16.それが命の系譜ですよね
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「だいたいですね、ここまで気を失っているヴォルを連れてきてくれたのは、あの子達ですよぅ? そして、私達を襲ったりしてこなかったじゃないですか!」
「うっ」
左手を腰に、右手を胸元に当ててレーネが告げたその事実を覆すだけの言葉を、ヴォルは持っていなかった。
言葉に詰まってしまったヴォルに、レーネは少しトーンを落として言葉を繋ぐ。
「ヴォルだって、お魚を、美味しく食べたじゃないですか。ハーマユの鱗茎だって。……やったのは私ですけど、綺麗に咲いていたのに、掘り返して薬にしちゃった。そのお陰で、ヴォルはこうして今、起きていられるように、なった」
ハーマユの赤い花を思い浮かべた。
まっすぐ天に向かって伸びる茎と葉、その上に真っ赤な花が咲いている様は、暗い森の中でひと際目を惹く。毎年同じ場所に咲くから群生地は迷いやすい暗い森の中では目印にもなるし、花や葉には毒があるけれど鱗茎には毒がないから、食料の少なくなる時期には動物たちにとって貴重な食料にもなっている。
ハーマユはそうなりたくてなった訳でもないのに、薬扱いされて掘り返されても、非常食扱いされても怒ることもなく、根を張った場所で毎年季節になれば咲き誇るのだ。
「それとこれとは」
「一緒だよ。お魚の命も、お花や果物も、全部全部、ひとつの命で、次代に命を繋ぐことを使命としてそこで生きていた命。それを頂いて、私達は生きている。私達が他の種族の糧になることがあって、何がおかしいの?」
勿論、餌にしたいと言われても素直に命を差し出すつもりなんかない。ハーマユが美しい花や葉に毒を持つようになったように。簡単には奪われないよう抗って抗って。でも、それで負けたら仕方がないって思う。受け入れる。
「お前の大切な人が餌にされても、同じように仕方がないで終わらせられるのか」
「んー、恨むかも?」
「おいっ」
「恨む気持ちや奪われないようにしようって思う気持ちと、奪われないように先に相手を殺しちゃおっていうのは、別の話じゃないです?」
こてん、と顔を倒したレーネの言葉に、ヴォルは動く右手で頭を掻きまわした。
近隣諸国の語学力についてそれなりに自信があったヴォルであったが、レーネとの会話は、まるで壁越しに顔を合わせずまるきり概念の違う相手に対して右と左について説明させられているようで、その手応えの無さに愕然とする。
言葉を尽くしても尽くしても、相手へ意図が伝わっているのかいないのかわからずに、不安ばかりが沸き起こる。
「……だから。俺はお前が餌にされないように、お前が命を奪われないように配慮して欲しいという話をだな」
他国の言語を操るむずかしさというより、レーネとの常識の違いという壁を感じながらも、ヴォルは絞り出すように言葉を探した。
「あぁ! ヴォルはわたしに、死んでほしくないって思ってたんですね!」
ぱん、と両手を合わせて破顔したレーネに、ヴォルは目をしばたいた。




