その13
翌日、私は朝からアルカンの街に向かっていた。
馬車に揺られながら心は期待と不安が入り乱れていた。師匠とはもう十年以上会っていない。
私は五歳の時に師匠に引き取られ育てられた。
田舎の村に住んでいた私は両親に付き添い行商で街に向かう途中で魔物に襲われた。その時たまたま通りがかった師匠に助けられたのだが、両親は私を逃がすため魔物に殺されてしまった。
私を引き取った師匠は私に剣を教えてくれた。他に教えられるものがないと言っていたが私に何かをさせることで両親を失った私の気持ちを紛らわせようとしていたのだと思う。親というか年齢的には祖父という感じではあったが剣の師としては厳しく、そして親代わりとしてはとても優しく私を育ててくれた。
十五歳になり成人した私は冒険者になった。その頃には剣の腕も上達し、師匠に連れられ冒険者となる前から実戦も経験していた。
冒険者となり順調に経験を重ね十年がたった頃にはAランク冒険者となっていた、かつての師匠と同じだ。
十年ずっと腕を磨きようやく師匠に胸を張って会いに行けると思い師匠と暮らしていた家を訪ねたがそこに師匠はいなかった。
近所で聞いてみたが行方は分からず、分かったのは体調を崩していたらしく一年ほど前にどこかに越していったという事だけだった。
師匠と暮らしていた頃に、いつまでも冒険者でいることは難しいから冒険者以外の道も考えるように言われていた。私はそれまでの伝手で騎士隊の剣術指南になることが決まっていたのだが結局師匠にはその報告すらできなかった……
しかし昨日ルーベン隊長から聞いた十兵衛という老人の特徴は師匠とよく似ていた。特に反りのある片刃で細身の剣というのは師匠以外に持っている者を見た事がない、それは十年という冒険者として過ごした中でもそうだった。白髪の長い髪というのも師匠の容姿と重なる。
そして、師匠に会えるかもしれないという願いにも似た期待を抱きアルカンの街に到着した。
アルカンの街に到着してすぐに冒険者ギルドに向かった。今でもAランク冒険者としての登録は有効だったので何か情報が得られるのじゃないかと思ったからだ。
案の定、十兵衛という冒険者が最近登録に来て、その人物は白髪の老人という事だった。
詳しく聞いてみると別の冒険者とパーティーを組んで依頼に向かっているという事だったので街の入り口近くで戻ってくるのを待つことにした。
はやる気持ちを抑えながら待っていると少年達三人と一緒に街に入ってくる老人が目に入る。通り過ぎるその姿を見て確信する、間違いない師匠だ!
「師匠!、ウォルター師匠!」
その声に師匠が振り返る。
「はて、どちらのお嬢さんかな? ワシは十兵衛というのだが」
そんなはずはない、私が師匠を見間違うはずがない。縋るような想いで声を振り絞る。
「私です、アシュリーです! 師匠に育てていただき、剣を教えていただいたアシュリーです!」
あれから十年以上が経っているのだ容姿も変わっているだろう、そう思い必死に訴えた。
「アシュリー? すまんが人違いじゃろ」
そう言ってその場を去ろうとする師匠に駆け寄り、行く手を遮るともう一度声をかける。
「師匠、アシュリーです。本当に私が分かりませんか?」
しかし、悲鳴にも似た私のその言葉は打ち砕かれる。
「申し訳ないがワシは師匠と呼ばれるような人間ではないしお嬢さんの事も知らぬのだ、ただの駆け出しのFランク冒険者じゃからの」
そう言って私をその場に残し師匠は歩き出した。
頭が真っ白になった。ようやく師匠に会えたと思ったのに私の事を知らないと言われた。ただ立ち尽くすしかなかった。それでもまだ必死で縋った。
「私と、私と手合わせをしてもらえませんか!」
去ろうとする師匠の背中に最後の力を振り絞り声を上げた。
困ったような表情で振り返った師匠に向かって深く頭を下げる。
「それだけ必死に頼まれると無下にもできんの、今から冒険者ギルドに行くからそこで構わんかの?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
頭を下げたままそう答え師匠の後に付いて私は冒険者ギルドまで向かった。




