その19
「ここで何をしとるんじゃアシュリー?」
「師匠を待ってました」
左肩と胸の部分に金属プレートがあしらわれ、よく使いこまれた皮鎧に身を包み剣を携えたアシュリーは満面の笑みを湛えたままそう答えた。
「いや待て、剣術指南はどうしたんじゃ?」
「辞めてきました」
満面の笑みを崩さず答えるアシュリー。
いや待て待て、騎士隊の剣術指南なら公務員みたいなものだろ? そんなにあっさり安定した職をやめるなんて……
まあしかしこの間の話だとワシは育ての親で剣の師匠。しかも十年以上会えてなかったという事だったし一緒にいたという気持ちも分からなくもない。
しかもアシュリーは元々Aランク冒険者、勝手知ったるというところか。
「よいかアシュリー……」
小言の一つでも言おうかと思たのだがキラキラと期待を込めた瞳で見つめてくるアシュリーを見ていると根負けしてしまった。
「……くれぐれも無茶はせんようにな」
「はい師匠!」
その日一番の笑顔で元気よく返事が返ってきた。
アシュリーを連れて行くことにしたのでこの日はフォレストウルフの討伐を受けることにした。依頼を受ける条件としてパーティーでの討伐という制限があったためだ。
「アシュリーよ、今日はフォレストウルフの討伐に行くぞ」
「分かりました。しかし師匠、師匠ならもっと強い魔物でも大丈夫だと思うのですが?」
Aランクのアシュリーには物足りないだろうが物には順序というものがある。
「よいかアシュリー、ワシはやっとEランクに上がったばかりじゃ。自分のランクに見合った依頼を受けんでどうする。楽しみが減ってしまうではないか」
せっかく冒険者になったのだからいろんな魔物を見てみたいじゃないか、ワシの目的は異世界を満喫することなんだから。
「楽しみですか……なるほど」
なんか勝手に納得しているが気にしないことにしよう。
フレアに依頼書を渡しフォレストウルフの生息地を確認して冒険者ギルドを出る。
「アシュリーよ、フォレストウルフというのは群れで襲ってくるようじゃが今日は多対一での戦いをやってみたいんじゃ。じゃから初めは手を出さんと見ておってくれんかの」
「分かりました師匠、勉強させていただきます!」
なんか過剰に評価されている気がしなくもないがまあいいだろう。
フォレストウルフの生息地の森に着くと早速三体のフォレストウルフを見つけた。フォレストウルフは鼻が効くようですぐにこちらに気付きゆっくりと近づいてきた。
「アシュリー少し離れておれ」
アシュリーをその場に残し抜刀するとワシは一人でフォレストウルフに向かって行った。
一体がのフォレストウルフが駆け出し向かってくる。
牙をむき出し噛み付いてくるところを躱し下段から胴を斬り上げる。斬られたフォレストウルフはそのまま力なく倒れ込み動かなくなった。
それを見た二体のフォレストウルフが今度は同時にこちらに向かって来る。
先に左から嚙みつきかかってきたフォレストウルフの首を斬り上げ、返す刀で右側の一体に刀を振り下ろす。思ったより呆気なく三体のフォレストウルフが肉塊へと変わった。群れているとはいえ所詮はEランクの依頼、まあこんなものだろう。
ワシがフォレストウルフを倒したのを確認するとアシュリーが近づいてくる。
「師匠に牙を向けるとは愚かな獣達ですね」
この間のごろつきにもそうだったがどうもアシュリーはワシ以外にはなかなか辛辣なようだ。
「もう少し奥まで入ってみるかの」
フォレストウルフの素材を回収しアシュリーと共に森のさらに奥へと入って行く。
その後もいくつかの群れと遭遇しアシュリーと問題なくフォレストウルフを討伐していった。
「今日は動き出すのが遅かったしそろそろ街に戻るとするかの」
陽も傾きかけてきたのでアシュリーにそう告げアルカンの街に戻ることにした。
そしてアシュリーと共に倒したフォレストウルフの素材を回収していると、森の奥から何かが勢い良く近づいてくるのに気付く。
「た、助けてくれー!」
森の奥から現れたのはケインと一緒にいたフィルだった。
「どうしたんじゃフィル?」
息も絶え絶えに現れたフィルは腕に傷を負っている。
「ケインとダートが見た事もない魔物に!」
怯えた様子のフィルが必死に声を絞り出す。
「行くぞアシュリー。フィル、案内せい」
アシュリーにフィルを背負わせるとフィルが指さす方に全力で駆け出した。




