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その15

 その日いつものように執務室で仕事をしているとドアをノックする音が聞こえた

「マスター、フレアですよろしいですか?」

 そう言って許可も出していないのにフレアが部屋に入ってきた。

「フレア、ドアを開けるのは俺が許可を出した後だ」

 全く意に介した様子もなく笑顔を浮かべフレアは部屋に入ってくる、あの笑顔を向けられては怒鳴りつける気も失せてしまう。

「で、どうしたんだ?」

「はい、今受付に来られた方が十兵衛さんの事を聞きたいとおっしゃられていましてどうしたものかと」

「十兵衛の事を聞きたいだと? 誰だそいつは?」

「はい、Aランク冒険者のアシュリーさんという方です」

 Aランク冒険者のアシュリーだと! 女だてらに凄まじい剣技でAランク冒険者に上り詰めた有名人じゃないか。今は冒険者としての活動をやめてオスローで騎士隊の剣術指南をしているはずだが、なぜ十兵衛の事を聞きに来る?

「分かった、俺が対応する」

 よくわからんがとにかく話を聞いてみるか。そう思い受付カウンターへと向かう。

「ここのギルドマスターをやっているスタンツだ、十兵衛の事を聞きたいという事だがどういうことだ?」

 並の冒険者なら大体俺を見て萎縮するもんだが全くそういう様子は見えない。

「はい、実は私が剣術指南を務めている騎士隊が十兵衛という老人に助けていただいたと聞いたもので伺いました。なんでもアルカンの街へと向かわれたと聞きまして、ろくにお礼も言えず立ち去られたという事で代わりに私からせめてお礼をと思いまして」

 騎士隊を助けただと? そんなこと聞いてないぞ! しかもオスローの騎士隊といえばかなりの精鋭だと聞いているが……

「確かに十兵衛という冒険者はいるが人違いじゃないか? 十兵衛はまだ冒険者になりたてのFランクだぞ?」

「長い白髪を頭の上で結い、反りのある片刃で細身の剣を携えていたと聞いています」

 そのまんま十兵衛だな、間違いじゃなさそうだ。冒険者証も提示しているしまあいいだろう。

「十兵衛は今他のパーティーと一緒に依頼に向かっている。何も問題なければ今日中には帰ってくるはずだ」

「依頼に出ているのですか、わかりましたありがとうございます」

 そう言ってアシュリーはカウンターを離れ出口へと歩いて行った。


「マスター、フレアです」

 そう言い終わるのと同時に扉は開かれていた。もう何も言うまい、いっそ扉は開けたままにしておこうか……

「今度は何だ?」

「はい、十兵衛さんが訓練場を使わせてほしいと言っているんですが」

 十兵衛が訓練場を使いたい? 何をする気だ。

「わかった、すぐ行く」

 受付カウンターへと向かうと十兵衛とケイン達のパーティーが居た、無事依頼は達成できたようだな。

「スタンツ、すまんが訓練場をちょっと貸してもえんかの?」

 俺が来たのを見止めると十兵衛が話しかけてきた。

「それは構わんが何をするつもりだ?」

「そこのお嬢さんとちょっと手合わせをするんじゃが?」

 十兵衛が振り返り後ろに視線を向けた先には朝に十兵衛の事を訪ねてきたアシュリーが居た。なぜ礼を言いに来たアシュリーと手合わせすることになってるんだ!

「はぁー、まあいい好きに使え。ただし俺も立ち会う」

 理由はよくわからんが聞いてもまともな答えは返ってこないだろう。仕方なく訓練場へと向かった。


 十兵衛とアシュリーの手合わせは圧巻だった。

 アシュリーが先に仕掛け十兵衛が事も無げに受ける、俺ではとても受けきれるものじゃない。だが十兵衛は一歩も動くことなく全て受けきった。横で見ていたケイン達は口を開けたまま呆然と眺めている。

 更に剣速を増しアシュリーが撃ち込む。噂以上の腕前だ、もう目で捉えるのも難しい。だがそれでも十兵衛には余裕があるように見える。

 しかし勝負は呆気なくついた。

 十兵衛が軽く剣を出しアシュリーの剣を下にいなしたように見えた次の瞬間に十兵衛の木剣がアシュリーの喉元に突きつけられていた。目の前で起こった事だったが理解の範疇を越えていた。

 アシュリーはそのまま力なくその場に膝をつきどうにか両手をついて身体を支えていた。

 泣いているのか? なぜだ? 師匠とはどういうことだ?

 少しの沈黙の後、十兵衛がアシュリーに寄り添う。

「少し二人だけにしてくれんかの」

 その十兵衛の言葉で我に返り、その言葉に従いケイン達を促し訓練場を後にした。

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