誘拐
なろう太郎とカンナギ=トキマはその日は戦争に出て空き家となった人の家を拝借した。
次の日――
「悪い気もするけど……」
なろう太郎は申し訳なさそうだ。
「いいんですよ。この国では」
などと会話をかわしつつ空き家から出る2人。
街道に沿って、とりあえず行き先も決めないまま南へゆく。
と、北へ行く馬車とすれ違う。
「危ないから、君はこっち。俺が車道側歩くから」
「太郎さん……」
ちょっとしたことだが、感動したらしいカンナギ=トキマ。
と、馬車が止まった。
そのことにすれ違った2人は気づいていない。
馬車から男が2人飛び出してきた。1人は宝箱を開けてからなろう太郎とカンナギ=トキマに向かって猛ダッシュする。
だが後ろに目がついてないなろう太郎とカンナギ=トキマは全く気づかない!
「アイスクリームおいしい街にいこっかー」
「わー、アイスわたし大好きなんです!」
と会話に夢中だ。27歳とはいえ、地獄の生活(本人談)味わったとはいえ、戦争を知らぬ世代しかいなくなった日本ではこういう出来事の対処は大人でもかーなーり情けない対処しかできないだろう。
悲劇が、すぐそこに迫っている!
だが――
ひょいっ
目が血走った白い男が指示をし、目が血走ったガングロ男がカンナギ=トキマをかるがると――ではないが持ち上げる。
「この女! 見た目より重いな! 奴隷のくせにいいもん食べやがって! この国真面目に働いてる奴が一番苦しんでんだぞ! そして最後は米すら買えず、俺みたいに人さらいで食っていくようになる!」
「きゃああああああああああああああああっ」
今頃悲鳴を上げても遅い。男に担がれていくカンナギ=トキマ。
「な!? お、おい! 待てよ! カンナギをどこつれていくんだよ! 待てよ! 待ってくれよ! おい!! ちょっと待てよ! おい!!! ちくしょう!」
なろう太郎の脳裏に、最悪の展開が浮かぶ。
ただ誰かから力をもらっただけでは、何の役にも立たないことを自分で証明したなろう太郎だった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
と、絶望したなろう太郎の視界の向こうでは――
馬車につけられた宝箱にカンナギ=トキマが放り込まれ、宝箱が閉じられる。
ダダダダダダダダダダッ!
そして貴族服を着た180cm台の金髪の男が向こうから猛ダッシュで馬車に近づいてくる。
ヒューーーーーーーーー!
十二単を着たピンク髪の女も金髪貴族と並んでふよふよ飛んでいる。
目が血走った白い男の方が声を荒げる。
「なんだおまえら!!」
だが金髪貴族と十二単は答えない。いや――
「なんだおまえときかれたら! 答えてあげるが世の情け とはわたしは思わなーい! よーーーーーーーーん!」
十二単が答える。いや答えてないが。
「わたしは思うので答えてあげるぞ! わたしはち○こです!! ヴァーレンス王国のち○こ公爵です! この馬車ち○こくさいので、うぇっうぉっ、ち○こくせえ! ち○こ公爵のわたしが没収して天空のち○こを通って雲の上のお城へ案内しもぁあす」
といって、手綱を握る金髪貴族。馬車は180度回転して、なろう太郎の横を走り去ろうとする。
「ち○こ言い過ぎ、小学生かよ!」
と、十二単がケラケラ笑う。
「さゆちゃん! さゆちゃんだろ!? 助けに来てくれたの!」
どう見てもなろう太郎には馴染みがあった女だ。自分が地球で抱き枕にしていた彼女そっくりだ!
「ふざけたこと言ってんじゃねえ!! こいつ、誘拐犯から誘拐するなんて! 聞いた事ねえぞ!!」
目が血走ったガングロ男が滅茶苦茶に叫ぶ。
金髪貴族はさらにノル。
「はっはっはっはっは! 馬車を返して欲しけりゃ1億ウサギ用意しろ!」
「おい! 馬車は無事なんだろうな!?」
誘拐犯もノリが良い。
「さゆ、馬車の声を聞かせてやれ」
金髪貴族がさゆに言う。
「ほいほい。んじゃーあー、お尻、消毒~汚物は消毒だー! 妖怪雪女さまのキレイな炎で君のアーナーを消毒だ~~~~!」
桜雪さゆが右手を馬の尻の穴にむける。妖術で馬のお尻の穴だけ妖術の火であぶる。すると、馬がなく。
「ヒヒーン!」
「おい、日本人のムーンショッター! なにぼさっとしている! 行動しろ! これだから日本の家畜は色々資格取ってるわりに! そのわりに! 『いや、専門じゃないんで……』と《《逆縄張り意識》》で逃げるクソ大人! とっさのときに男も女も役立たず! そのでくの坊さを恥じれ!」
金髪貴族がもどかしそうに吼える。
「え、え、え、俺は何をすれば――――」
なろう太郎はまごまごしている。
「――――っ! 1分1秒が大事な時に、本当役に立たねえなあ日本人! イズモタケルがいたときの日本はこんな役立たずいなかったぞ! 足を動かせ足を!!」
金髪貴族がイライラして吼える!
「出雲建さんの時代どころか、幕末にもこんなウドの大木いなかったわ。今の日本グズばっかー」
桜雪さゆがばかにしたようにいう。
「足? えー、えー、どっちに!?」
「日本人! 指示待ちロボットの日本人! 動けって!!! はやく!!!!」
「だから足どっちに!」
なろう太郎はまだまごまごしている。
「こいつ殺してやろうか大人になってこの役立たず! 何だ日本人!? マニュアルでもないと動けないのか! 1分1秒が大事な時っていってんだろ! イライラするわー、この前地球滅ぼして正解だったなこんなのしかいない地球。
その上他人を叱る時だけは一人前、マニュアルなんかより安全性高い上にスピーディな方法あるっていうのにそれすると『あぎゃああおおお゛ーーーーーーマニュアルに従え!!!!』って発狂し始めた時はこいつ悪魔にとりつかれたか? って思ったね。
足どっちにって! 自分の行動の責任すら他の誰かに取ってもらいたいのか! スーツ着て偉ぶってる大人の男女、戦争で役に立たないスーツ着た赤ちゃんたくさんいたんだろうな今の日本人! 全員サリサの虎吼光波とフィオラの黒竜光波とわたしの黒竜光波で消し飛ばしたが地獄の球の北半球の人間。わたしの母のゆかりの地なのになっさけない」
金髪貴族がさらにイライラして、顔が不良のメンチきりのようになって吼える!
「わたし連れてくわ」
呆れた口調で、桜雪さゆが空を飛び、猫のようになろう太郎の首根っこを掴んでふよふよと金髪貴族のもとへ戻ってきた。
「こっちのが速いね~~」
「まったくだ。日本人はウスノロだな。命を左右する瞬間では。戦争を知らないマニュアル世代は本当役立たずだな」
金髪貴族がバカにしたように吐きすてる。
パカラッパカラッ――――!
金髪貴族のち○こ公爵となろう太郎は、誘拐犯を置き去りにした。
「まぁでも面白い瞬間に立ち会えたんだし。許してあげましょうよ。息子さん」
と桜雪さゆが言う。
「さゆちゃん……なんだよね」
なろう太郎は桜雪さゆに涙ぐんでそう呼びかける。
だけでなく、桜雪さゆの足を、ふくらはぎのあたりをさわりつつなろう太郎はつぶやく。
「いやん、エッチねえ」
桜雪さゆは足に触ったことは咎めず、面白くおどけてみせる。
「たしかに。わたしはさゆちゃんだよ~~~~~~~~ん!」
と、両手の人差し指を左右ほっぺにめり込ませ、体をくねらせて答える桜雪さゆ。
「で、君誰? いや、それより宝箱開けないと。奴隷の子窒息するんじゃない? ほれ! はやくお兄さん!」
と急かされたなろう太郎は宝箱を開ける。
「太郎さん! ありがとう! 助けてくれたんですね!」
なろう太郎に抱き着くカンナギ=トキマ。
「いや、助けたのはこの二人さ……」
なろう太郎は正直に言った。