その3
「態勢を整えろ、負傷者は後ろへ運んで治療しろ!」
辺りが暗くなりだした時にそれは突然現れて襲い掛かってきた。この辺りには出没しないはずのブラックベアーだ。
「フランツ大丈夫か?」
盾を構えブラックベアーの攻撃を凌ぐ部下に声をかける。
「もうしばらくは大丈夫だと思いますがあまり長くは難しそうです隊長」
いったいどこから現れた、周囲の警戒は怠っていなかったはずなのに。まるで仕組まれていたかの様なこの状況。いや、今はそれどころじゃないなこの現状をどうにかしなければ。
「隊長、この先の街道ががけ崩れのために通れなくなっているようです」
先導していた部下が引き返してきてそう報告してきた。
「この先が通れないとなるとかなり遠回りしなければならないな。仕方ない少し戻り迂回しよう」
おかしいな、この先の街道は先月補強工事が行われたばかりのはずなんだが何か引っかかる。
「フランツ、警戒しておけ何かあるかもしれん」
「分かりました隊長、他の隊員にも伝えておきます」
フランツは優秀な部下だ、みなまで言わなくとも察してくれたようだ。
しかし、我々オスロー騎士隊に何か仕掛けてくるような輩が果たしているのだろうか?思案してみたが思い当たる節が無く杞憂だったかと思い直す。
大きく迂回したためにその日の夕刻には街に戻る予定が大幅に遅れることになった。
「今日はこの辺りで野営にしよう、フランツは何人か連れて周囲の詮索。残りの者は野営の準備にかかれ」
街道から少し外れた場所を見繕い明日に備え野営することにした。
寝床となるテントを張り終えフランツ達も戻ったところで食事をしようとした時だった。
突然森の中から魔物がこちらに目掛けて突進してきた。
突然の魔物の襲撃に幾人かの部下が負傷した。だが幸いに死者は出ていない。
「囲め、魔物は一体だ動きを止めるんだ」
部隊の指示を出しながら周囲を警戒する。どうやら襲ってきたのはこのブラックベアー一体だけのようだ。
だが、この辺りにはブラックベアーの生息は確認されていない。しかもどうも通常の個体より一回り大きいうえに俺の知っているブラックベアーより獰猛に見える。
「隊長、このブラックベアーなんかおかしいですよ」
フランツもこの個体の異常さに気が付いているようだ。動きも俊敏なうえにこちらの攻撃もあまり効いているようには見えない。
その時森の方から新たに何かが飛び出してきた。
「手を貸そう」
声のした方を振り返ろうとした瞬間にすぐ横を何者かが駆け抜けていた。
そしてブラックベアーの動きをどうにか止めていた部下たちを一足に飛び越えると斬りかかりブラックベアーの腕が片方、宙に舞っていた。
頭の上の方で結われた長い白髪がその剣の動きに合わせ大きく揺れている。夕闇の中で揺れるその白髪は剣の動きと合わせとても美しく見えた。
「老人?!」
その姿を見止めた次の瞬間、その老人は更に舞うように横薙ぎ剣を振るうとブラックベアーは動きを止めその場に崩れ落ちた。
「すまない、助かった」
「何、礼には及ばんよ」
老人はそう言うと剣を一振りし帯びた血を振るうと剣を鞘に納めた。
「私はオスロー騎士隊、隊長のルーベンだ」
「ワシは十兵衛じゃ。ところでちと聞きたいのじゃが、ここから一番近い街はどう行けばいいのかの?」
十兵衛と名乗ったその老人は先ほどの戦闘などなかったかのように、ごく自然に問いかけてきた。
「ああ、それならこの街道を進んでいけばアルカンの街がある」
「おお、そうかそうかアルカンじゃな分かった。では向かうとするか」
「あっちょっと待って、街までは丸一日かかるんだぞ」
そう言おうとした時にはすでに十兵衛と名乗った老人は駆け出していた。




