7話 仲の良い2人
後ろから走ってきているクラスメイトの 金田 裕人 が声をかけてきた。
「___だよ」
「え?」
陽夏の声が小さく聞こえなかったため聞き返そうとしたが
「おはよう!」
また遮られた。
少し長めの金髪は後ろで結ばれており毛先がピョンとはねている。170cmと中学生にしては高めの身長。そして、元気な声に表情。お手本のような陽キャだ。
「お前らそんなゆっくり歩いてサボろうとしてんのか?」
「別にサボろうとしてませんー」
陽夏はべーっと舌を出す。陽夏のその顔は金田にやってるとこしか見たことがない。心を開いているのだろう。
「は?その態度は何だ?」
怒ったふりをしながら陽夏を睨む金田。
「あんたが五月蝿いからですー」
「んだと!?」
でかい声で叫ばれ耳を抑えたくなる。朝からこんなうるさい声聞きたくなかった。
陽夏と金田はよく言い合いをしている。それほど仲が良いということだ。2人は幼馴染でよく互いの家を行き合いっこしていたらしい。
「兎に角お前ら遅刻するから走るぞ!」
そう言いうちと陽夏の腕を掴んで走る。誰にでも同じように接する金田は女子にも男子と同じような接し方をするため、今みたいに普通に腕を引っ張ったり服についてるゴミを取ったりなど色々している。それにときめく女子もいるそうだ。
「離して」
けど、うちは余り馴れ馴れしく触って欲しくないため抵抗する。それにさっきまでサボる気満々で居たのに急に走り出すと言われ気分もだだ下がる。
あと、こんなに陽キャと居たくない。
「何だ雨野?そんなに嫌か?」
うちが冗談で言ってると思っているのだろうか、からかうように笑いながら言ってくる。
「歩きたい」
「そうだよ!そんなに引っ張らないでよ!」
陽夏もうちに賛成し怒りながら言うが金田は気にした様子もなく走る。多分だが、金田は優しさでやってくれている。うちらを遅刻させないようにしてくれているのだ。けど、やめてほしい。
「すぐだから大丈夫だって」
引っ張られて走るのは嫌な為離してお願いするが離してくれそうにない。陽夏も言うが全然離してくれない。どんだけうちらが不安なのかと呆れる。
うちは金田が苦手だ。明るすぎる。
学校で陰で過ごしているうちからすると眩しすぎるし疲れる。それに少し強引でもある。強く言えないうちは途中で折れてしまう。
一緒にいると向こうのペースに飲み込まれるから本当に苦手だ。
「それにな、今日朝礼あるぞ」
「うそ!?遅れたら怒られるやつじゃん」
驚いたあと顔を青ざめる陽夏。1度怒られていたため主任の怒る時の怖さが分かっているのだろう。
「だから、急ぐぞ」
朝礼で無かったら多分引っ張ったりはしないだろう。優しさでやってくれていることは分かるが走りづらく余計な体力まで使ってしまう。自分で走りたかった。
しばらく走ると学校が見えてきた。
「ほら、着いたぞ」
校門に着いた瞬間手を離され自分で走れと言うように背中を押して走る金田。もう少し早く、いや最初からそうして欲しかった。
「ちょ、押さないでよ!」
「うるせぇ、陽夏は平気だろ」
「何それ!?」
2人の元気な声で話している様子を見ると自分とは全然違うなと思う。こんな明るくないし、もしそうしようとしたら疲れるだろう。
玄関に着いて上履きに履き替えてると。
「うわー、時間やべぇな」
金田の焦る声が聞こえた。
時計を見ると朝礼が開始する5分前だった、
「教室戻っている時間無いじゃん!」
陽夏はどうしようと焦っていて下駄箱に鞄入らないかなとか呟いている。そして入るわけないのに下駄箱をずっと見始めた。
「…荷物貸せ」
金田は陽夏が下駄箱を見始めたのと同時に手をうちらに出しながら言ってきた。
「え?」
陽夏は下駄箱に夢中だったのかあまり聞き取れて無く、聞き返すように聞いていた。
「俺が持ってくから体育館行っとけ」
「え、でも裕人が」
申し訳なさそうに言う陽夏。そんな陽夏を見て金田は手をグイッとこっちに出して早く出せというように振ってくる。
「いいから」
それでも渡さない陽夏に痺れを切らしたのか、金田は無理やり陽夏荷物を取ってからうちの荷物まで取る。
「あ、ありがとう」
「おうよ!」
素直にお礼を言うと眩しいほどの笑顔を向けられる。
これだから陽キャは怖いと再度思った。適応能力が怖すぎる。
「ありがと」
まだ申し訳なさそうにお礼を言う陽夏。
「陽夏は今度何か奢れよ」
気遣っているのかイタズラを企んでいる子供のように笑って言う金田。
「はぁ!?」
「じゃあな」
言うだけ言って急いで階段を駆け上がっていく金田。陽夏を見るともう申し訳ないなんて思ってなさそうだ。
「陽夏行くよ」
「ったく、中学生に奢りとかきついこと言うなぁ」
文句を言いながら走って体育館に行く。確かに高校の時なら奢るとよく聞くが中学生では初めて聞いた。