6話 スクートムに入りたい
恐らく10分は待っていただろう陽夏に謝りながら近づく。
「ごめん、遅れた」
「全然大丈夫!」
そうグッドサインを送りながら言ってくる陽夏は怒っている様子も焦っている様子もない。多分遅刻していることに気づいてないだろう。
「全然大丈夫じゃないんだよねぇ…」
うちがそう言うと少し焦ったような表情する。やっぱり気付いてなかったみたいだ。
「そんなにやばいの?」
「何時もより10分遅く出た」
「え、それはやばいね」
なんでもなさそうにそんなことを言う陽夏。
それを見るとこっちまで焦る様な気持ちが無くなる。少しづつ落ち着き遅刻なんてどうでもよくなる。もし陽夏が慌てて走ったり急かしてきたらこっちまで焦ったりして疲れるだろう。
「まぁ、いっか」
陽夏も気にしてなさそうなためゆっくり歩いて行く。
「んふふ、由香もサボりの良さに気付いたかぁ」
陽夏は1度授業をサボったことがあり、それがとても気持ちよかったからと、いつもサボりたいと言っている
「でも、出来るだけ早く行くよ」
「はーい」
陽夏と居ると遅れてしまうという不安が無くなる
そういう所が皆は好きなんだろう。
遅れるのはダメな事だが正直この世界の学校生活はまともに受けていない。何故なら全てやった事あるからだ。授業内容は前世でやったのとほぼ同じ。全て復習ばっかりでまともに授業を受け無くても課題はできるし、成績も取れる。
だから、まともに受けても意味が無い。
「今日の授業はハードだよねー」
今日の授業は理系ばっかりで、陽夏は理系が苦手だ。だから、陽夏にとって今日の授業はとてもハードだ。
「でもでも、2週間に1回だけあるスクートムについての授業があるから今日が楽しみでもある」
2週間に1回スクートムやディアボルスについての授業がある。それはスクートムに成りたいと思わせる為にある授業だ。スクートムに居たらいつ死んでもおかしくない。その為入る人が少なくいつも人員不足だ。
その解決法が学校でスクートムをかっこよく説明し、勿論ディアボルスの危険も伝えるが8割ぐらいスクートムのいい所しか言わない。そうすることで皆に興味を持たせ入らせる。
「それは良かったね」
「相変わらず興味無いよねぇ」
「あんなの綺麗事しか言ってないじゃん」
別にそこに関しては気にしては無いが、わざとそう言う。スクートムは最初の頃は簡単に辞めれる為騙されてるのに気付いたらすぐ抜けれる。
うちがわざと言ったのは、スクートムには絶対入らないから興味があることも分からせないため。
うちはスクートムが嫌いで入りたくないと思わせるため。
そうすることでアニメの登場人物達と関わる可能性が減るからだ。
「あはは、確かに」
苦笑しながら言う陽夏に驚く。
陽夏は綺麗事しか言われてないことに気付いていそうだった。中学生はあまり詳しくスクートムを知れないため、気付いてない人が多い。
なのに陽夏は気付いていた
そして、スクートムの授業が好きなのかと驚いた。
「じゃあ、何で好きなの?」
気になりそう聞く。洗脳のようなことをしている組織を何故好きなのか。どうして騙されてるのにスクートムに入りたいのか。
「珍しいね、由香が私について質問するなんて」
驚いたように嬉しそうにこっちを見る陽夏。うちが少しでも興味を持ってくれたと思っているのだろう。
「スクートムを好きになる意味が分からないから」
「ほんと、スクートム嫌いだよねぇ」
陽夏からはそういう風に認識されている。クラスの子達にも陽夏との会話を聞かれているためそう認識されてるだろう。
「私は別にスクートムが大好きって訳では無いよ」
「え…?」
予想外のことに驚く。大好きじゃないなら何故はいるのか。
「成りたいからスクートムを知ろうとしてるの」
初めて聞いた言葉に、陽夏の覚悟している表情にまた驚く。知って好きになってなりたいと思うんじゃなく、なりたいから知りたいってことなのか。
「本気?」
「うん。てか、言ってなかったっけ?」
「知らなかった」
「あれー?言ってた気がするんだけどなぁ」
軽い感じに言う陽夏に少し疑問を持つ。スクートムになりたいという人は死が関わる為ほとんどが真剣に言ったりする。なのに陽夏はいつも通りに言う。軽い気持ちなのかと思ったが見た感じそうでも無い。なら、何故そんな呑気に言えるのか。
死ぬのが怖くないのか。いや、それはありえない。あんなに怖いものを怖がらない人は余りいないだろう。
「私はここに居たいから。両親がね、引っ越すかもって言い出してね、猛反対したけど、全然話を聞いてくれない。なら、スクートムに入って寮に行けばここに居れる。こんな理由で入るのはおかしいかもしれないけど、私は絶対スクートムに入る」
最後を強調しながら言う。それは絶対に入るという意思を感じせた。
「見張りとかなら安全って聞くし、私は魔力が多いって聞いた。だから、死なないからスクートムに入ることに恐怖とか無い」
それを聞いてうちは思ってしまった。そんな理由でスクートムに行こうとしてるのか?と。
原作をスクートムの辛さを知っているうちからすると、死なないよう一生懸命戦っている人達が居るのにそんな軽い理由で入るなんてと思ってしまう。
それに、魔力が多いから死なないとか甘く見すぎている。
スクートムはそんな甘いところでは無い。
「そんな理由で入るのはやめといた方がいいよ」
「え…?」
「スクートムはそんなに甘くないし、今の陽夏が入ろうとしても無理だよ」
つい厳しいことを言ってしまったが、これはうちが本当に思っている事だ。こんな気持ちで入るのならばすぐ辞めるか死ぬかだ。
「…やっぱり無理かぁ」
普通は怒ったり悲しんだりしてもいいはずなのに、陽夏は笑ってそう言った。
「本当の理由は違うんだ」
「違う…?」
「本当の理由はとある子と離れたくないから、一緒に居て守りたいから」
そう言い切る陽夏。その子がそれほど大事なんだろう。
けど、理由がどんなに大きなものであろうと、スクートムを甘く見ている時点で失格だ。
「そうなんだ」
「…その子はね」
少し考えてから決意したようにこちらを向き多分だが、その子が誰なのか教えてくれようとした時。
「おーい!お前ら早く歩かねぇと遅れっぞ」
タイミング悪く後ろから大きな元気な声で話しかけられた。