表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

 クリムゾン・ヘッドは、2カ月以上前に一部のプレイヤーがネット上でつぶやいた発言に端を発する。


「ディープ・フォレストの最初期のフィールドに、いないはずのCPU敵があらわれる」と。


 すでにプレイヤー同士でのやりあいに注力していた、自称熟練プレイヤーたちは「なにをいまさら」と一笑に付した。

 どのようなCPUが現れようと、せいぜい初心者のあらたな遊び相手になるだけだ、と。


 が、面白がって乗り込んだ名うてのプレイヤーグループが全滅を喫し、クリムゾン・ヘッドの評価は一変する。

 なにせ彼らのリプレイ映像を見ても、死因がろくに分からなかったんだ。

 警戒して進んでいたところを、突然に視界がぶれるや、茂みの中や水の中へいきなり飛び込み、そのまま暗転してこと切れてしまう。

 はた目に事故死としか思えない、最期だったんだ。


 ディープ・フォレストは対CPU戦でのペナルティに厳しい。斃れればプレイヤーとしてのデータを消去され、裸一貫から再開する。対プレイヤー戦での尊厳を奪われるに等しかった。

 それでも運営から指名手配され、多額のゲーム内賞金がかけられたことにより、クリムゾン・ヘッドへの挑戦者は現れ続けた。ゲーム中のイベントのひとつと考えられたんだ。

 しかし、姿もろくに見られないまま、やられる者は絶えず。彼らにとっては「赤頭」なぞ本当にいるのか、引き続き疑わしいものであったのだとか。



『――イレブン。あなたの帰還を歓迎します』


 久方ぶりに立ち上げたディープ・フォレストのナビゲーターが、リョウヤへ声をかける。

 初期のゲーム登録者、先着100名まではオプションで、自分をナンバー呼びしてもらえる。ハンドルネーム考えることにこだわりがない、デフォルトネームで構わないというリョウヤには好都合だった。

 リョウヤは初期も初期からプレイしているベテランだったが、ここしばらくはドクターストップをかけられて、治療に専念していた。

 ゲームに興奮して、とある値が高くなってしまい、それが落ち着くまでは……ということで、ようやく今日にプレイが許されたわけだ。


「う!」


 リョウヤは、鼻の中を伝う違和感に、足元に置いたボックスからティッシュを引っ張り出した。

 白いティッシュには、赤々とした血がにじんでいる。

 薬を飲んだ直後は、たいていこうなる。血管が活性化しているようなことを、あの猫ロボット越しに聞いたけど、詳しくは分からなかった。

 ティッシュの栓を鼻に詰めて、ゴーグルを着用する。

 ここからはもう、自分はリョウヤではない。

 ディープ・フォレストのベテランプレイヤー、「イレブン」だ。



『よお、イレブン。来たな』


 ディープ・フォレスト。

 ゲーム名をそのまま冠した、最初のフィールドの入り口に降り立つと、装甲服姿のプレイヤーが声をかけてきた。

 ヘルメットから足元まで、くだんの急所以外をがっちり包む装甲服は、迷彩色に染め上げられ、その右肩には大きく「8」の青いペイントが施されている。


「待たせたな、『エイト』。変わりなく……」


 と、イレブンはエイトの指先が、不自然に動くのを見逃さなかった。

 遠隔操作ができる、自動砲台の発射要請の合図。だが打つまでにはラグがある。

 指の動きからして、数は3。方角は2時、6時、9時の方向……!


 ノールックだった。

 すぐさま抜いたTMSの弾丸が、3発だけ各々の方向へ飛んでいき、命中した機械音が響く。

 2時の方向のものが、イレブンの視界にスクラップとなって墜落した。


『――どうやら、ブランクはないようだな、イレブン』


「なにしやがる、といいたいところだが、ここで被弾してたら、クリムゾン・ヘッド討伐の計画はなし……だったろ?」


『ああ。いかに実績があろうが、いまこのときに発揮できなきゃ意味がないからな』


 あの映像で、クリムゾン・ヘッドの手際の良さは察している。

 遠隔砲台に先に打たれる程度では、たちまちあの茂み行きか、沼地送りは避けられない。

 勝負は最初の一瞬がスタートライン。あとの立ち回りはアドリブとなるだろう。

 なにせクリムゾン・ヘッドの姿をまともにとらえることができたのは、あの映像のみなのだから。



 これまでの多くのプレイヤーたちの犠牲によって、発信された情報を頼りにイレブンとエイト組は、エリアの探索を行う。

 エイトはイレブンが最初期より行動を共にし続けていたパートナーだった。他の初期プレイヤー組も多くがクリムゾン・ヘッドに狩られた中でいまだ健在なのは、自分ことイレブンを待っていてくれたことが大きい。

 ヤツを狩るなら二人一緒。やられるときも一蓮托生。

 すでに登録番号一桁はおろか二桁もおおよそが全滅し、別エリアで最初の一歩から猛烈に稼いでいるところだろう。

 イレブンにも、自分より小さい番号、大きい番号を持つ多くのプレイヤーをよく知るが、自分のプレイ禁止期間中に彼らはほとんど敗れてしまっている。


 ならば、数少ない生き残りの自分がカタキを討ってやる。

 クリムゾン・ヘッドのうわさに終止符を打ってやる。

 イレブンはポイントを確認しながら、エリア探索を進めていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ