2.片足だけ靴さんは怪我をして倒れている人でした
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ヤキモキしていたが、いくら待っても長い足の持ち主は洞窟から出てこなかった。
というか、動きがない。
周辺で摘み取れそうなハーブ類や果物、そして薬草はあらかた採取し終えてしまった。
ちょこちょこ戻ってきて確認するものの、男性は最初に見た時とほぼ同じ場所に同じポーズで寝そべったままだ。
「寝ているのかしら」
そろそろ塩を採って帰らねば、お夕飯の準備が間に合わなくなってしまう。
まだ外が明るい内に庭先へ設置している竈で料理をすれば、ランプのオイルは減らないのである。
カワマスの下処理はして塩に漬けてあるから明日でも腐りはしないけれど(だからこそ手持ちの塩が心許なくなったのだ)、できることなら新鮮な今日の内に食べたかった。その方がおいしいし。
少しだけ考えて、声を掛けることにした。
「うん。お願いして、私にも少しだけ採らせて貰いましょう。そうしましょう! えぇと。すみませーん」
ヨハンさんと最後に会話したのも数カ月前だ。そのヨハンさん以外の男性と口を利いたことも無い私は、意を決して片足だけ靴を履いた人さんに向かって声を掛けた。
「なんということかしら。まさか怪我をして倒れていたなんて」
どうりで何度声を掛けても返事がないと思った。全体的に黒っぽい服装だったから血が出ている事にも、全く気が付かなかった。
塩を独り占めする為に籠城しているのかと思っていたから、近寄ったらうめき声を上げていて吃驚した。
足は膝からあらぬ方向に曲がっており、腕と頭からも血が流れていた。
異様に体格が良かったために、洞窟から引き摺り出すことも大変だったけれど、マントを付けていたのでその端を掴んで引っ張ったら動いたので、なんとか外へと運び出た。
足には小枝を拾ってきて添え木をし、頭と腕には、さきほど採取したばかりの薬草で応急処置を施した。
「まさか、いきなり役に立つとは思わなかったわ」
家の在庫はまだあるし、採取していて良かったかもしれない。
それにしても、熱もあるようだし、どうしたものかと頭を悩ませた。
艶やかな黒髪とおなじ色の長い睫毛が苦し気に揺れている。
応急処置だけして放置するには忍びない。
「放っておく訳にはいかなそうだけれど、でも自分で歩いて小屋まで来てもらえそうにもないわね。とにかく早く目を覚ましてくれないかしら。どうしよう」
暗くなってからの移動は無理だ。
葉が生い茂っているこの時期、夜空を見上げても空に輝く星座など葉に隠れて見えはしない。
ちょっとでも歩いていく方向を間違えたら家になどりつく事など不可能に近い。簡単に迷子になる。
「かといって、放置しておくこともできないわ。死んじゃいそう」
私は、覚悟を決めてその人を洞窟内へともう一度引き摺っていき押し込めると、家へと歩き出した。




