【1】
ー私、何で泣いているのだろう。
そう思ったのは大学1年生の石原みなみだった。髪は茶のショート、顔は鼻がスラリとして、美人だった。花柄の半袖にスカート姿である。今は夏休み中で、いるのはカフェだった。有名チェーンで、誰もが一度は行ったことがあるところで、客は涼しさを求め、多い方だった。みなみはまだ泣いている。眼の前には背の高い青年が1人居た。ここは青年ー東国広のバイト先だった。みなみは彼のバイト先で泣き出したのだった。彼とはまだ付き合っていない。今日で会うのは3回目だった。どうやら、みなみは国広に一目惚れしたようだった。
「…ぐすっ」
なぜ泣いているのかも分からず、鼻をすする。みなみの目からすると、国広は同い年ぐらいで、爽やかな印象だった。カフェの制服姿がとても似合い、女性客がこっそり注目しているようだが、みなみの目には入らなかった。
ー胸が苦しい。
国広に会うとドキドキが早くなり、キュンとするのだった。国広が困ったように体を動かす。ハンカチを出そうとしてくれようとしたらしいのだが、手を振って、断る。周りの客がだんだんと2人に注目し始める。それはそうだろう、1人は泣いていて、1人は困ったようにモジモジしているのだから。しかし、みなみの頭の中は国広のことで頭がいっぱいだった。エアコンが効いて涼しい中、乾いた唇を湿らし、覚悟を決める。
「…あの、好きです」
口から出たのは精一杯の告白だった。泣いているから、少しかすれ声である。国広はビックリしたように目を丸くしたが、頬を紅潮させる。
「…その、ぼくで良ければ」
ゆっくり笑ってくれるのだった。
「…あの、その…、嬉しい」
みなみは嬉しさのあまりまた泣き出したのだった。