その5
屈強な男は胸の前で腕組みをし、こちらを睨みつけたまま仁王立ちしていた。
「ああそうじゃ、ワシが冒険者になりたいジジイじゃよ」
こんなむさ苦しいおっさんよりさっきの受付嬢に対応してほしいんだがな。
「爺さん、冒険者がどういうものだかわかってるんだろうな?」
やっぱりこのおっさんに担当が変わったみたいだな、まあ冒険者になれるならどっちでも構わないか。
「知っとるぞ、薬草を採取したりドラゴンと戦ったりするんじゃろ?」
「はぁ……」
屈強な男はやれやれと言わんばかりにため息をついた。
「ちょっと付いて来い、冒険者がどういうものか教えてやる」
そう言うと首をツイと振りカウンターの横にある扉に向かって歩き出した。その後ろでは先程の受付嬢が困ったように屈強な男とこちらをきょろきょろと見ている。
仕方ない、ワシの冒険者への熱意をしっかり説明するか。ん? いま頭の中でも一人称ワシになってたぞ! これはかなりロールプレイが身についてきてるな、そんなことを考えながら男の後に続き扉に向かって歩き出す。
男に付いて行くと開けた裏庭のようなところに出た。そして男は立ち止まるとこちらに向き直り話しかけてきた。
「俺はここのギルドマスターのスタンツだ、普段は試験のようなことはやってはいないが今回は例外だ。実技試験をやる」
おーイベント発生か、楽しみだ。
「実技試験か、何をすればいいんじゃ?」
「爺さんが腰に下げてる細身のそれは剣だろ、そこにある木剣を持って俺と模擬戦だ」
おー、模擬戦! ワシの力試しには丁度いい。ギルドマスターと言うからにはそれなりの実力者のはず。
「いいじゃろう、ところでスタンツとやらお主は元冒険者というところかの?」
「そうだ、元Bランクの冒険者だ」
「Bランク……それはどの程度の強さなんじゃ?」
おや、スタンツが呆れたような顔をしてるぞ?
「爺さん、それでよく冒険者になんてなろうと思ったな。良いかよく聞け、冒険者にはランクって言うのがある。なりたての新米冒険者がランクF、そこから順にE、D、C、B、A、Sと上がっていく。その上にはSSやSSSなんてのもあるがその辺りは別格だ、今は気にするな。そもそもSランクって言うのも現役じゃ数えるぐらいしかいない、実質Aランクが通常ギルドでの最上位者だ」
「なるほど、さすがギルドマスターじゃな」
顎に手を当て納得しているとスタンツがまた呆れた顔をしながらため息をつく。
「はぁ……こんな事冒険者じゃなくても知ってる常識だぞ」
なんだと!? これはいかんなもっと情報収集をせねば。そう思案しているとスタンツがせかす様に声をかけてくる。
「爺さんいいから早く木剣を取れ、実技試験だ」
「おおそうじゃったな。後、ワシの名は十兵衛じゃ、まあ爺さんでも構わんが」
とりあえず名乗りは大事だろう。どう呼ぶかは好きにすればいいが相手が名乗ってる以上礼儀は欠かせないしな。そして無造作に樽の様な物に突っ込まれている木剣から適当に一本を手に取る。
「十兵衛か、分かった。多少のケガはするかもしれないがそれはこっちで治療してやる。実力もなくむざむざ魔物に殺されるよりはましだろう」
「そうじゃの、気遣い感謝する」
そして一つ深呼吸をして木剣を正中に構えスタンツと向き合う。




