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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter3:Road to the RygiantByilie
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学院の"インビゴレイター"

 ファイセルはなんだか今回の試合は気が向かないといった様子だ。


「ネイリュアって……ネイリュア・フリュス? あのチアリーディング部の部長さんかい? 学院生を励ますインビゴレイターって噂のあの……?」


「おっ、女子に興味が無さそうなファイセル君も滅茶苦茶可愛いと評判のネイリュアについては知ってるのな。その調子だとそのうち嫁さんに刺されるぞ? 


ま、流石にあんだけ学院の有名人なら知っててもおかしくはない、か。でだな、そのネイリュアだが近々アイドルユニットを組むらしくてな。デビューの景気付けにド派手に勝利を飾るつもりらしいぜ。それがさっき言った生け贄ってワケだ」


 それを聞いたファイセルは大きなため息をつきながらうなだれた。学院のアイドルを敵に回すのだ。


 ただでさえ自身が既婚者という事で同性からの風当たりが強いのに、更にそんな状況になるとは面倒な事この上ない。


 一方のザティスはファイセルがそういった事に無頓着だと思い込んでいたのだが、思いもよらぬ反応に少し意外に思った。


「どうした。らしくねぇじゃねぇか。いままでおめぇは相手が誰だろうとスカした表情でねじ伏せてきたじゃねぇか。


今更、学院のアイドルと当たったところで気にすることかよ。それに相手は格上だ。おまけに容赦なしときた。中途半端な躊躇はてめぇを殺すぞ?」


 ファイセルはうなだれながら首の黒いエンゲージ・チョーカーをいじりだした。いつの間にか彼は悩んだり困りごとがあると首に身につけたチョーカーをいじるようになった。


 本人は無意識でやっているらしいが、端から見ればとても個性的な仕草に見える。彼は黒光りして艶を湛えた高級感溢れるチョーカーをいじりながら顔を上げた。


「でもさぁ、チアリーダーの、しかも部長だよ? 皆を勇気づけたり、元気づけてる人を足蹴にしちゃっていいもんなのかなと思ってさ」


 それを聞いたザティスはあんぐりと口を開けて唖然とした。何もかける言葉が無いといった様子である。ファイセルは自分が何かおかしな事を言ったのかとも一瞬思ったが、そんなことはないはずだと自分に言い聞かせた。


 しばらくザティスの顔を観察していると彼は口を閉じて徐々に口角を上げてニヤつきだした。やがて、たまらず吹き出して笑い始めた。


「何がおかしいのさ?」


「くっくっく……そうか~。コロシアムでのアイツを知らない奴はそんな呑気な感想を抱くのか。”インビゴレイター”ねぇ。


そりゃ表向きの話で、そんなお上品なもんじゃねぇよ。アイツ、コロシアムでは幻惑の魔女、”テンプテイター”で通ってるんだぜ」


 ファイセルはそれを聞くと指を顎に添えて考えこみ始めた。これも彼のクセで、考えこむ時はほとんど顎に指を添える。


 これも無意識でやっているようだが、師匠せんせいのクセがうつったものらしい。彼は一見するとポーカーフェイスだが、何かと思考が仕草に現れるので実際のところ結構わかりやすい性格だったりもする。


「テンプテイター……誘惑魔法、か。文字通り自分より実力の低い相手、特に異性を魅了して都合のいいように操るって系統の魔法だね」


 ザティスはそれを聞くと茶化して笑うのもそこそこに真面目な顔でファイセルに向き直った。そして人差し指を立てて指先を横に振りながら答えた。


「チッチッチッ。魅了なんて生易しいもんじゃねぇ。アイツの場合はほぼ洗脳だ。おまけに、自分と同程度の実力のやつや同性も射程範囲にいれてハントしてんだ。アイツにカルトな女性ファンが多いのはつまりそういうこったな。


実戦では持ち前のハイトーンボイスでの音波攻撃に乗せて洗脳系魔法を放ってきやがる。それだけじゃなく、厄介なことにチアダンスの動きを応用して体術……いや斬撃だな。


近接にもスキがねぇ。これらのコンビネーションが絶妙でな。初見ではまず対処不能と言われてる」


 そう言い切るとザティスは振っていた指をピタリと止め、ファイセルの喉元へ向けて刺すように指差しした。そのまま真剣な表情を保ったまま続けた。


「正直、今回は相当不利だぜ。ネイリュアの力量も相当高い上に、何よりおめぇの得意なクリエイト・マジカル・クリーチャー(魔法生物)は普通の使い方じゃ対策が練られちまってる。


全く新しいモンで挑むのがベストだが、試合までそんな時間はねぇ。上手いこと今までの魔法生物を組み合わせて活用していくしかねーな。


恐らく小手先で乗りきれるのは次の試合までだ。ありったけの手を使って勝ちに行くしかねーってわけだ」


 自分の喉元に突きつけられた指先を見て思わずファイセルは息を呑んだ。今まで闘技場においてはなんだかんだで大きなダメージもなく相手を制してきたが、さすがに今回ばかりはわけが違う。


 大怪我を負う可能性もかなり高いだろう。彼は使うスキルの特性上、あまり近距離での戦闘はしない。どちらかといえば中~遠距離を得意としている。


 ザティスとは真逆だとも言える。故に2人がコンビを組んで戦うのは相性抜群だ。ファイセルはしばしばザティスから闘技場のダブルスに出てみないかと誘われてきたが、彼はさほど闘技場に興味が無いので今までやんわりと断ってきていた。


「ま、対策が全くねーってわけじゃねぇのよ。俺も奴には痛い目を見せられた事がある。あれ以降当たったことはねぇが、さんざどうやったら勝てるのかを考えてたんだ。


今こそその攻略法が役立つ時だ。俺の分のリベンジと攻略法の出来の良さを証明する為に何としても奴をぶっ倒してくれ。それと念を押しておくが見た目が可愛いからって容赦するなよ。アイツはマジモンの魔女だ」


 ファイセルはその言葉を聞くと真剣な顔をしてザティスと目線をあわせ、ゆっくり深く頷いた。その後、夜遅くまで2人はネイリュアへの対策を練った。


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