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8.ポレンタのコーングリッツ・スープ掛け



「え? ここですか。ここは森の西にあるお塩の採れる洞窟の中ですよ」


 昨日の説明だけじゃ理解できなかったかしらと、レーネは振り返って片足だけ靴さん改めヴォルの顔を不安そうに見つめた。


「……いや、そうじゃなくてだな」


 言い淀むヴォルの顔色はやはりとても悪い。


 昨日はあれだけ長い時間気絶したままだったし、気が付かなかったけれど腕や足だけではなく、頭も打っていて記憶が混乱しているのかもしれなかった。


 本当はなんとか自分の足で立ってもらって、今日にでもレーネの住む小屋へ一緒に移動して貰うつもりだったけれど、もう何日かここで過ごすことも考えないと駄目かもしれない。


「もうちょっとしたら朝食ができあがるので。もう少し大人しく寝ていてくださいね」


 近寄って行って、少しずれ下がっていた毛布をヴォルの肩まできちんと掛け直しながらそういうと、不満げながらもヴォルは目を閉じておとなしく黙った。


 頭を打つのは怖い。


 表面的には普通でも頭の中で出血していることもあるし、時間が経ってからある朝突然、死んでしまう事だって、ある。


「あら? でも私の周りにそんな風に亡くなった人なんて、いない筈よね」


 レーネの母親は病気が原因で亡くなった。


 元々レーネが物心ついた時には床についてばかりいたし、行商人(ヨハン)さんが届けてくれる薬で持ちこたえているような状態だったのだ。


 決して高いところから落ちて怪我をしたからなどという原因ではなかった。


「なんでこんな記憶が? んー……あ、いっけない☆ ポレンタが焦げちゃいますぅ」


 朝食の準備をしていたところだったと、レーネは慌てて焚火のところへと戻る。

 慌てて鍋の中身をぐるぐると練っている間に、頭に浮かんだ疑問は忘れてしまった。



 昨日作ったコーングリッツでトロミを出したスープはまだ残っていたけれど、あの後、思いの外ヴォルさんがいっぱい食べてくれたので、ふたり分の朝食とするにはちょっと心許なかった。


 けれど、昨日ルーネが小屋からここへ運んでこれた食材といえば、塩漬けにしたカワマスとコーングリッツだけ。あとはこの周辺で摘んだハーブとキノコ類が少々。そしてカワマスは昨夜食べきってしまったし、キノコはスープの中だ。


 本当は小麦粉を持ってきて平パンを焼くなり、脂で練ってスープに落すなりできればよかったけれど、コーングリッツと違って目の細かい小麦粉を入れて運べるような容れ物もなかった。行商人(ヨハン)さんが届けてくれる目の詰まった麻袋は大きくて、持ち運びには向かないのだ。


「次は、小物が運べる袋や肩掛け鞄を作ってみようかしら」


 使い終わった穀物袋はカーテンや床の敷物に仕立て直してしまっていたけれど、次は小物を幾つか仕立てるのもありかもしれないとレーネは思った。


 朝食の用意を始める前に洞窟からあまり離れない範囲で探してみたけれど、熟しきって柔らかくなってしまっているベリーをいくつかしか見つけることはできたけれど、それきりだ。


「だから諦めてポレンタを作ってみたんだけど。うーん」


 コーングリッツを湯で練って食べるポレンタは、モチッとした食感で腹持ちもいいし、ほんのり甘くておいしい。普段はトマトで作ったソースを掛けて食べている。


 けれど、いまは残念ながらコーングリッツのスープしかない。

 どちらも同じ物からできているだけあって、どちらも同じようにコーンのほんのりとした甘みがある。

 コーングリッツ味のスープをコーングリッツを練ったポレンタと組み合わせてみても、見た目も味もどこか間が抜けてしまっていた。華がないにもほどがある。


「あの。先に謝っておくね。『ごめんなさい』」


 昨夜のように洞窟の壁に背を齎せたヴォルの口元へ食事を運びながら、レーネは謝った。





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