その4
遠くで聞こえた声に向かって走り出してみてわかったことがある、ワシ足速えー!
そのまま声の元に向かって走っていくと先が周りより明るく見える、森の切れ目だ。
そして森を抜けると何やら熊っぽい何かと戦う集団と道が見えた。
道! 街道か、これは絶対街につながっているはず、冒険者への道だ!
胸の高鳴りを感じながら一先ず第一異世界人とのコンタクトを取るためにあの何とかベアーらしき魔物を排除することにしよう、そう思い後方で指揮を執っている人物に声をかける。
「手を貸そう」
そのまま人垣を飛び越え何とかベアーに斬りかかる。
先ずは腕、そして胴を横薙ぎ。やはり考えるより先に身体が勝手に動くな。
そして第一異世界人との初会話。
「すまない、助かった」
「何、礼には及ばんよ」
よし、受け答えもジジイぽく出来たな上々だ、実際ジジイだけど。それよりも街だ、街はどこだ!
「私はオスロー騎士隊隊長のルーベンだ」
「ワシは十兵衛じゃ。ところでちと聞きたいのじゃが、ここから一番近い街へはどう行けばいいのかの?」
よしよし、しっかり名乗りもできた。これで実質的に異世界に十兵衛の誕生だな。
「ああ、それならこの街道を進んでいけばアルカンの街がある」
近くの街はアルカンというのか、では急いで冒険者への道を行かないとだな。走るの速かったしこのまま一気にアルカンまで走って行ってしまおう。
駆け出した後ろで何か声が聞こえたが良く聞こえなかった。あっ、しまった第一異世界人達ともう少し話をしても良かったな。が、今はそれよりも冒険者になるのが先だ。どうせこれから嫌というほど人とは会うだろうしな。
うん、さすがにちょっと疲れてきた。結構走ってきたんだが街はまだか? 陽もどっぷりと暮れて何ならちょっと空が白んできてるし。
街の方向だけじゃなくてどれぐらいの距離か聞いておくべきだったな。
そう思っていると遠くにうっすらと何かが見えてきた。
壁? いや城壁かさすが異世界、あれがアルカンの街だろうな。ワクワクが止まらん。
アルカンの街に着いた時にはすでに陽も昇り朝になっていた。
まあ夜だと入れなかった可能性もあるし結果オーライだろう。気を取り直し颯爽と街へと入る。
入り口で門番に止められるかと思ったんだが何の問題なくは入れた、この辺りは平和な地域なんだろう。それよりも冒険者ギルドだ、どこにあるんだ!
街に入り目に飛び込んできた風景は圧巻だった。
街の雰囲気はまさに中世ヨーロッパ風。石造りの建物が立ち並び思い描いていた世界そのままじゃないか、良いぞ異世界。
まだ朝の早い時間だが人通りもそれなりにある、さっそく聞き込みだな。
「すまんがちょっといいかの?」
店の開店準備だろうか、店先に出ていた店主らしき人物に声をかけてみる。
「なんだい爺さん、店の開店はまだだぞ」
「いやいや、ワシはこの街に初めて来たんじゃが冒険者ギルドの場所を聞きたくてな」
よしよし、ジジイ口調は完璧だな。
「ああ、それならこの先をまっすぐ行った右手にあるよ。オレンジ色の看板がかかってるからすぐわかるよ」
「親切にすまんの、助かるわい。ところでここは食堂かの?」
「ああ、そうだよ昼前には開店してるからよければ食べに来てくれ」
「そうかそうか、なら用事が終わったら寄らせてもらうよ。ではまたの」
よしよし冒険者ギルド情報をゲットだな、そして昼飯もここで決まりだな。
さっきの店主から聞いたとおりに道をまっすぐに進むとアレンジ色の看板が見えた。
文字は日本語じゃないが読めるな、ここが冒険者ギルドか。
意気揚々と扉を開け中に入ると冒険者ギルドは人でごった返していた。冒険者の朝は早いみたいだな、そんなことを思いながら奥にあるカウンターへ向かい進む。
「あー、すまんちょといいかの?」
カウンターに立っていた受付嬢に声をかける。
「おはようございます、何かご依頼ですか?」
満面の笑みで受付嬢が答える。この娘は冒険者に人気なのだろうなと思える笑顔だった。
「いや、依頼でない。冒険者登録をしたいのじゃが」
その言葉を聞いた受付嬢は首を傾げ笑顔のまま不思議そうな顔をした。まあそういう反応になるわな、ジジイだし。
「えっと……冒険者登録ですか?」
「そうじゃ」
「おじいさんがですか?」
「そうじゃ」
今この娘の頭の中には疑問符しか浮かんでないだろうなと容易に推測できた、なにせ相手がジジイだし。
「えーと、冒険者って結構危険なお仕事なんですがご存じですか?」
「むろん心得ておる、冗談で言ってるわけではないぞ。登録を頼む」
「は、はぁ……」
受付嬢は困惑しながらもカウンターの下から登録用紙を取り出しこちらに差し出してきた。
「で、ではこちらにご記入をお願いします。後、この水晶に手を触れておいて下さい。わ、私は少し離れますがご記入いただいてそのままお待ちいただけますか?」
「ああ、構わんよ」
記入用紙を手渡すと受付嬢は何か急ぎの用事でも思い出したのか奥に駆けて行った。
遂に冒険者生活が始まるのかと思うと自然と顔が緩む。
まさにご機嫌といえる状態で用紙に記入し、水晶に手を触れたところでカウンターからドスの聞いた声で話しかけられた。
「あんたか、冒険者になりたいって言う爺さんは」
顔を上げるとそこには屈強な体格をした男が獲物を見つけた獣のような目でこちらを睨みつけていた。




