃がいったり、人質に取られたりするとやりにくいからね。


モルポソは私一人でやる。それにボーンザへの対策は一人でも多くのメンバーが必要なはずだ。M.D.T.Fの3名全員とアシェリィはボーンザ討伐に回して欲しい」


 しばし重苦しい空気が森を支配したが、影はそれに対して了解の意を示した。


「オルバ殿、誠にかたじけないです。どうか、ご武運を。モルポソは果たし状にて宣戦布告するケースが多いようです。おそらく、自宅で待機されていれば向こうから接触してくるでしょう」


 そう言うと影は次にアシェリィに向けて語りかけてきた。こんな幼い弟子が居るとは思っていなっかったらしく、影は戸惑い気味らしい。


「そ、そしてお弟子さんのアシェ……アシェリィ様。知っておられるかもしれませんが、郵爆のボーンザとは郵便物に目に見えない爆弾を設置することの出来る魔術師です。


勝手に人の家のポストに投函されている手紙に爆弾を仕掛けたり、積極的に呪いの手紙、幸せの手紙などのチェーンメールを無差別に民家に投下たりしているはずです。


彼の魔法の特徴は”ポストからポスト、人から人へと郵便物が移動するたびに爆発力が上がる”ということです」


「ば……爆発の威力はどのくらいなんですか……?」


 アシェリィは恐る恐る訪ねてみた。シリルを人質にとれるというくらいである、よっぽどの破壊力があるはずだろう。


「今のところは大した爆発を起こせるレベルまで成長していません。せいぜいポストの中ではじける程度でしょう。しかし、放置しておくと馬鹿にできません。


ボーンザは郵便についた爆弾を着脱、合成できるのです。郵便物にくっついていないと爆弾としては機能しないのですが、少し大きくなった爆弾を合成すれば一気に威力は跳ね上がります。


M.D.T.Fの試算からすると最悪の場合、一発の爆弾でシリルの三分の一が灰燼と化します。時間はかかるので阻止することは可能でしょうが。貴女は街から避難することを推奨します」


 それを聞いたアシェリィは難しい顔をしていたが、思い出すように手のひらに拳を打ち付けた。


「あっ、影……さん? シリル郵便局に連絡は取りましたか?」


「え? は……はい。シリル郵便局には連絡を取りました。”正規職員”は全員この件にあたっていると連絡がはいっておりますが」


 アシェリィはやはりなといった表情で再び影に聞き返した。


「影さん、”C-POSシーポス”って知ってますか?」


 影はそれを聞いて心あたりがないようだった。もし、彼らの力を借りることが出来たならば―――


 アシェリィは影にシーポスについて軽く解説し始めた。

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