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その20

 その日俺達は森にフォレストウルフの討伐依頼を受けてやってきていた。

「前に十兵衛さんに教えてもらった盾と片手剣のおかげで戦闘が安定してきたよな」

「そうだなこれならフォレストウルフ相手でも戦えそうだ」

「ケインが安定して引き付けてくれるおかげで魔法も当てやすいよ」

 練習がてら他の狩場で盾と片手剣での戦闘をこなした俺達は前まで苦労していたフォレストウルフの討伐を問題なくこなせるようになっていた。

「十兵衛さんといえばこの間の模擬戦すごかったよね、相手の女の人Aランクだって言ってたよね」

 ダートが思い出したように話しだす。

「そうだな確かにスタンツさんがそう言ってた」

「俺なんて何がどうなってるのかさっぱりわからなかったよ」

 俺達の中でも一番目の良いフィルでも二人の模擬戦の動きをとらえることは出来なかった。もちろん俺もただただ驚いて見ているだけだった訳だが。

「やっぱり十兵衛さんってすごい人なんだよね?」

「本人はFランクだって言ってたけどワイルドボアを簡単に仕留めるぐらいだからな」

 ダートとフィルの言う通りだ。ワイルドボアといえばこの辺りじゃ最上級の強さの魔物で、討伐依頼を受けようと思えばⅮランクは必要な魔物だ。

「でも冒険者タグは確かにFランクだったんだよな。スタンツさんもFランクだって言ってたし、一体何者なんだろう……」

 そんなことを話しながら森を進んでいるとフィルが足を止め身構える。

 それを見て俺達も話を止め戦闘態勢をとると、少し先の茂みがガサガサと音を立てた。

 じっと茂みに視線を向けていると魔物が一体現れる。

「なんだあれは!」

 フィルが声を漏らす。

 茂みから現れたのはフォレストウルフよりも二回り以上大きな真っ黒な狼だった。

 真っ黒な狼は悠々と現れるとこちらに視線を向けゆっくりと近づいてくる。

 そして真っ赤な目でこちらを見ながらグルルと喉を鳴らす。

 次の瞬間すごい速さで駆け出すと索敵のために前に出ていたフィルが前足で薙ぎ払われ飛ばされた。

「フィル!!」

 吹き飛ばされたフィルはどうにか立ち上がったが腕からは血が流れている。

 フィルを吹き飛ばした真っ黒な狼は次にこちらを向きさっきと同じように駆け出すと今度は俺に襲い掛かってきた。

 必死で盾を構え前足の攻撃を受け止めようとしたが受けきれず、ダートを巻き込み吹き飛ばされてしまった。

 これはまずい、俺達が相手できる魔物じゃない。誰がどう見ても分かる状況だった。

 巻き込まれ吹き飛ばされたダートは木に打ち付けられ、頭から血を流して気を失っているようだ。

「フィル、逃げろ!」

 少し離れたところでよろめきながらも立ち上がり短剣を構えるフィルに声をかける。

「でもケイン……」

「フィルだけなら逃げられる、逃げて助けを呼んで来てくれ! それまでどうにかして持ちこたえる!」

 パーティーのリーダーとして冷静な判断をしなければ、そう考えフィルに指示を出す。

「持ちこたえるって言ってもそんなことできるのかよ!」

「分からない。けどダートが気は失ってる、俺はダートを護る。フィルの足と索敵能力があれば森を抜けられるはずだ。あまり長くは持たないだろう、フィル頼む!」

 踏ん張りの効かない足に力を込め盾を構える。

「くそっ、死ぬなよ!」

 そう言うとフィルは全力で駆け出した。

 頼んだぞフィル、助けが来るまでダートを護り切るんだ。そう心で呟き盾を構えたまま真っ黒な狼に斬りかかる。

 しかし剣は狼には届かずまた吹き飛ばされる。

 十兵衛さんに言われたとおりに盾を持っていて良かった、両手剣のままだったらもう立つ事もできなかっただろうな。

 真っ黒な狼は弄ぶようにゆっくりと動き前足を振りかざし攻撃してくる。その度に盾で受け、吹き飛ばされる。

 新調したばかりの盾は一部が欠け、所々にヒビが入って行く。

 ダートはまだ動けない俺が何とかしなければ、そう強く意識を保ち震える足に力を込め吹き飛ばされる度に立ち上がる。

 体のあちこちが痛み盾を持つ手にも力が入らなくなってきていた。それでも諦めるわけにはいかない、俺達の冒険はまだ始まったばかりなのだから。

 何度吹き飛ばされたことだろう、右手に持っていた剣はどこかに飛ばされてもう左手に持った盾しかない。その盾もすでに原形をとどめてはいない。

 もはや立ち上がったとしても意味があるのかさえ分からなくなっていた。それでも歯を食いしばり立ち上がろうとしたが立ち上がる事さえできなくなっていた。

 片膝をつき必死に足に力を込め立ち上がろうとした。視界もぼやけかろうじて黒い狼の姿だけがぼんやりと視認できる程度だった。

 その時体の左側が影に覆われ、頭に何かが触れる感触がした。

「ケイン、よく頑張ったの」

 声のした方に視線を向けるとぼやけていた視界の焦点が合う、十兵衛さん!

「諦めなかったケインの勝ちじゃ、だれも命を落とさず街まで帰るぞ」

 俺の頭にそっと手を乗せ、険しい視線を魔物に向けたままそう言った十兵衛さんの言葉はとても優しくそして温かかった。

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