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 ディープ・フォレストでCPUにやられたプレイヤー装備は、使用不能状態でその場にまき散らされ、一定期間保持される。

 裸一貫に戻る理由のひとつだが、後続にとってのダイイング・メッセージの役割も果たす。


『ここは、やられやすいぞ』


 暗黙の目印だ。

 すでに3つのポイントで、フォー、サーティーン、トゥウェンティの遺品を見つけている。

 いや、見つかっただけで幸いかもしれない。大半はああして茂みや沼地の奥深くに引きずり込まれ、今なお発見されていないやもしれないのだから。

 そして4つ目のポイント。廃村区域に差し掛かる。


 深い森の名を冠するフィールドでも、ここは比較的開けたポイントだ。代わりに打ち捨てられ、壊れかけた家屋が散在し、対プレイヤー同士の市街戦に興じるプレイヤーもいる。

 もっとも、いまはクリムゾン・ヘッドの脅威が知れ渡り、このフィールドそのものに立ち入る奴はほとんどいなくなっていたが。

 イレブンたちは、周囲と建物内部のクリアリングをしつつ、探っていく。

 レーダーのたぐいはクリムゾン・ヘッドに反応しないのは学習済み。直接視認していくしかない。


 やがてゲーム実装当初より救済措置としてもてはやされ、手垢ならぬ足跡のついた一軒家へ差し掛かる。

 ディープ・フォレストの家屋の中でも、このがっちりとした石組みの壁は非常に目立つ。

 さっと眺めただけでは、各フロアの窓から張り出した屋根の部分へ退避でき、逃げ場所も多いが、実は周囲の壁のところどころにすき間があいていた。

 背景としてスルーしがちなそのポイントは、地味に弾丸が貫通して外へ出る。それでいて、外からの攻撃は通さない一方的な防壁として機能したのだ。

 が、それもいまは。


「シックス……」


 イレブンは家の広間の一角に転がった、装甲服のヘルムを見てつぶやく。ヘルムにはエイトと似た青いペイントで「6」が大きくあしらわれている。

 エイトと並び、付き合いの長い相手だったが、かのクリムゾン・ヘッドが嘲笑の対象であった時期の初期討伐時期での、犠牲者のひとりだった。


 さっと、ヘルムの上空をなでるように腕をさすると、タイマーが表示される。

 75日間。

 それがディープ・フォレストにおける、ダイイングメッセージの残る期間だ。

 目まぐるしいアップデートの頻度とは対照的に、残骸は極端に長く長く残る。

 後続の、そして生まれ変わった自分への戒めとしての、墓標代わりだった。だが、それもやがては終わる。


 確かめたとき、シックスのヘルメットは、もう十数秒しか時間が残されていなかった。

 その時間経過とともに、ほのかなだいだい色を帯びる粒子がヘルメットを包み、それが薄まっていったときには、もうヘルメットもなくなり、家の床が見えていた。


『シックスのうわさも75日……とね』


 エイトがぽつりとつぶやく。

 心はともかく、シックスの物理的データはこれで完全に消失。世界からいなくなってしまったわけだ。

 死と、存在しないことは一概にイコールとはならない。が、いま確かにシックスの歴史は終わったのだ。


 そして終わりははじまり。

 シックスのヘルメットのあった床。それを上書きするかのように、頭上からぽとりと一滴、赤いしずくが垂れ落ちてきたのだから。



 ノールックだった。

 すでにイレブンのTMSは二挺そろって、頭上へ20発あまりの弾を浴びせかけていたのだ。

 撃ちながらバックステップをひとつ。バク転をひとつ。

 体操選手のような曲芸でもって壁際まで飛ぶも、TMSでハチの巣になったのは、この一回の石組みの天井だけ。


『上だ!』


 すでにエイトもTMSをイレブンの頭上へ乱射。

 しかし、イレブンが横に飛ぶや、エイトが『うおっ』とうめき声をあげて、近くの壁へ叩きつけられた。

 屋外であったなら、あの茂み行きか沼地送りコースだっただろう、吹き飛び具合。

 ぐったりとして、動かなくなってしまったエイトを心配している暇はない。

 その手前数メートルのところに、四つん這いのまま降り立つひとりの男がいた。

 その髪、その真っ赤な裸体。

 いずれもスマホで見た、あの姿そのままの格好で奴は床へ這っていたんだ。

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