2話 そばに居たい
お父さんが病院に運ばれたという予想外のことに頭が真っ白になる。手の力が緩みスマホを落としそうになった。
「今から場所教えるから早く来なさい!じゃないと間に合わ」
「ちょっと奥さん!大袈裟ですよ!」
電話の奥からお母さんの言葉を遮る違う女性の声が聞こえた。多分看護師だろう。大袈裟とはどういうことだ。お父さんは大丈夫ということなのか。
「お母さん…なんで病院に運ばれたの?」
「階段から落ちて全身を打ったのよ!さっき話した時お父さんは大丈夫って言ってたけど階段から落ちたのよ!?大丈夫なわけないわ!」
また予想外のことに戸惑う。さっき話したということはお父さんの意識がありそうだ。安心したせいで足の力が少し抜けてふらつきそうなため、近くの建物に背を預ける。
「お父さんの意識はあるんだね」
「あるわよ!」
何故かキレ気味に言われ苦笑する。
心配ではあるが意識があるなら大丈夫だ。
「兎に角早く来なさい!」
「奥さん、娘さんが急いで交通事故になったらどうするんですか」
「落ち着いてください」
「娘が交通事故!?」
電話の奥で、恐らくお母さんを落ち着かせようとしている看護師さんとお母さんの話している声が聞こえる。
相変わらずの心配性だなぁと思う。
看護師さんのあの感じだとお父さんはやっぱり平気そうだ。
「お母さん心配しすぎ」
「だって!階段から落ちたのよ!?普通死ぬでしょ!?」
病院で縁起の悪いこと言うなぁと思う。でも、それは心配して言っているためあまり注意出来ない。
「お母さんが変な事言うからお父さん死にそうなのかと思ったよ」
「死にそうよ!?」
「死にそうではありませんよ奥さん!?」
看護師さんとのやり取りからしか正確な情報を得られないとはと、お母さんの心配性に少し不安になる。
「それに、看護師さんの言う通りうちが急いで事故にあったらどうするの」
「な!?嘘でも縁起の悪いことは言わないの!」
「それ、お母さんが言う?」
「なによ!心配してるのよ!」
泣きそうな顔をしているお母さんが想像できる。多分看護師は隣で慌てているだろう。
お母さんの心配性に少し呆れるが、愛も伝わってくる為それが嬉しい。
「今から行くから場所送って」
「そうよ!こんな話してる場合じゃなくて、早く…ゆっくりでいいから来なさい。ゆっくりすぎてもダメよ!」
「大丈夫だって。兎に角今すぐ向かうね」
「あと!信号はしっかり」
まだ続きそうなお母さんの話を気付かないふりをし、電話を切ってから佳奈の所へ行きながら名前を呼ぶ。
「か…」
いや、呼ぼうとしたがそれは遮られた。
ブゥーーーン!
うちらがいる道路を暴走して走っている車によって。このままだとここの道路は狭いため2人して轢かれる。すぐそばにある横の道に逃げなければならない。
「佳奈!!」
「由香っ」
急いで不安そうな怯えている顔をしている佳奈のところまで行き手を引っ張り、車の車線が無い道に飛び込むように逃げる。
でも、飛び込んだ先も道路だった。目の前に黒色の車が見える。前が眩しくて仕方がない。
ドンッ
気付いたら眩しく無くなっていた。地面に倒れていた。全身が痛い、熱い、訳が分からない。眩しくなって目をつぶって開けたらこんな状態になっていた。
「う…いた…い…」
近くで佳奈の声が聞こえた。苦しむような声だ。佳奈の苦しむ声は聞きたくない。
「…」
佳奈の名前を呼ぼうとしたが声が出なかった。なんで声が出ないのか分からなかった。
「何が…あったの……」
声だけが聞こえる。声の方に向きたくても向けない。
「ゆか…?由香!?」
佳奈が焦りながらこっちに来た。
やっと佳奈が見えた。服が所々擦れており大きなかすり傷まである。可愛く整えられていた髪もボサボサ。立てないのか足を引きずりながらこちらを覗いてくる。
「由香!!」
「きゃーー!人が!」
遠くで女性の焦る声が聞こえる。他にも沢山の人が焦っている。救急車呼べなど人が轢かれたなどあっちでも事故がと騒いでいる。
その時轢かれたと分かった。いや、認めた。轢かれた可能性が高いのに怖すぎて考えないようにしていた。認めたくなかった。
「何でよ…何で庇うの?」
佳奈は泣きながら聞いてくる。佳奈の可愛い顔が歪む。
「私の手を引っ張って逃げてなければ、由香は避けられてた」
確かに1人で逃げていたらうちは助かって居ただろう。でも、佳奈は助からず佳奈を失ったうちの未来はないだろう。
「阿呆!!」
叫んぶとどこかが痛むのだろう。痛みに耐えるような顔をしながら言っているから。
「こんなボロボロになってまで助けるなんて馬鹿だよ!」
痛い。佳奈の大きな声が頭に響く
けど嫌では無かった。それほどうちを思ってくれてるから。
「大嫌い!!」
あぁ、うちは最低な人間だ。こんなにもうちを思ってくれる大切な子を泣かせるから、可愛い顔を辛そうな顔にさせるから。
「嫌い嫌い嫌い!自分を犠牲にする由香は大大大嫌い!!」
大好きで大切で1番で一緒じゃなきゃ嫌な子に佳奈に、こんな辛い言いたくない言葉を苦しそうに言わせるなんて。
「だから、生きて私を勝手に庇った罪を償って」
死にたくない。
「何か言ってよ…」
まだ佳奈と居たい。
これから沢山出かけるのに。
「…由香と会った時」
「仲良くなると思わなかった」
うちもだよ。
だって真反対にいる存在なんだから。
「私と由香は似てたから」
思ったことも無い聞いたことも無いことに驚く。表情は変わってはないだろうが。
「意外って目してるね」
けど、佳奈は分かるみたいだ。うちの目をしっかり見ているからだろう。
「私も友達少ないし、素の自分で話せてなかった。けど、由香にあって本当の友達を見つけられた。」
うちの友達も佳奈しかいない。うちには佳奈しかいなくて佳奈もうちしか居ない。
「由香が消えたら私のこれからの予定は?空っぽだよ?1人にするの?ぼっちにさせるの?意地悪するの?」
必死に訴えかけてくる佳奈。もうそれをまともに見れるほど意識がだめになってきた。聞かなきゃだめなのに。答えなきゃだめなのに。
「っ…傍に居てよ。そしたら、私は独りじゃないって思えるから」
ニコッといつも可愛く笑っている佳奈は今までで1番ブサイクな笑顔を向けてきた。けど、その笑顔も可愛い。
「大好きなんて軽い言葉で表せるほど由香への思いは軽くないよ」
だめだ...
「だか、ら…死なないで…」
うなずきたい
でも、できない
どんどん、ねるようにいしきがとおのく
「おねがい…」
やだやだやだやだ
まだ、やることがたくさん…
あるのに…
しにたくない…
かふぇ...いきたかった......
…………………