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よるのこども~後日談~


 夢は空間も時間も超えるって言ったのは、他ならぬ自分だったくせに。

 だから、確信できたんだよ。

 顔かたちは似てる事があっても、しゃべりかたまで同じなんてないよと笑ってやったのだ。

 なんとも言えない顔で、へえそんなもんかねえ、記憶力よすぎと感心しているんだか、呆れているんだか判断できない声を出した人。




 月明かりでなく、太陽の光の下で会ったのは、これが初めて。

 彼はガラスごしに差し込む光を眩しそうに見つめていた。

 水滴のたくさんついたグラスをストローでかき回している。

「驚いたなあ」

 さっきから、何度も同じ言葉を繰り返している。

「俺と本当にまた会うとは思ってもみなかった?」

「そりゃそう……です。住んでる世界は同じでもさ。時間が違った。まあ偶然てのはあるもんだと思ったよ……思いました」

「言いにくい? 言葉遣いが変だ」

「俺が会ったのはつい……一月ほど前の事だから。あんな小さかったのが、今はこんなだし。仕方ないでしょう」

 そのうち慣れますからお気になさらず。

 彼はひょいと肩を竦めた。

「驚いたのは俺も同じだよ。何年も前に見た夢の中の人が、目の前に現れたんだから」

「それ。本当に無駄に記憶力いいよ……いいですね。俺だったら一発で忘れてますよ。一度見た夢のことなんて。それも、あまり覚えていたくない類の夢でしょう」


 だから忘れろって言ったのになあと。

 確かに子どもには怖いばかりの、悪夢だったろうけど。


「ああ……弟は綺麗さっぱり忘れているよ。しばらく怖がってたけどな。夜寝る前とか。怖い夢、見るんじゃないかって」

 

 あの日。朝起きると隣の部屋で寝ていた弟が駆け込んできた。

 とても怖い“夢 ”を見たと言って。

 “兄ちゃんもいたんだ。変なものに捕まるんだ。怖かったよう”

 あれは、弟の中ではもう夢の話なんだと思った。

 そしてあの人の言った事が正しいと思った。

“起きるはずのないことだから、忘れてしまうがいいよ……夢という名前のもとに”

 泣きじゃくる弟の頭に手をおいて、言った。

 “それは夢なんだろう?だったらもう大丈夫だよ。お前は起きて、ここにいるじゃないか”そんなふうに。


「そうか……なら、なんでアナタは覚えていたわけ?」

「そりゃ、覚えていたかったから。それだけだよ」

 むー、と彼は眉をよせた。が、すぐにどうでもよくなったらしい。

 ま、いいけどなと言った。

「お前……じゃなくて、あなたの記憶まで責任持てないし。どうでもいいや」

 そしてグラスの中身を飲み干した。

「俺、これからバイトなんで、失礼します」

 これ俺の分ですと財布からお金を出そうとしたのを止めさせた。

「話があるって呼び出したのはこっちなんだから、これくらいはね」

「そうですか?なら遠慮なく」

 ご馳走さまですと笑って席を立つ彼に。尋ねた。

「俺に口止めはいらないの?」

 やけにあっさり肯定した彼に驚かされたのは自分も同じだったから。

 なんでときょとんと目を丸くされて、言った俺の方が驚いた。

「だって、アナタは言いふらしたりはしないでしょうし、それに」

 これが一番大きいですけど、と前置きして。

「信じる人ってほとんどいませんよ」

 目に見えることって、偉大ですよねえって言って。

 そのしたたかな笑みに苦笑で返した。

「確かにな」

「もし、何か入り用なら連絡下さい。ただし、俺じゃなくて母親の方に。ほんとはそっちが本職で、俺はただの手伝いなんですから」

「占い師に手伝いなんているのか?」

「まあ時々は。失せ物が異界に行っちゃってる時とかですね。“お願いあんたとってきて。お小遣い弾むから”ってね」

 お陰で起きてるときも寝てる時もこき使われますよと、しようがない親たちでしょうと彼は言うけど。

 言葉ほど、嫌がっている様子はないのだった。

「ああ、もし入り用な時は遠慮なく」

 にこりと笑って返した。

 そして彼はじゃあ、と外に出て行った。

 強い太陽のひかり。

 浴びて歩く彼の足元には、濃く落ちた影。

 ああ、そうだと呟いた。忘れなかった理由はね。


「綺麗だと、思ったからなんだよ」

 あなたが……きみが。

 


 いつかそれを言ってあげるよと、一人静かに笑った。


 


 いつかの月の明るい夜に。


                                    

                                                                 END




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