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15.通じているのに通じない

※ヴォル視点です


 

 


 動かない半身を無理やり動かした反動からなのか、怪我をした動物たちと呑気に会話(?)を交わしながら治療をしているレーネを見た衝撃からなのかはわからなかったが、ヴォルは頽れたその場所で意識を失っていたようだ。


 再び意識を取り戻した時、ヴォルは見知らぬベッドの上だった。


「起きたんですね。よかったぁ! もう。ヴォルさんたら、無理しちゃ駄目なんですよぉ?」


 少し間延びした声が聴こえる。

 だが、近付いてヴォルを覗き込んだ瞳は心配していたのだと訴えてくるようだった。


「面目ない」


 決死の覚悟で助けに出たつもりが、再び助けられることになるとは思わなかった。

 自然と項垂れた。


 ヴォルが動く度に布が擦れ合い、ごそごそと音がする。

 シンプルな木枠のベッドをふたつくっつけた上に斜めに寝かされているようで、背中の下にある境目が心許ない。

 麻の混じった少しごわつくシーツと掛布だけの粗末な寝床は、そこまでしても大柄なヴォルの全身が辛うじて収まるサイズしかなかった。


 その前には、木のテーブルと椅子が二脚、それと本も食器も一緒くたに置いてある棚があるだけの非常にシンプルな部屋だった。

 なんとなくここが何処なのか想像はつくが確認する。


「ここは?」


「じゃーん! 私のお家でーす。ヴォルさんを特別にご招待しちゃいました!」


 予想通りではあるが、どうやってここまで連れてこられたのかがわからない。

 どうやってだろうと考えるヴォルに、レーネがニコニコ笑って話し続ける。


「怪我を治療した御礼なのかな。あのあと熊さんとお猿さんがここまで運んでくれたんですよー。あとお見舞いだと思うんですけど、果物もいっぱい貰ったんですよ! 食欲あるなら一緒に食べましょうね。だから、後で会ったら御礼を言っておいてくださいねぇ?」


 そう言って、くすくす笑った後に「お猿さんも熊さんも、何処に住んでいる子なのか、わかんないですけどねぇ」と付け足す。


 情報過多な言葉にヴォルの頭は混乱しきりだ。


 寝床も知らないということは、元から仲がいいから治療を強請られたという訳でもないらしい。


「レーネは、……ああいうことは、よくあるのか?」


 自分でも動揺していると思うが、母国語ではないとはいえ言葉が上手く出てこず、片言で問い掛ける。


「んー。初めてといえば、初めてだしぃ。初めてじゃないといえば、初めて、ですねぇ」


 問答をしているつもりはないのだと苛立ち混じりにじろりと見れば、レーネは別にヴォルを揶揄っている訳ではないらしい。


「これまではぁ、うさぎさんとかリスさんとか? こう手のひらに乗っちゃうサイズの草食系の動物さんたちがケガしたりお腹こわして助けを求めて来たことはあるんですよぅ。でもぉ、大きな獣さんたちが血塗れできたのは初めてだったから、ちょっと吃驚しちゃいました」


 くふふと笑って「ヴォルも驚いちゃいました?」といたずらっぽく訊かれても、ヴォルには何と答えていいのかまったく分らなかった。


「レーネ、彼等が大型の肉食獣だって分ってないのか?」


 レーネが森で暮らしていく為の知識と経験を持っていると推察したのは間違いだったのかとヴォルは気が遠くなる思いだった。

 獣除けの煙を焚いていたのは、単なる偶然だったということか。

 自身の安全管理が全くなっていなかったことに愕然とする。


「えー、違いますよぅ? あそこに集まっていた獣さんたちは、みーんな雑食です。果物とか若葉とかも食べてますもん」


「そういう意味じゃ、ない」


 ぷんすかと怒るレーネの顔は真剣で、言葉尻をとってわざと論点をずらして揶揄われいるという訳ではないらしい。

 言葉は通じているのに、意味が通じないというのはこういう事なのだろう。


「雑食という事はなんでも食べるということだ。つまり、肉も食べるということだ。肉の塊である君自身も、彼等には餌でしかないということなんだぞ」


 噛んで含めるように言って聞かせたというのに。


「ちーがーいーまーすぅっ」

 むっとした表情のレーネが、反論してきた。





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