【十六話】ワケあり実家 解決
そんな実家の怪奇現象は、一気に解決することになった。
中学三年のある日、私は連日体調不良に悩まされていた。頭痛が特に酷く、眠れない日が続くので寝不足にもなり、肌の調子も悪くなりストレスを感じ安くなっていた。当時は時計の針の音ですら私の怒りの種だった。
学校の先生は「多感期にはよくあること」と言っていたが、本当に顔色が悪くお医者さんからは「どんなに検査をしても原因がわからない。ただ娘さんを見る限り、体調が著しく悪いのは確か」と言われていた。
そんなある日、私の祖母が「霊媒師に電話をしたから連れてきなさい」と母に頼んだ。
霊媒師と言っても、近所から変人とよく言われる人だった。私は霊が見えることは隠しているタイプだったが、その人は若い頃から周りに見えるのだと言いふらしているタイプだった。故に、その人は地元に嫁入りした時から変人として有名だったらしい。
私はもう何でもいいから安心して眠りたいと思い、藁にもすがる思いでその人の元を訪ねた。
お邪魔したのはごく普通の民家だった。縁側の襖を全て開け放っており、どうぞお入りくださいと言っているような雰囲気だった。
私と母が丁度着いたタイミングで、その人は出てきた。
「いらっしゃい。お電話もらって待ってたよ」
ごく普通の五十代のおばさんという見た目の方だった。しかし、周りの空気が少し渦巻いて見えたのは私だけだったようだ。
縁側のすぐ隣にある仏間に通され、無駄なことを駄べることなくさっそくそのおばさんは私に向き合った。
「うーん、曲がってるねぇ。ちょっと苦しかったね、直そうか」
そう言って、私に向かって軽く握った拳を突き出し、グッグッとまるで棒をまっすぐ立てるかのような動作をし始めた。
「うん、うん、ちょっとやっかい……こうか、こうだ、そう、そのまま……ホッ!」
ホッ!と言った瞬間、背中にある糸がピン、と張り直されたような、そんな感覚が私を襲って少しふらついた。
そんな私を、おばさんは笑顔で見つめていた。
「戻った戻った。しかし、やっかいな家に住んでるね。物音、いぃっぱいするんでしょ」
「!します」
おばさんは町の地図を出して私の家の細かい住所を聞いてきた。私と母がそこへ指を指すと、「うぅん、やっぱりね」と呟いた。
おばさんは立ち上がり、白い紙に包んだほんの少しだけの塩を私に持たせた。そして、おばさんは私の家について語り出した。
「あんたの家、良くないよ。この塩はね、盛り塩にして玄関の中と外に置きな。でもずっと守ってくれない。早めに神社に行って、そうね、ここからだと○○神社さんが良いかも。お塩貰って、溶けなくなるまで盛り続けなさい」
「溶けなくなる……?」
「まあ置いて見ればわかるよ。あんたの家ね、霊道。わかる?幽霊ちゃんの通り道。あんたの部屋が丁度全部霊道に引っかかってる。あんたは特に気をやりやすいから体の真ん中が曲がって、苦しくなってたの。とりあえず元に戻すだけ戻したけど、あんた、私と同じでしょ?あとは気を持てばあんたは大した事ないよ。あと、動物飼いな。犬がいいよ、あんたの場合。前いたのに、人にあげちゃったの?勿体ないよ。あんたは一人で何とか出来ないんだから」
おばさんは私の肩に手を置いて、そこまで話して「もう終わり」と言って私と母を帰した。「あんたが大物だったから山に落としに行かなきゃいけない」と言って、襖を閉め出してしまい、もう話せる雰囲気ではなかった。
私は言われた通り、帰ってすぐ玄関に塩を盛った。その日は久しぶりに夢もみずに眠れた。
朝起きると、玄関の盛り塩が全て溶けていた。私も母も、昨日はそんなに暑くなかったよね?塩って一晩で溶けるっけと話した。私はその日は学校へ行き、母はおばさんに言われた通り、○○神社に塩を貰いに行った。
すると、本当に塩が溶けなくなった頃に玄関の水たまりが消えていた。
そして、言われた通りにうちで犬を飼い始めた。元々兄弟がいない私に母がペットを飼ってやりたいと思っていたので、丁度いいタイミングだったと笑って話した。
最初、犬はよく誰もいない玄関先に吠えていたが、次第に階段の駆け上がる音や家鳴りが止んでいくにつれ吠えなくなった。
もうその頃には、私の体調は元に戻っていた。
冬に入る頃、たまたま霊媒師のおばさんの家の前を通ることがあったので、お礼を言いに行った。すると、縁側でお茶を飲んでいたおばさんは嬉しそうにうんうんと頷いて、私の体をなぞるように指を動かした。
「あの辺の霊道はあんたの部屋通んなくても困んないからね、通せんぼ出来たのね。お札とかは貼んなくていいけど、あそこ住み続けるなら塩、盛り続けなさいね。でも変な人たち。あそこ、目の前墓地が見えるのに気にしたこと無かったの?」
わたしはアッと叫んだ。そうだ。私の家のベランダから目の前を見れば、そこは墓地だった。そりゃあ変な事起きるはずだ。ずっと見慣れていた景色だったから、なんの疑問も持たなかった。
「マ、あんたは見える割にニブチンだから、逆に運良くあの程度で済んだのかもね。でもね、あんた、あんたはあの家出た方がいいよ。お母さん、大丈夫だと思うけど、あんたにはあの家優しくないよ」
おばさんはそう言って、私にお菓子をひとつくれた。