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その2

 興奮冷めやらぬとはまさに今の自分の状態をいうのだろうと思った。

 なぜなら、ゴブリンが居たのだ。間違いない、ここは異世界だ。ずっと思い続けた異世界転生を成し遂げたのだから、ジジイだけど。

 この際容姿はどうでもいいだろう、何せ夢が叶ったのだから。


 ゴブリンを倒した後、少し森の中に入ってみた。そして何体かの魔物に遭遇した、そう魔物がいたのだ。

 人の背丈はある蜂、こいつは何とかビーに違いない。軽自動車より少し小さいサイズの猪、これは何とかボアという名前だろう。そんなことを考えながら魔物を倒し、元居た小屋に戻ってきた。

 そして改めて考えをめぐらす。

 人にはまだ出会ってはいないが異世界であることは確定だろう。何せ魔物が居たんだから。

 で、だ。やはりこの先は定番の冒険者で決まりだろう。幸い転生特典と思しき刀と身体能力がある。見た目はジジイだが意識しなくても体が勝手に動いてくれる。しかもかなりキレッキレッにだ。

 次に名前だな。せっかくの異世界だ、新しい自分なのだから名前も新しくすることにしよう。

 そうだな、刀を持ってることだし職業的には剣士よりもサムライの方がしっくりくる。となるとそれに準じた名前の方が自分的には違和感がないな。さて何にしようか……

 ムサシ、コジロウ……なんか違うな。ちょっと名前に対するキャラのイメージがありすぎだな。よし、なら十兵衛にしよう。柳生十兵衛、あんまりよく知らないが剣豪だったはず。確か隻眼なビジュアルだった気がするが十兵衛だけもらうからそこは気にしなくていいだろう。決まりだ、今から十兵衛と名乗ろう。

 後はキャラ付けだな。せっかくの異世界だしっかりロールプレイしなくちゃもったいない。

 やはりジジイなんだからしゃべり口調からそれっぽくするか。一人称はやっぱりワシだろう。自分のことをワシなんて言ったことないしワシなんて言うやつは見た事ないが定番だしな。まあ実際中身もジジイなんだが。

「ワシは十兵衛じゃ」

 よし、決まりだな。後は身支度を整えて明日には街に向かうとするか、てか街ってどこにあるんだ?

 

 その日は仕留めた何とかボアの肉を焼き夕食にすることにした。棚にあった塩だけの味付けだったのだが中々にうまかった。

 明けて翌日の朝、鏡に向かい長く伸びた白髪を頭の上の方でちょんまげをイメージしてひもで結わえる。髪があるというのは実に素晴らしい事だ、自然と鼻歌が交じる。

 小屋にあった服を引っ張り出し、サムライっぽく着こなしてみる。

「まぁこんなもんじゃろう」

 ジジイ口調を実践しながら身支度を整える。

 袴とまではいかないが裾の広いズボンを履きシャツのボタンは留めず前合わせにしてズボンにイン。即席だがそれらしくは見えるだろう。腰にベルトを巻き刀を差すと完了だ。

 しかし、地下足袋と草鞋がないのは残念だ。

 そして勢いよく扉を開き小屋を出る。

「異世界、満喫といこうかの」

 それにしてもこのジジイ口調、いざ言葉に出すと違和感しかないな。


 当てもなく適当に森を歩き続けていると陽が傾きだしたのか辺りが暗くなってきた。

「まいったのう」

 頭の中でジジイ口調を反復したおかげで割とすんなり声に出た。こっちは順調だが、ただいま絶賛迷子中だった。

 実際のところ明確な目的地があるわけでもないので迷子とも言えないわけだが……

 どうしたものかと考えながら進んでいると遠くから微かに声のようなものが聞こえてきた。

 これはこの世界に来てからの人との初コンタクトかもしれない、そう思うと自然と駆け出していた。

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