表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

愛を教えて

「まず最初の命令を下す」

 なろう太郎は向かい合って、カンナギ=トキマに言った。

「は、はい!」

 かわいい声で返事をするカンナギ=トキマ。

「あの、や、やっぱり、そ、そそそ、そのエッチな――」

 顔を真っ赤にしてカンナギ=トキマがたずねる。

「いや、あの、自己紹介してっていうのが命令」

「へ……? 自己紹介なら、奴隷販売場でしましたよ。あれ以上に言う事はあまり……」

「もう一度して」

「あ、はぁ……えっちな命令しないんですか?」

 気が抜けたようにカンナギ=トキマ。

「…………して欲しいの?」

 半眼でなろう太郎はカンナギ=トキマを見る。

「いっいえ! そんな! わたし! はい! 自己紹介します!

 ――――!

 ――――!」

 とさっき聞いたのとあまり変わらない言葉が繰り返される。

「うん、ありがとう。次の命令」

「は、はい! エッチな……」

 緊張した面持ちでカンナギ=トキマが答える。

「ご主人様はやめて」

「はい。えと、じゃあ、なんてよべば……」

「太郎くんとか」

「えっ、でもそんな友達みたいな。わたしとあなた、奴隷とご主人様だし……」

「俺さ。地球の日本人だからそういうの――そういうのって奴隷の事ね――詳しく分かんないんだ。古代ローマ人なら分かるのかもしれないけど人種違うしローマ人じゃないし俺……」

「はぁ……」

「だから、友達みたいに呼んでくれない? これはすまないけど命令で」

「め、命令なら従いますけど……太郎君。

「あ、あとこれも命令!」

「あ、は、はい! おっぱい見せろとかですか!? その、心の準備が……」

「どうしてもその方向にもっていきたいの?」

「いや、あの、エッチな命令一度はするものって……小説に……」

「本当に言っちゃうよ。しつこいと?」

 なろう太郎は苦笑いしつつ答える。

「す、すみません……でも奴隷になった後の流れが想像していたのと違ったので……」

「君を汚す気にはなれなくて」

 思い出の彼女まで汚してしまう気がして。

 君は大事にしたくて。

「え…………」

「だから、未来は分からないけど、今はそういうつもりはない。今はね」

 そういうなろう太郎の目をカンナギ=トキマは不思議なものを見るように下から覗き込んだ。

「で、命令。今更だけど、どうして異星人であるオレと君が言葉通じてるのが説明して。命令ね」

 命令を聞くと、ポカーンとした表情でカンナギ=トキマが固まった。

「そんなの当たり前じゃないですか。あなた日本人でしょ? なら楽勝ですよ」

「な、なんで? 日本人なら楽勝なの」

「だって、この星男の天照が作った神お手製の星ですもんそりゃ通じますよ同じ神の下で栄えた民族ですから」

「……へ? 天照って女だよね」

「男ですよヴァーレンスには度々地上に降臨してるみたいですし、男の天照。天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊《あまてるくにてるひこあめのほあかりくしたまにぎはやひのみこと》。

 アメノウズメの、岩戸で『女の裸踊りで覗くのは男』じゃないですか。常識的に考えて。男の人は女の裸を見たがるじゃないですか。あそこの記述改変されてるって気づかないわけないでしょう普通」

「なんか、呪文みたいな名前だね……」

「常識ですよ天照が男だって」

「へぇ~~~~」

 となろう太郎は相槌を打った。そして話題を変える。

「君、高いらしいね奴隷だと。血統書ももらったし。値段も車くらいの値段だ」

「車……? 地球で動くガソリンとか言う危険物質で動く遅い車ですか。わたしでも魔力展開すれば時速400kmは出るのに」

「400km……!?」

 驚いて固まるなろう太郎。

「あ。これからどうすればいいのか教えて。命令で」

「えっ……………………どうしましょう……」

「無理な命令だったか、ごめん……」

「い、いえ。でもどこか住む所は欲しいですよね」

「やっぱそれか…………家なぁ~~……」

 となろう太郎が財布を見る。

「ビナーにもらったお金、まだあるけど、家を買えるほどではないよなぁこれは」

 と財布を覗き込みながら言う。

「あ、そうだ。さっきの通りに戻ろう」

 なろう太郎が急に言う。

「……どうかされたのですか。ご主人様……じゃなくて太郎くん」

「魔導携帯端末、君の分も買わないと」

「あ、そこまで気を遣わなくても」

「命令。魔導携帯端末持ちなさい。買ってあげるから」

「は、はい。ありがとうございます」

 素直にお礼を言うカンナギ=トキマ。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「あの、わたし一番安い奴で……」

「いや、魔力制御俺より優れてるから君は高性能の魔道具じゃないともったいないよ……」

 魔道具屋で、一番高い魔導携帯端末をカンナギ=トキマに買ってあげたなろう太郎。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「命令」

「は、はい! エッチな命令ですか! えと、えっと……」

「そのやり取り多すぎてちょっと飽きてきた」

「あっ、す、すいません…………」

 じゃらんと適度になろう太郎がカンナギ=トキマにお金を渡す。

「え…………?」

「お金渡すから自分の好きなもの今から買う事。

 物入れるリュック、あとパンツとか下着替え持っていないみたいだし必要でしょ? 下着1枚じゃあ不便なことは男でもわかる」

「あ、は、はい。ありがとうございますー」

「あと大事な事」

「はい! えちぃ――」

「くどい!」

「はうぅ……」

 実はエチィ方向に持っていってもせき止めてくれる事に安心してカンナギ=トキマはわざとエチィ事を言っていた。

 これでなろう太郎がのってくるようならカンナギ=トキマは危険を感じてそういう話題は出さない。

 そのくらいの信頼度はすでに二人の間に構築されていた。よく男を観察している。カンナギ=トキマは。

「君の好きな小説何冊かって、本屋で」

「え……それのどこが大事……」

「好きな子の好きなものを知りたいって事は大事だろ……」

 顔を赤らめて、なろう太郎。

「…………はい! わかりました!」

 顔を輝かせて、元気いっぱいに返事をしたカンナギ=トキマ。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 そして買い物が終わり人が行きかう通り。日本の東京よりは人が少ないが。

「俺がいた東京。

 あ、ごめんね、カンナギちゃん。君には分からない話しちゃって。でも我慢できないんだ」

「いえ、いいんです。たとえ愚痴や嘆きでも、他の星の事聞けるのは貴重な経験ですし。わたしに地球での愚痴をぶつけてください」

「ごめんね……カンナギちゃん……東京、あそこまで多いとうざったい。冷たい日本人だから多くても知らない人のために命を投げ出してって人いねーし。これくらいでいいさ。

 東京の基準はどんなに迷惑をかけようと、それがどれだけの不道徳だろうと、

『金』

 が優先。そのためなら詐欺だって、なんだってやる。

 いわれのないイメージ操作で、地方バッシングや悪い印象操作もお手の物。

 ほんと死んで欲しい地区、東京は住んでた俺が見た限り、日本じゃない。

 オリンピックは銭ゲバ野郎の大事なイベントだもんな。

 オリンピックは象徴的だったが、ここだけじゃない、他でも金金金金、必死すぎてキモいぜ東京。

学徒出陣 

勤労奉仕

挺身隊

金属供出

強制疎開

消火訓練

国家総動員法

欲しがりません勝つまでは

いったい何と戦っているんだか

なんか滅茶苦茶になってきたなあ

全部キモい東京

救急車の出動が2倍に膨らんでも異常と言わず、

挙句電車が急病人ばかりになれば迷惑だと言い散らし

非常下に関わらず大人から主婦まであの人気ゲーム

ファーストフードには列は出来混み合う

飲食店もマスク信者のご機嫌取りで客をバイ菌扱い

そりゃあちら側も調子に乗るわ

そういう裏『条約』があんじゃないの、

と思ってるけど。前の戦争の敗戦条約みたいな。

その他の不条理もその関係かもしれない

兵器が超発達して戦争の仕方も変わって、庶民には知られない次元で戦争が行われてたんだろ。地球では。いまもしてるけど。

三次大戦まできた技術の長大な進歩を考えると、どんな兵器が最前線なのか想像もつかない。

ニュースみてても、親族内の殺人多いし、ひどい事件多かった。東京では。

ネット上では

「死にたいなら人を巻き込まずに自分だけで死ぬべき」

「死ぬなら迷惑かけずに死ね」

 って愛情のない野郎が多いし。

 俺たち同じ民族だろ? なんて同じ民族でそんな憎しみ合うんだ? 疑問に思った事ないのか?

 社会はあなたを大事にしているし、何かができる。社会はあなたの命を軽視していないし、死んでほしいと思っている人間など1人もいない、という強いメッセージを発していくべきだろ?

 人間は原則として、自分が大事にされていなければ、他者を大事に思いやることはできないよ。俺がそうだったように。

 社会全体でこれ以上、凶行が繰り返されないように、他者への言葉の発信や想いの伝え方に注意すべきだ。

 人の本質は善であるが、その発現のためには教育が必要である

 人の本質は悪で、ほっとくと碌なことをしないので教育が必要である

 いずれにしても心の教育は必要なんだ。

 黙って死ぬなよお前ら

 とことん社会に迷惑掛けて死ぬぞ

 『無念のまま黙って自殺した同胞の為に』もクソな国の足を引っ張れ!

 おとなしく自殺したり、従順にお行儀よく静かに跡を濁す事なくくたばってやったりするなんてダメだ! 悲しいよ!

 いよいよとなりゃそこら中に転がる死体となりゃ伝染病の一つも流行させて大逆転さ! 力が必要ない逆転方法だ。

 努力しないで食えてる世襲コネ野郎が叫ぶ『努力が足りない』に一泡ふかせるやり方だ。


 『日本は人に迷惑をかけてはいけないって窮屈な教育』が行きすぎてる。

 『海外みたいに好きな事したら人に迷惑をかけるのは当たり前だからそれを許そう』ねって教育の方が自殺者は減るよ。

 とそこでいったん言葉を切るなろう太郎。

「俺の身の上話を聞いてくれないか。命令はしない。拒否したいならしてくれていい」

「人の物語読んだり聞いたりするのわたし元々好きなんです。違う世界が見られるから。たとえ、嘆きの物語であっても。その人の魂が籠っているのなら」

 女神のような笑顔でカンナギ=トキマが微笑んだ――ようになろう太郎には見えた。

 そしてなろう太郎は第3話でビナーに吐いた言葉と似たような事を言う。

「子供の言い分を全く聞かずに! あの馬鹿野郎のクソオヤジ!

 なんでって父さんと母さんの下半身がだらしないから俺が生まれたくもないのに生まれたに決まってんだろ!!

 俺は、親をやって欲しかっただけなんだ! 小さい頃、頭を撫でて欲しかっただけなんだ! 金さえ与えておけば十分だろうって態度!

 あんなの親じゃない! あんなの……!」

「つらかったね……代わりにわたしが撫でてあげるから……」

 と、カンナギ=トキマが右手でなろう太郎の頭を撫でる。

 なろう太郎は静かに泣く。

 カンナギ=トキマもつられて声を出しながら泣く。

「愛情を与えるのを面倒だと思った母は、子供に向き合うのも面倒くさがって逃げたんだ。俺は自分を肯定してくれたり、励ましたり、叱ってくれたり、そんな家庭を持つことが夢だった」

「うん……うん……」

 カンナギ=トキマはなろう太郎の頭を抱き寄せながら頷き、泣く。

「あのさ……カンナギちゃん」

「なに?」

「俺ばっかり愚痴言ってもあれだから、君の気持ちオレにぶちまけてくれ。ちゃんと受け止めるから」

「つまらない話だよ?」

「お互い様だよ」

 そういってなろう太郎は笑う。

「わたし貴族の次女として生まれてね。姉より何もできない子どもだった」

「そんな魔法の制御上手いじゃないか! それでなにもできないはないよ……!」

 と信じられない様子でなろう太郎はカンナギ=トキマを見る。

 カンナギ=トキマはゆっくりと首を振る。

 それでいつの間にか自分を見てくれる王子様を探し求めていたの。

 機嫌が悪くなると、何かと理由を見つけて、文句を2時間言い続ける親が嫌になってた。そのエネルギー他の事に使えよってね。

 掃除して物捨てたら、なんで勝手に捨てたんだってお父さんが怒ってきて、じゃあと思って、捨てていい? って聞くとそんなことくらい分かんねえのか! ダボが!! ってもの投げつけてきたの。顔に当たって血が出たわ」

「会社の管理職にそういうのいたわ。常にケチつける口実探してるタイプ。とりあえず部下を否定する事が目的で、ダメな奴にしたいから何言っても否定から入るクソ野郎。

 俺と同じだ。尊厳壊されまくってるよカンナギちゃんも」

「うん。それで親だから逃げられなくって、自尊心がボロボロになっていったの。タイトラー家のカンナギ=フレイザー=タイトラーじゃなく、わたし、カンナギ=トキマを見てくれる人が欲しくって……。

 なろう太郎くん、今あなたがそれなんだよ。

 わたしカンナギ=トキマを見てくれる王子様」

「だから家の名字を捨てたんだね」

 なろう太郎がカンナギ=トキマに言う。

「うん。愛を教えてくれる? わたしに」

 涙を流し、カンナギ=トキマは頷いた。

「いいよ……」

 ゆっくりなろう太郎はカンナギ=トキマの手を握った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ