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その14

「すまんが先に依頼の報告をしてくるので待っておいてもらえるかの?」

 そう老人に声をかけられ「はい」とだけ答えた。まだ気持ちの整理ができていなかったので私自身も少し時間が欲しかった。

 暫く待ち報告を終えたようで老人に手招きされギルドのカウンターへと向かうと、奥から先程老人の事を教えてくれたギルドマスターのスタンツが出てきた。

「スタンツ、すまんが訓練場をちょっと貸してもえんかの?」

 その老人の問いかけにギルドマスターが答える。

「それは構わんが何をするつもりだ?」

「そこのお嬢さんとちょっと手合わせをするんじゃが?」

 こちらに視線を向けたギルドマスターが驚いたような表情を見せる。

「ちょっと待て、そのお嬢さんって誰だかわかってるのか?」

「ん? アシュリーという名のお嬢さんじゃよ。さっき知り合ったばかりじゃが」

 ギルドマスターは呆れたように老人を見てため息をついた。

「はぁー、まあいい好きに使え。ただし俺も立ち会う」

 そう言うとギルドマスターはカウンターの横にある扉に向かって歩き出した。

 訓練場に着くと老人と私はそれぞれ木剣を手に取り向かい合った。

「よろしくお願いします」

 木剣を左手に携え老人に礼を向ける。

「お手柔らかに頼むよ」

 そう言うと老人も礼をし、お互い剣を構えた。

 先ほどまでの老人は確かに私の知る師匠とは雰囲気が違っていた。気を落ち着かせた今だから分かる事だが妙に砕けた感じだった。だが今剣を構え向き合う老人は私の知る師匠そのままだった、いや以前の師匠よりも威圧感がさらに増しているか。

 昔に稽古をつけてもらっていた頃を思い出し先に打ち込む。

 軽く剣先を添わされ受け流されそうになるが力を逆に込め剣を交錯させる。すぐに一歩引きすぐさままた一歩踏み出し剣を振る。幾合が剣を交えまた間合いを取る。

 師匠の剣は受けが非常にうまかった。そして今目の前にいる十兵衛と名乗る老人もまだ一歩たりとも動いていない、私の剣戟は全て受けられている。動けないのではなく動かずとも受けられるという事だ。

 更に幾合か撃ち込むがやはり全て受けられる。意を決し勝負を決めるべく持てる力と技量を込め鋭く撃ち込んだ。

 しかしそれでもようやく数歩下がらせる事しかできなかった。

 これまでも冒険者として何度も手合わせをしたことがある。だがここまで手も足も出なかった事はない。師匠の教えを忘れる事なく奢らず鍛錬を続け腕を磨いてきたつもりだった。

 今、指南をしている騎士達も決して弱くはない。私にとってもいい鍛錬となっている。それでも私の剣はこの老人には届かない。

 間合いを取り直し、一つ息を吐き捨て身で前に出ようとした時だった。手に持った木剣が下へと払われた。払われた木剣に向けた視線をすぐさま老人に向け直した時には既に喉元に木剣の切っ先が突きつけられ、すんでのところで止まっていた。

「勝負を決めに来る時わずかに剣先が下がるの、癖かの。おそらく鍛錬を積んで矯正してはおるようじゃが完全に直さんと命に関わるぞ」

 その言葉で昔の師匠との稽古の記憶が蘇る……

 

 

「アシュリー、また剣先が下がっているぞ。自分と同等か格上の相手に対してはそれは致命的な欠点になる。常に意識して直しなさい」

「はい、師匠!」

 毎日基本である素振りをこなした後、師匠と向き合い手合わせをしていた。

 先に私が撃ち込み師匠が受ける。その後師匠が私の打ち込みを再現して撃ち込み私が受ける。

「今剣先が下がったのが分かるか?」

「はい、撃ち込める隙がありました」

「そうだ、私が相手でも癖が出ればアシュリーでも勝てる。これがどういう事が分かるか?」

「はい……命を落とします」

 実際に自分の至らないところを見せられその危うさを認識させてくれていた。よい師匠だと思った。

 冒険者として自立するようになるころにはその癖はかなり矯正できていた。冒険者となってからは相手が魔物だった事に加え、同等の力を持つ者、格上の相手と剣を交えることもなかったため完全に矯正できていなかった事に気付けなかったのだろう。

 しかしこの老人にはあっさりと見抜かれた。

 

「参り……ました」

 喉元に突き付けられた木剣が下ろされ老人が少し下がるのと同時にその場に両膝を付き、力の抜けた身体を支えようと両手を地に付けていた。

「ありがとうございました、師匠」

 この人は間違いなく師匠だ。もう会えないと思っていた、どこかで諦めていた……

 力なく出た声は震え、いつの間にか涙が溢れていた。

 少しの沈黙の後ゆっくりと師匠が近づいてくるのが分かった。

 そして、地面に両手を付き涙を流す私の前で片膝をつき優しく抱きしめ頭を撫でてくれる。それは両親を亡くし泣きじゃくっていた私をあやしてくれていたあの時の師匠のそれと同じだった。気付いた時には私は師匠に抱きつき、大きく声を上げて泣いていた。

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