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3.熱さましは危険なお味(※危険なので絶対に真似しないでください)



 ぐにゅっ。


 男性の口元からちいさな咀嚼音がしたのとほぼ同時。


 ずっと伏せられたままだった睫毛が震え、形のいい薄い唇から、この国のものではない言葉が紡がれた。


『うわっ! なんだこの、マズっ!! 痛っ! くっ』


 なんとも騒がしい寝起きだが当然ではある。


 口に放り込んだハーマユの鱗茎は強烈に苦いのだ。けれど、熱さましや解毒作用、そして消炎によく効く。たぶん今の男性にとって最適なものだ。苦くてまずいけれど。


 それにしても、片足だけ靴を履いた人さんは、どうやらお隣の国の人らしい。

 あまりウチの国とは仲が良くないって話だった気がするが、政治的な事に関してレーネにはよく分からなかった。

 だが、隣接する国々の基礎会話は生前の母親から教えて貰っていたので、簡単な意思の疎通だけはできそうだとレーネはほっとした。


 無理に起き上がろうとする男性を止めて、木の器から水を飲ませた。

 そうして男性がようやく少し落ち着いたところで声を掛ける。


『起きてダメ。低い。ココ』


 反射的に起き上がろうとする肩を、レーネは必死に抑えた。

 男性の身に付けていたマントに身体を乗せて引き摺ることでなんとか運ぶことができたものの、正直二度とやりたくない。なにより、これ以上酷い事になられたとしてもレーネの力で小屋まで運ぶなんて無理だ。


『え、うっ』 


『アナタ、左側、腕、足、折れる。頭、切れて、血。だから、熱でた』


 レーネは身振り手振りを交えながら覚えている単語を必死に並べていく。

 実際、熱さましもまだ効いていない状態だ。暴れられては更に熱が上がってしまうかもしれない。


 必死になって説明するレーネの真剣な表情に、男性はすこし落ち着きを取り戻した。


『そうか、俺はあの時飛ばされて……。すまない。君が見つけて手当をしてくれたのか。感謝する』


 右手で自分の状態を確認し、受け入れたのだろう。男性が大きく息を吐いて身体から力を抜いた。


『? ごめなさい。何、わからない』


 早口という訳ではなかったが、レーネの知らない単語がつらつらと男性の口から流れ出し、慌てて止めた。

 そこまでの会話はレーネにはお手上げだった。


『手当、ありがとう』


 レーネが首を傾げたことで、ここが彼にとっての自国ではないと気が付いたのだろう。ゆっくりと一音ずつ発音していく。


 どうやら感謝を告げられているようだと理解して、レーネは笑って頷いた。



『ごはん、タベ、たべれ……食べ、られる?』


 懸命に単語を思い出そうとして言い間違えるレーネに向かって、男性が微笑みを返した。


『ここはどこだろう。すまないが、君の母国語でいいからおしえてくれないか』


『?』


『あー。ここは、ソランデカ? それともサンペーレ? それとも……」

「サンペーレ!」


 どうやら今いる場所を聞かれたらしい。

 男性の口から、自国の名前がでてきて、レーネは声を上げた。


「よかった。サンペーレ語なら私が話せる。助けてくれてありがとう」


 そうして、ホッとした様子の男性から流暢なサンペーレ語が飛び出してきた。

 発音も文法も完璧だ。

 グリノ国の言葉とは主語の位置も動詞や副詞の使い方も全然ちがうので、レーネは単語を覚えるのがやっとだったというのに。

 頭の良い方なのだと尊敬の念でいっぱいになった。


「良かったー。もうちょっとちゃんとグリノ語を勉強しておけばよかったって思ってたところだわ」


 なにより、自分のつたない言葉でしか意思の疎通ができないことにかなりストレスを感じていたので、レーネは安心した。





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