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その7

 手に持った木剣を構えながら木刀の方がいいんだけどなと考えていた。

 腰に下げているのは刀なわけだし両刃の剣を模した木剣じゃなく刀を模した木刀の方が筋が通っているだろう思ったのだ。

 しかしまあこのスタンツという人物は元Bランク冒険者という事だし腕試しの相手としては十分だなと考えると木剣であるという事も我慢できるというものだ。

 現状に納得し思考を切り替える。

 ここに来るまでに魔物とはいくらか戦っては来たわけだが人との闘いとなるとそう単純なものじゃないだろうな、さてどうしたものか。

 互いに木剣を構え向き合っては見たがこの試験って言うのはどうすれば合格なんだろうか?

 とりあえず撃ち込んでみようかな? そう考えて撃ち込もうとしたら逆に撃ち込んできた。おーなかなか迫力があるな、なんか受け流せてるけどあれは喰らうと痛いじゃすまないだろ、少し気を引き締めるか。と、その前に分からないことは聞いておかないとな。

「ところでこの試験はどうすれば合格なんじゃ?」

 なるほどなるほど、一撃入れればいいのか。でもやり過ぎたら怒られるってこともあるしな、ここは強者ムーブというやつで行ってみるか。

 先ずはしっかり相手が準備できるのを待って……さて準備万端かな? では行ってみようか!

 横薙ぎに備えて低い体勢で素早く一気に距離を詰める。そして木剣を振り抜かずに寸止めから軽く喉元にっと。よし上出来だな。

「ご、合格だ……」

 その言葉を聞いて木剣を下ろして心の中で叫ぶ。やったぞー、遂に冒険者十兵衛の誕生だ!

 心の中で喜びを噛み締めていると扉の方から声が聞こえた。

「大変ですマスター!」

 ん? あれはさっきの受付におった娘だな、何事だ?

「どうしたフレア?」

 ギルドマスターのフランツが額の汗をぬぐいながら扉の方を見る。

「そ、その十兵衛さんという方Aランク冒険者です!!」

 えぇー!? ワシAランク冒険者なの?

「どういうことだフレア?」

「さっき登録用紙に記入してもらった時に水晶にも触れてもらっていたんですけど過去にすでに登録されていた様で確認してみたらAランク冒険者のウォルターさんという記録が出ました」

 フランツが問い詰めるような視線をこちらに向けてくる。

「いや、知らんぞ。ワシ十兵衛だし」

 あ、なんか全然信用されてない目だ。

「ほんとに知らん、冒険者登録に来るのは今日が初めてじゃし」

 無情にも言葉は届かなかったようでフランツが無言で近づいてくる。いやほんとに知らないんですが?

「ちょっと詳しく話を聞かせてもらおうか」

 そしてギルドマスターの執務室へと連行されることとなった。


 ギルドマスターの執務室でフランツと向き合いソファーに座っている。ソファーの座り心地を感じている余裕もなく気まずい雰囲気だ、なんでこうなった?

 どういうことだと聞かれてもどういうことだか聞きたいのはこっちの方なのでとりあえずここまでのいきさつを説明することにした。

 ある森の中の小屋で目覚めた事、過去の記憶と呼べるものがない事、冒険者になるべく街を目指してここまで来たこと、さすがに転生どうこうというのは話さなかった。

 嘘をうまくつくコツはいくつかの真実を混ぜる事だと聞いたことがあったので実践してみた。

「つまりこういう事か? 小屋で目覚めた時には記憶がなく名前も分からなかった、それで十兵衛と名乗った。しかし剣を使って戦うことは出来たので街に行き冒険者になろうと思った、それで街を探していたらここアルカンに着いたと?」

「そうじゃそうじゃ、その通りじゃ!」

 とりあえず全力で肯定しておく。

 フランツは腕組みをしたままこっちを睨んでいる、いや睨まれてもこれ以上はワシにもわからんのだが……

 暫く沈黙がつづいていた時執務室の扉をノックする音が聞こえ、先程のフレアと呼ばれていた受付嬢の娘が部屋に入ってきた。

「マスター、こちらが過去のウォルターさんの資料です」

 フレアから受け取った資料をフランツが険しい顔のまま目を通す。過去の資料とか残ってるのか、ギルドの情報管理はなかなかのようだな。

 そんなことを考えているとフランツが口を開いた。

「ウォルターという冒険者の記録で残っているのは三十年前までか……」

 そんな前の記録が残っているとはやはりギルドというのはなかなか優秀なようだな。

「しかし、三十年とはえらく前の記録じゃの、そのウォルターとかいう冒険者は生きておるのか?」

 なんとはなく思ったことが口を衝いて出た。

「確かに十兵衛の言うことも一理あるな」

 フランツはそういうと腕組みしたままソファーの背もたれに体を預けた。

「こういうのはどうじゃ?」

 このままでは埒が明かなさそうなので一つ提案してみた

「ギルドの水晶の判定ではワシはウォルターだと言っとる。しかしウォルターという冒険者の記録は三十年前の物しかない。そしてワシはウォルターだという記憶はない」

 ここで言葉を切りフランツの顔を伺う。

「そこでじゃ、ワシを十兵衛として冒険者登録してその記録に水晶でウォルターと同一の反応が出たと記録しておく。三十年前の記録が出てくるくらいじゃ、ギルドの情報管理はしっかりしておるのじゃろ?」

 フランツはソファーに体を預けたまま視線を上に向け考え込んでいるように見える。

「例えばワシが何か悪さをして身分を偽ろうとしていたのだとしてもギルドにワシとウォルターとの関連性が記録されているのならそれは叶わんじゃろ? そもそもワシは記憶がないのじゃからウォルターだと言われても正直困る、ワシは十兵衛として冒険者になりたいのじゃからな」

 暫く逡巡していたフランツがソファーに預けていた体を起こす。

「いいだろう、だが新しく冒険者登録する以上十兵衛はFランクからのスタートだぞ」

「ワシとしてはむしろそっちの方が有難いわい」

 こうしてようやく新人冒険者十兵衛が誕生したのだった。

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