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その21

 フィルという少年が森の奥から現れ、師匠に助けを求めた。その少年の言葉に一切の躊躇なく走り出す師匠を見て思う、私を助けてくれた時もきっとこうだったのだろうなと。

 記憶をなくしたという師匠は以前とは雰囲気が違う、それは事実だ。妙に砕けた感じは以前の師匠からは想像もできない。

 しかし、誰かのことを思いやるという事に関しては以前と変わらない。記憶がないにも関わらずこうして私と接してくれているのがその証拠だろう。

 そして今この時も知り合いと思しき少年の身を案じて駆け出した事もそうだ。

 私が怨嗟にさいなまれることなく生きてこられたのもそういう師匠に育てられたからだ、ただただ感謝しかない。

 まだまだ師匠から学びたい、まだまだ剣を教えて欲しい、まだまだ甘えさせて欲しい。

 師匠も若くはない、今は元気そうだがこの先どうなるかは分からない。師匠と会えなかった十数年の後悔を忘れてはいけない。


「フィル、どっちじゃ?」

「も、もう少し、あの先の大きな木のある辺りです」

 恐らく腕の傷が痛むのだろう、それでも必死で仲間たちと別れた場所を少年が伝える。

「先にゆく」

 そう言うと師匠は速度を上げ駆けて行った。いくら少年を背負っているとはいえ私より遥かに歳を重ねた師匠に引き離された、この人はどれだけの研鑽を重ねたというのだろう。

 師匠の後を追い大きな木の先に着くと師匠は少年の隣に立っていた。

 少年は土に塗れ、身体のいたるところに傷を負っている。手には原形をとどめていない盾だったであろう物だけ辛うじて持ち、片膝をつきどうにか生き残っているという感じだった。

「アシュリー、三人を頼む」

 その言葉に周りを見渡すと、大きな木の根元にもう一人少年が頭から血を流し気を失っているようだった。師匠の横にいるあの少年は彼を護っていたのだろう、良いリーダーのようだ。

「分かりました」

 そう師匠に答えボロボロになった少年に肩を貸し大きな木の根元へと連れて行く。

「上級ポーションよ、飲みなさい」

 三人にそれぞれ持っていたポーションを飲ませ師匠に視線を向ける。

 師匠がゆっくりと魔物に近づくのに合わせ間合いを取るように魔物が後ろに下がる。

 恐れているな、そう確信した。

 魔物とは強さに対してとても敏感だ。言葉を持たない以上強さに対する感覚は人のそれとは大きく異なる。間違いなく魔物は師匠を恐れている。

 師匠が抜刀すると一気に場の緊張が高まり、魔物は更に後ろに下がる。

 師匠からは感情の揺らぎは感じない、ただ強い殺気だけが魔物に向けられている。

 

 私がまだ小さかった頃、師匠から剣術を教わっていた時に言われたことがある。

「魔物というのは本能で人を襲う、それは魔物が生きていくために必要だからだ。だから私はそれを悪い事だとは思わない。しかし目の前で人が襲われているならば私は助ける。それは私が人だからだ、私が人であるために助けるんだ。人が人を助けるという事に意味はいらないのだよ」

 その時はよくわからなかった、魔物に両親を殺された私は魔物を恨んでいた。しかし、魔物も生きているのだ、自然という枠組みで見るならばそれは仕方のない事だ。そう理解できるには時間がかかったが師匠のおかげで復讐にとらわれずに済んだ。人として生きることが出来た。

 人が人であるために、私が私であるために私は師匠から剣を学び冒険者となった。私自身を護るために、師匠が私を守ってくれたように、私が人であるために。


 頭の上で結われたその長い白髪を揺らし師匠が動いた。その長い髪を後ろになびかせ低い姿勢で魔物に斬りかかり魔物の前足に剣が振り抜かれる。

 振り抜かれた剣の軌跡をなぞるようにその長い髪も振り抜かれ師匠の前へと揺れる。

 その無駄のない動きに思わず目を奪われる。やはり師匠の剣は美しい、まさに剣舞だ。

 前足を斬り落とされた魔物はその場で態勢を崩し倒れかけるが倒れ切る前に師匠の二撃目を受ける。

 前に流れた師匠の髪がくるりと弧を描き天を衝くと剣が魔物の首を捉える。剣が振り下ろされ、少し遅れて髪が落ちてくるのと同時に魔物の首も地面に転がった。

 暫く剣を構えたまま魔物のそばに立っていた師匠が構えを解き、剣に付いた血をを振り払い鞘に納めると場に静寂が訪れた。

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