1話 大好きな親友
高校生2年生の一学期が終わり終業式も終えて下校している。
「やっと夏休みだぁー。沢山遊ぼうね、由香」
体を伸ばしながらうちに話しかけてくる親友。
「もちろん、佳奈」
うちがボブにした時私もすると言って切っていた、ふわふわとした茶髪のボブ。大きくぱっちりとしていて可愛い黒目。身長はうちより10cmも低い160cm。うちと同じ制服を着ているはずなのに綺麗に着こなして可愛くさせていてうちとは違う制服のように見えてしまう。
「ここめっちゃ美味しそうなパフェが出たの!そこ行こ!」
わくわくと頬を染めながら笑顔でスマホを見せて伝えてくる大親友の佳奈。
「いいよ」
佳奈の幸せそうな笑顔を見るといつもこっちまで笑顔になる。心の底から笑っているような顔は他の子も笑顔にする。佳奈は笑顔にする力がある。
「あと、ここも!」
「んふふ、佳奈が行きたいとこ全部行こっか」
「え!?じゃあ、ここも!」
佳奈は色んな所を言ってくる。そこが好きだ。うちは話すのが得意では無い。勿論話題を出すことも無理だ。だから、沢山話す佳奈が好きだ。恋愛的な意味では無いが。たまにアニメの主人公のように誰でも仲良くできるのに憧れたこともあった。
「あ、由香がいつも行くとこも行かないと」
「ありがと」
けど、今はそうでも無い。沢山話しかけてくれてうちはそれに返事するだけ。何を話そうとかどうしようとか考えなくてもいい。それが楽で好きだ。誰でも仲良いより特定の子ととても仲がいい方が良い。沢山話しうちを誘導してくれてうちの事もしっかり考えてくれる佳奈さえいれば良い。
今はそう思っている。
「佳奈は予定とかないの?」
他の子にも誘われてそうな為聞いてみたが、少しだけ顔を顰めさっきまでは違う暗い雰囲気になってしまった。
「あー、誘われたりしたけど誘うだけだろうね。どうせ、自然消滅するよ」
そう興味無さそうに言う佳奈。佳奈は昔から人から好かれるタイプだ。友達は沢山いるが浅い友達だと本人が言っていた。
「何時もそうだから」
前にも誘われて楽しみにしていたそうだが、誘うだけ誘われただけみたいだ。社交辞令のようなものだと思っているらしい。その場のノリで誘われるだけという事だ。
「そっか。でも、皆と話せるのはほんと尊敬するなぁ」
「それ何回も聞いたぁ」
聞き飽きたというように興味なさそうに軽く流す佳奈に少し残念な気持ちになる。
うちは本当に尊敬していて言ったが佳奈は本気にしていなかった。いつかうちがどれだけ佳奈を尊敬しているか知ってほしいなと思った。
「そんなことよりここはどう?」
佳奈が見せてきたお店はとても可愛いカフェだった。女子高生が好きそうなキラキラした雰囲気だった。ホームページなら写真にも女子高生が写っており、料理も写真映えするものばっかりだった。
「わーお、めっちゃ可愛い」
「でしょ!?由香もこういう店行ってみよ!?ね!?」
すごい勢いでこっちに迫ってくる佳奈。子犬みたいで可愛い。けど、どんなに可愛くてもうちはその店の雰囲気が苦手なのは変わらない。
「えー」
正直こんな可愛いお店は入りづらい。どうしても緊張してしまいゆっくりできない。周りの子達も皆キラキラとしてそうで怖い。佳奈といると余計うちが暗く見えてしまうし何か思われそうで怖い。
「私が可愛く着飾ってあげるから!」
「んー…」
佳奈はどうしても行きたいらしく必死に頼んでくる。手を合わせ頼みながら、わざわざうちの前に出てきて歩みを止めてまで言ってくる。佳奈がこうするのは本当に行きたい時だけだ。
「他の子は?」
佳奈を避けようとしながら聞く。他の子がいればうちが行かなくても良い。本当はうちが佳奈と一緒に居たいけど。
「由香と行きたいから。それに気軽に誘えるのも由香しか居ない」
けど、避けられなかった。佳奈が絶対通さないというように必ず前に来るからだ。何時もなら粘り強く避けようとするが佳奈の言葉を聞いて避ける気が無くなった。
「…わかった」
「ほんと!?」
キラキラと子供が好きなものを目の前にした時のように目が輝いていた。それに自分までつい嬉しくなってしまい、にっこりと笑いながら頷いた。
「やったぁ!!」
両手を上げながらうちの前から横に移動する佳奈。その時の移動の仕方は風船でも付けてるのかというほど、軽そうにスキップしていた。
「可愛くしてね」
「任せて!」
自信満々に腕まくりをして言う佳奈。
物凄い喜んでいる佳奈を見ると、行ってみてもいいかもと楽しみがまた増える。
「じゃあ、早速私の家でお化粧の練習を!」
「お、お化粧…」
したことが無いキラキラとしたものを言われて緊張する。
「ほらほらー、早く行くよー」
手を引っ張りながら歩く佳奈はうちとはとても違う存在。うちが絶対なれない所にいる。
「はーい」
正直こんな自分が隣に居てもいいのかと思うが、佳奈の笑顔を見るとそんなことどうでも良くなる。
「夏休み沢山楽しもうね!」
「うん」
こんなに楽しそうに笑って、うちのために夏休みの予定をほとんど空けてくれる。
それを見て隣に居ちゃダメなど思うはずが無い。
「あ、でも1回家帰ってからでもいい?」
「じゃあ、一緒に行こ!」
家で待ってるじゃなくて、一緒に迷惑じゃなさそうに行ってくれるところも好き。
「わかった」
方向転換し自分の家へと向かう。うちの家は佳奈の家から10分で着く距離にある。高校に入る時に引っ越してきたらしい。だから、家が近くても小学校と中学校は違かった。
「なにか取りに行くの?」
「うん、少しだけ化粧品持ってるんだ」
「え!?由香が!?」
驚いて意外と呟いた佳奈。うちが化粧品を持っていることがそんなにも意外だったのだろう。
「失礼だね」
言葉ではそう言ったが失礼だとはあまり思ってない。佳奈だと何を言われてもあまり不快にならないから。だって、佳奈は悪い意味をもって言っては無いから。
「だって、今まで興味持ってなかったじゃん」
「まぁ、アニメとコラボしてたからだけど」
「やっぱり化粧には興味無いのね」
「あははー」
「はぁ…」
佳奈の言う通りに化粧に興味は無い。ただ大好きなアニメがコラボしていた為買っただけだ。そして、使うとしても使い方がわからず飾っているだけ。
「なんだっけ、『元通りの日常に』だっけ?」
「そうそう!いいアニメだよー」
『元通りの日常に』というアニメが大好きだ。舞台は日本で東京だけど魔法が使える。それに戦闘もある。平和な日本とは違う。
「アニメの話だと性格変わるよねー」
アニメの話になると元気に話してしまう。それに、今回は教えたアニメを覚えててくれてたことに喜んでもっと元気になってしまった。いつか観てくれるかもと期待までしてましまう。強制は絶対しないけど。
「好きなんだもん…」
「いや、その熱心な所が私は好きだよ」
友達が居なくて褒められた事もあまり無いうちは、好きとか凄いと言われたり褒められたりすると言われ慣れてなく照れてしまう。
「…ありがとう」
「んふふ」
「照れてる?」
嬉しそうにニヤニヤとしながら小突いてくる佳奈。いつもうちが照れると嬉しそうにこっちを見る。
「嬉しいだけ」
あまり見られたくなく、でもあからさまに隠したくはなく斜め横を見ながら言う。
「それはこっちも嬉しくなるね!」
そう嬉しそうに笑う佳奈。
それを見てこっちまで笑顔になり2人で笑う。この時間だけ一生続けばいいと思っている。
ブーブーブーブー
「ん?」
ポケットに入れてあるスマホが鳴り画面を見るとお母さんからだった。
「ごめん、お母さんから電話が」
「おっけー、あそこの電柱で待ってるねー」
「わかった」
佳奈は近くの電柱の所に歩く。こちらの会話が聞こえないほどの距離だ。昔から佳奈はプライベートをしっかりと守ってくれる。どんなに仲良くなっても守り続けてくれている。
「もしもし」
佳奈が離れるのを待ってから電話に出る。
「由香!?今どこにいるの!?」
出た瞬間焦ったお母さんの声に驚き、何かあったのか心配になる。
「落ち着いてお母さん、どうしたの?それにどこって下校中だよ。昨日言ったじゃん、11時頃帰るねって」
昨日、明日は終業式だから早く帰ると伝えていた。それすらも忘れるほど何かトラブルがあったのかと不安になる。
「お父さんが病院に運ばれたのよ!」
「え…」