その24
ジジイの朝は早い。
陽もまだ上り切る前、薄っすらと空が白んできたころには目を覚ましていた。
さてと、日課に決めている素振りでもしに行こうかな、とベッドから起き出し支度をしていると隣のベッドがもぞもぞと動いている。そういえばアシュリーいたんだったな。
「あ、おはようございます師匠」
ワシが起き出したことでアシュリーも目を覚ましたようだ。
「すまんな起こしてしもうたかの」
「いえ、大丈夫です。師匠はどちらかに行かれるのですか?」
「ちょっと剣の素振りをしに行こうかと思っての」
「では、私もお供します」
アシュリーはまるで子供のようにどこでも付いてくる、かわいいものだ。
「すぐに支度しますので少し待ってください」
そう言うと躊躇なく目の前で着替えだした。いや待てアシュリー、ワシ目の前にいるんだけど?
「お待たせしました、行きましょう師匠」
特に気にする様子もなく着替え終わると嬉しそうに笑いかけてくる。その笑顔はいいのだが少しは恥じらいというものを教えておいた方が良いかもしれない。
日課の素振りをアシュリーと共に終えると部屋に戻り荷物をまとめ、予定通りオスローへ向かう事にした。
アルカンの街で乗合馬車に乗り半日ほど揺られ、昼頃にはオスローに到着した。
「おー、ここがオスローか。アルカンよりはずいぶんと大きいの」
「はい、オスローには騎士隊も常駐していますからね。この辺りでは一番大きな街です」
こんな大きな街の騎士隊の剣術指南をあっさりやめてしまうとはアシュリーにとっての師匠とは大きな存在だったのだろうな。
「早速だが隊長のところに案内してもらえるかの、その後はアシュリーに街を案内してもらうとしようか」
「では、さっさと隊長を捕まえてゆっくり街を案内します」
相変わらずワシ以外には辛辣なアシュリー。
ワシに街を案内するのがよっぽど楽しみだったのかアシュリーは速足で騎士隊の詰め所に向かって進んで行った。
「ルーベン隊長はいますか?」
騎士隊の詰め所に着くなりアシュリーは入り口のドアを開けそう声をかけた。
「アシュリーさん?!」
中にいた騎士隊の面々は驚いたようにアシュリーを見ている。ついこの間剣術指南をやめた者がいきなり現れたらそら驚くだろう。しかしアシュリーはそんな事など気に掛ける様子もない。
「ああそんな所に居ましたか、ちょっとこちらまで来てもらえますか?」
やはりアシュリーは辛辣である。
この辺りも少し教育しないといけないな。ウォルターよ、いくら剣しか教えることが無いとは言えもう少し他にも教えることがあっただろうに……
「アシュリーじゃないか、やっぱり戻ってきてくれたのか?」
「師匠が隊長に用事があるのです、早くこちらへ」
ルーベンよ、なんかすまん。
「師匠?」
ルーベンは不思議そうにアシュリーの後ろにいたワシに視線を移す。
「あんたはあの時の!」
「アシュリーが世話になったようで礼を言いに来たんじゃ」
ここはアシュリーの分までワシが礼を尽くさねば。
「ちょっと状況が良くわからないんだが……」
どうもアシュリーは何も説明せずに剣術指南をやめたようだ、ほんとにすまんルーベンよ。
仕方がないのでこれまでの経緯をアシュリーに代わり説明することにした。
ワシがアシュリーの剣の師匠であること、ルーベンから聞いた話でワシがアルカンにいることを知って探しに来たこと、そしてワシと旅をするために剣術指南をやめた事。いやほんとにそういう事はちゃんと説明しないといけないぞアシュリー。
「大雑把に説明するとこんな所じゃ。それと改めて、弟子であり娘であるアシュリーとまたこうして出会わせてくれた事、心から感謝する」
そう言ってルーベンに向かって頭を下げた。
「弟子で、娘……師匠!」
顔を上げると隣でアシュリーがなぜか涙ぐんでいる。機嫌の変わり具合も本当に子どものようだ。
「いや、礼を言うのはこちらの方だ。あの時はちゃんと礼も言えなかった、本当に助かったありがとう。しかし爺さんががアシュリーの師匠だったとは、道理で強いはずだ」
ルーベンが納得のいったような顔を向けてくる。
「師匠が強いのは当たり前です。アルカンで手合わせいただきましたが私でも一太刀も入れることが出来ないのですから」
アシュリーのその言葉で詰め所がざわつく。
「アシュリーって元々Aランク冒険者だろ? マジか……」
先ほどまでルーベンの隣にいた若い騎士が絶句している、なんかむず痒くなってきた早めに立ち去るとしよう。
「まあなんだ、そう言うことでアシュリーはワシが連れて行く事になった。突然ですまぬが剣術指南は誰か他を探してくれんかの。ではまた機会があれば」
そう言い残してご機嫌なアシュリーと共に逃げる様にオスローの街へと繰り出した。




