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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter3:Road to the RygiantByilie
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魔性のハイトーンボイス

2人の会話は続いた。ネイリュアの声量が大きすぎて隣にいるのに怒鳴るようにしゃべらないと会話ができない。


「ねぇ!! アイネ!! これってさ、もしかしてチャームの呪文が魔法障壁貫通してない!?」


アイネはそれを聞いて首をかしげた。しばらく考えると辺りを一通り見回した。そして納得したような表情でポンと上に向けた手のひらに握り拳を落とした。


「あ~、言われてみればそうかもしれませんね。よく見てください。立ち見をしているのはエレメンタリィとミドルがほとんどでエルダークラスまで行くとほとんどの方が座っていますね。


しかもエルダーで立ってらっしゃる方はほとんど男性です。これはチャームの影響が働いでいると言えるかもしれません」


「基本的にはテンプテイトって異性を落す魔法だからね。現にアタシ達にはほとんど効いてないじゃん。でも男女比が4:6のリジャントブイルでここまで引っかけるのは大したもんだわ。そりゃ女の子からラブレターもらうわけだよ……」


そう言ってラーシェはアイネの方を向いた。どうやらアイネは何か別の事を考えているようだった。しばらくの沈黙の後、アイネがラーシェに尋ねた。


「あのぉ……でもなんで障壁のガードを弱めるんでしょうか? いくら腕のたつ使い手でも数人の張る結界はそう簡単には打ち破れないと思うんですが……」


それを聞いてラーシェは目を泳がせたが、思い出したとばかりにアイネを指差してその疑問に答えた。


「あっ! ザティスが言ってた。運営が闘技場の維持費や当てた時の賞金を確保する為に、たまにこうやってわざと障壁を控えめに張るらしいんだ。なんでも賭けを一方に偏らせて儲けを狙うことがあるんだってさ」


つまり、今回の場合はネイリュアちゃんにみんな賭けるだろうから、ネイリュアちゃんのオッズを思いっきり下げて当たった場合の損を減らすってことかな。逆にファイセル君が高オッズで勝っても賭ける人が少ないからどっちみち儲かるって事なんだろうかね?」


2人はうなづきながら闘技場に視線を戻した。


「ホラ、アナタ、たしかファイセル君だったわよね? 地味に強いって闘技場マニアでは評判なんだから。手加減無しでいくわよ。あ、何かコメントでもしとく?」


ネイリュアがマイクを左右に振ったが、ファイセルも無言のまま、首を左右に振って拒否の意志を示した。


「……ゴホン、それではネイリュア・フリュス選手 対 ファイセル・サプレ選手の試合を開始します。オッズは1.3:8.4です!!」


あまりのオッズの差に観客たちは驚くものとばかりラーシェとアイネは思った。しかし。実際は誰もファイセルになんか用はないといった様子でネイリュアに賭けるつもりのようだ。


一方の2人はもちろんファイセルに多めに賭けた。ザティスもリーリンカも賭けたかっただろうが、セコンドに登録された選手はその試合は賭けることが出来ない。


「それでは行きます!! カウントの後、ゴングが鳴ったら試合開始です。3!!」


闘技場はまるで無人のように静まり返った。戦闘開始直後の十数秒は重要な時間帯だ。強い選手だったり、相性が悪かったりするとその十数秒で勝負は決する。観客たちはこの試合も長くは持たないだろうと予測していた。


「2・1……」


次の瞬間、けたたましく鳴り響くゴングが試合の火蓋を切って落とした。ゴングが鳴ると同時にファイセルは暗い紫色をしたライラマのローブを脱ぎ捨てて戦闘準備をした。一方のネイリュアはすぐさまマイクを構えて大声で叫んだ。


「イェーーーーーーイ!! みんなノッてる~?? 私の美声でメッロメロにしてやるんだから!! あれ? あれあれ? どうしたんだろファイセルくん元気がないなぁ。出席とりまーす。元気でもそうでなくても手を挙げて返事すること~!!」


彼女がそう口に出した直後、ファイセルはすぐさま手を挙げて無防備な状態になった。まるで元気に先生に挨拶するようにピンと指先まで伸びている。それを見ていたラーシェとアイネは言葉をかわした。


「へぇ~……アレが“テンプテイト”ねぇ……。ってファイセル君もう魅了されてるじゃんか!! マズイって!!」


慌てるラーシェを脇目にアイネは緊張感なく持ってきたクッキーとパルーパ・ピンキーのお茶をのんびり飲んでいた。まるで他人の観戦を見ているような態度である。だが、アイネはいつもこんな感じなので、ラーシェは深く考えず、闘技場に視線を戻した。


「はぁい!! よく出来ました~!! 偉いでちゅね~!! 今度は~そうだな~。ネコちゃんのモノマネとかどうかな? ほら、にゃぁ~にゃぁ~ってさぁ!!」


それを聞いたファイセルはすぐさま左右の手を丸めて頭の上に持ってきて耳に見立て、大声でネコのモノマネをし始めた。


「にゃぁ~!! うにゃ~、にゃあにゃあ、にゃお~ん」


その情けない仕草に観客席は笑いに包まれた。たとえ見てくれが良いファイセルでもこんなマヌケな動物モノマネをやっていたら誰だって笑うに決まっていた。それを見たアーシェは片手の手のひらで目を覆った。


「あちゃ~……こんなファイセル君、見たくなかった。さすが連勝の壁にはかなわなかったのかな……」


「う~ん、ファイセルさんのネコさんもなかなか可愛いですね~。次はどんなモノマネなんでしょうか?」


アイネのコメントを聞いてラーシェはため息をつきつつ肩を落とした。ラーシェはもう見ていられなくなり、闘技場の観客席の床へ視線をそらせていた。


「はぁ~い!! ネコさんも可愛かったぞぉ~♡ んじゃ、お次はワンちゃんね。三回回ってワンだからね。せーのッ!!」


そう声がかかるとファイセルはかなりの速度で三回回り、ネイリュアに忠誠を誓うかのように大声で鳴いた。


「ワン!! ワン!! ワン!!」


完全にネイリュアのペースにのまれたファイセルを見て、見ている人たちはとにかく笑うしかなかった。「なんてアホくさいのだろう」と。


「はぁ~い。いいね~。動物モノマネシリーズおもしろ~い☆ 次はぁ~そうだなぁ。ずる賢くて嫌らしい”ムーンレイヴン(カラス)”のマネがいいかな~。もっとこう、馬鹿っぽいっていうか? キャハハハ!!」


それを聞いたファイセルはまたもやカラスになった。手を上下に振って羽ばたく動作をしながらアホそのものといった様子で鳴いた。


「カァ~カァ~、ホォワァ~、ア~!! ア~!」


その様子を見たネイリュアは勝利を確信した。そしてアイドルとは思えない邪悪な目でファイセルにどうやってトドメをさそうかと思考を巡らせていた。ファイセルは完全に彼女のいいなりになってしまった。


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