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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter1:群青の群像
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老練の目利き アンティーク・ショップ・ボッカ

無事にカルツの近郊までファイセルたちは到達していた。


遠巻きに眺めると白い建物の街並みが印象的な街だ。


建物には強度を上げるため、バーム鉱という白い鉱物が混ぜてあり、これが日に反射して白くきれいに光る理由である。


バーム鉱はライネンテの数か所の鉱山で採掘されている。ファイセルの故郷、シリルの街並みも白い壁の建物が多く、同じ材料を使っている家が多い。


建物の見た目や作り自体は似ているのだが、街の規模が大きくシリルとは段違いで全く異なった印象を受ける。


「ここはね、街の中心にある噴水を中心とした広場に市場があるんだ。カルツ・バザールって言うんだけどね。そこでウロコをオークションで出してみよう。ハァ、にしてもちょっと疲れたななぁ。休憩にするよ」


旅立った少年はあまり肉体強化フィジカル・エンチャントが得意ではない。


ザティスやラーシェならばあっという間に息も切らさずカルツに走ってこれるだろう。


ウィールネールとは比べ物にならない速度だ。


「う~ん、ウロコが売れるまでに時間がかからないといいんだけどな。できれば今日の内に次の村にたどり着いておきたいんだけど、水質チェックしながらだと難しいかなぁ」


 ファイセルはカルツ・バザールへ向かっていった。


ミナレートの通りとはまた違った喧騒けんそうに徐々に包まれる。


 道行く人々が物珍しげに腰のビンの中でキラキラ揺れるアクアマリン色の水を見ながらすれ違っていく。


「あ、リーネ。ただでさえ目立ってるのにこれ以上目立っても何だからカルツに居る間は幻魔界に戻るといいよ。まだ色々と整理しきってないんでしょ?」


リーネは水に溶けたまま喋った。


「もうですね~、部屋が贈り物だらけでですね~、寝る場所もないんですよ。少しの間、向こうを整理してきますね。また用事を再開するようだったらビンを三回ノックしてください」


彼女は忙しげに水に溶け込んでいった。


バザールでは食料品を中心に雑貨が売っている。


さすがにここではマジックアイテムの品ぞろえはいまいちのようだが。


案内役のお姉さんに話しかける。


「あの~、鑑定屋さんってどこにありますか?」


お姉さんは市場の奥の方を指差した。


「カルツ・バザールを横切ってあちらの軒下にタルが置いてある店がそうです」


「ありがとうございます」


少年はそういいながら500シエールのチップをお姉さんに渡した。


人波を避けながらバザールを横切ると屋台からおいしそうな匂いがする。


(そういえば、まだ朝ご飯食べてなかったな。鑑定してもらったら何か食べるか……)


教えてもらった店の中はひどく古ぼけた内装だ。


眼鏡をかけた老人が骨董品に埋もれるようにして椅子に掛けてタバコをふかしていた。


まるで店自体が骨董品こっとうひんのようだった。


「いらっしゃい。ゆっくり見ていきな」


 老人は会釈えしゃくしながら軽く客への挨拶を済ませた。


大きな古ぼけた車輪に何のものだかわからない骨、綺麗な紋様が描かれた陶器などがところ狭しと並んでいる。


素人目だが、品物の量や値段を見ているとこの老店主がかなりの目利きではないかと思えてくる。


中にはなぜこんなに高価なのかわからない物もちらほらあるが、骨董品こっとうひんなんて得てしてそういうものであるとファイセルは考える。


もしかしたら何かのマジックアイテムなのかもしれない物もいくつかあるが、使い方も効果も全く分からないので買う気は全く起きない。


旅の少年はうっかり夢中になってしまっていたことに気づき、本題に戻った。


「あの~、鑑定をお願いしたいんですが」


 老人が急に活気づいた。


「お~、いいねェ~。最近はガラクタばっかで飽き飽きしとったんじゃ。その制服、おぬし、リジャントブイルのじゃろ? 鑑定し甲斐がありそうじゃわい。ちなみに鑑定料は一律5000シエール、鑑定したものの価値に合わせてそれに上乗せさせてもらうぞ。よいな?」


ファイセルはうなづいてウロコをカバンから大事そうに取り出した。


老人は虫眼鏡を使って観察しながら触ったり、柔軟性を確認しながらウロコを鑑定した。


ビンの水の色も見本表の色と照らし合わせながらチェックしていく。


ファイセルには老店主が徐々に震えだしたように見えた。次の瞬間、店主は大きな声を上げた。


「ほぉぉおおおっおっ!! これは、まさか海龍のウロフォッッッッッ!!」


店主の入れ歯が宙高く吹っ飛んだ。そのまま心臓発作でも起こしそうなくらい店主は狼狽ろうばいした。


入れ歯を拾うのも忘れ、目を真ん丸にしてカウンターの上の品を見つめている。


「だ……大丈夫ですか?」


 ファイセルが声をかけると、店主は再び騒がしくなった

「ふぉまえ、ふぉのふろふぉふぉのほおひさひゃと……」


 何を言っているのかさっぱりわからない。


ようやく店主は自分の入れ歯が吹っ飛んだのに気づいて床に落ちた入れ歯を拾って口にはめてしゃべりだした。


「あ、あ、アンタ。……この大きさのアクアマリーネだと最低価格は……ハァ、ゼェ……」


かなりの歳なのに興奮したからだろうか、老人は息が上がっているようだった。


「それで……最低価格はいくらなんですか?」


ファイセルは息をのみながら聞き返した。


「300万シエールじゃ!!」


これにはさすがにファイセルも度胆どぎもを抜かれ、叫んだ。


「さっ、300万!? 50万シエールくらいがいいとこだと思ったんですが……」


「バッカモン!! いいか、最高価格が300万じゃなくて、”最低価格”が300万じゃからな!!」


 老人はすぐに羽ペンを取り、マギ・インクを付け正式な鑑定書の書式で魔紙ましに鑑定結果を書き綴り始めた。


5分としないうちに証明書が完成した。


『このウロコは確かに実物のアクアマリーネである。最低300万シエールの価値を保証する。  鑑定協会認定鑑定店 “ボッカ鑑定屋 ボッカ”』


「いや~、たまげた。まだ心臓がバクバクいっとるわい。鑑定者協会主催の展示市で見たことはあったが、まさかこの店で本物を目にすることになるとは思わなんだ」


老店主はようやく落ち着きを取り戻して、よろけるようにフラフラと椅子に腰掛けた。


「あの~、それで鑑定料金はいくら上乗せされるんですか?300万だから30万シエールくらいでしょうか?」


老人は首を横に振って答えた。


「いや、こんなもんを間近で見せてもらえるとはそれだけで価値があったわい。冥土の土産になりそうじゃ。10万ももらえば十分じゃよ」


ファイセルは10万シエール分店主に渡した。手持ち金は残り約10万シエールといったところだ。


「貴重なアクアマリーネじゃ。うまく捌けよ?」


「わかりました。ありがとうございます」


そう言ってカウンターの上のウロコをカバンに入れ、ビンを腰に掛けて店主に一礼して鑑定屋を後にした。


「さーて、いよいよウロコ売り本番かぁ。あんま上手くやる自信ないんだけど、やるしかないね。その前にお昼でも食べるか……」


屋台でしびれバチの幼虫の野菜炒めと、カルツヘビの串焼きを食べて英気を養った。


ファイセルはあまり商売の経験もなく、ましてやオークションなんて見たことがあるくらいだ。


だが彼は腹をくくって市場の貸し売り場を見て回った。


そうこうしていると市場は活気に満ち溢れてきた。これはもう今しかないと言った好機だ。


レンタルで借りられる商売スペースにはテントがあり椅子がついていた。


地べたにはマットがしいてある。テントの幅も大きく、多くの通行者の目を引けるスペースだ。


ファイセルは海龍のウロコとビンをマットの上に置き、マントを脱いで直にマットの上に腰おろし、腕まくりした。


鑑定書を手に持ち、目を閉じて深呼吸をする。緊張の瞬間。


「はーい!! みてらっしゃいよっといで!! 海龍のウロコ、アクアマリーネのオークションを行うよ~!!」


 大きな叫び声に通行人が足を止め他の店の店主たちもこちらを見る。


(うわ、すごい気まずい……)


ファイセルは不安になる自分の気持ちを抑え込んで呼び込みを続けた。


「は~い、こちら今朝とれた海龍のウロコだよ~。鑑定書つきだよ~!!」


何回か大声で呼びこんでいるとあっという間にテントの周りに人だかりができていた。


ガヤガヤザワザワと音は次第に大きくなっている。


「間違いなく本物だよ~。ほ~ら、傾けると虹色にじいろに輝きます!!」


 ウロコを手に取って曲げたり、ひねったりして実演販売作戦に出た。


日に当てて光らせたりしてみるとまるでマジックを見たかのように人だかりが声を上げる。


テントの周りの人々は感嘆かんたんの声や驚きの声にあふれ、もはや本物だと疑う余地なしといった感じだ。


ファイセルもだんだんこなれてきて、商売人さながらに見ている人をあおるように宣伝文句をうたい続けた。


「ほら、このきれいな色の水! これが海龍の涙の池の水です!! その底からこのウロコはすくいあげました!!」


ファイセルは集客に見切りをつけてそろそろオークションの段階に移行しようとした。


「おい小僧こぞう、これいくらからだ?」


(来た!!)


 どこからともなく質問が飛んできた。いよいよオークションが始まる。


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