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障子の向こう  作者: 水野うしお
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【十二話】開かない扉


私が中学二年の時の話。

長袖を来ていた記憶があるので、多分夏ではなかったと思う。


少し眠気が襲う四限目。確か国語の授業を受けていた。

「眠いなぁ。早く終わらないかなぁ」と思いながら書き取りの遅い私は眠気と素早く消されてしまう板書を必死に書き写すので参っていたと思う。


すると突然、腹に激痛が走った。

あまりの痛さに少し唸ってしまったほどだ。まだ授業は半ばまでしか時間が進んでおらず、終わるまで時間がかかるだろう。そう思うと残り時間この痛みと付き合うのは少々億劫だ。

正直授業の途中でトイレに行くのを申請するのは多感期の私にとって恥であったが、そうも言ってられなかった。

手を挙げて先生にトイレへ行くことを告げ、私は席を立った。


母校のトイレは誰も入っていなければトイレの扉は開いたままになっている。私がトイレに入った時、扉がひとつ閉まっていた。私以外に大変な思いをしている生徒がやってきたのだろうと思い、大変だよなと勝手に仲間意識を感じた。


しかし、いざ便座に座った途端に腹の痛みは消えてしまった。それは嘘のようになんとも無くなったのだ。「おや?」と不思議に思ったが、まあなんとも無くなったならいいかと思い、私は制服を正した。


さあ出ようと鍵を左にスライドさせ、扉を引いた。しかし、トイレの扉はビクともしなかった。


「え?」


間抜けな私の声が静かな女子トイレに響いた。扉は何度引いても、力加減を変えても開く気配がなかった。

建付けが悪くなったという話は聞かない。たまたま私が入った瞬間悪くなったのか?と理不尽な現状にイラだったが、私はトイレに一人だけではない。誰か他にもいることを覚えていた。


「すみませーん。扉あかないんで先生呼んでもらってもいいですか〜?」


大きな声で呼ぶが返事がない。相手も突然話しかけられて驚いたのかと思いもう一度同じことを大声で叫んだ。

しかし一向に返事も、物音もなかった。もしやまだトイレが終わっていないのか?と思い、「終わってからでええですよ〜」とも付け加えたが、返答なし。

こっちがこんなにも困っているというのになんでやつだ、とだんだん腹が立ってきた。


「あのーー!誰でもいいんで先生呼んできて!」


応答はない。


どんどん大声で呼ぶと言うより、怒鳴り気味になっていた。

そこで気づいた。外にも聞こえないのだろうかと。

トイレの外には他の教室が目の前にある。最初は迷惑にならないよう外に漏れるかどうかという声で呼び続けていたからいいとして、ここまで叫んで聞こえないものだろうか。少なくとも廊下側の生徒が誰か気づかないだろうか。


すると、誰かがトイレに入ってくる足音が聞こえた。

やっと誰か気づいたんだ!そう思い、私は扉を叩きながら今しがた入ってきた人に声をかけた。


「あの〜、もう十分だか十五分だか前から開かなくて、助けてください」


しかし、返事がなかった。

嘘だろ?先生じゃないの?と、もしやあの足音は入ってきたのではなく、トイレにいた人がこっそり出ていったのではないか。そんなことが頭に浮かび、腹のたった私は怒鳴ってしまった。


「ええ加減にしてくれ!こっちは外でたいだけやから一言先生呼べばええねん!!」


そういうと、突然外から扉をバン!と叩かれた。ビックリしていると、扉はゆっくりと開き出した。

あまりにも呆気なく開いたので、少し呆けていた。


なんだったのだろう、と思い教室に戻ると、私はさらに驚いた。

時間が五分しか進んでないのだ。確かに私はあの時、かなり長い間トイレに篭ってしまったはずだった。しかし板書は先程のままだったし、先生も私に対して特に何も言わなかった。


授業が終わり、トイレに一番近い教室の廊下側の生徒に叫び声とか聞かなかった?と聞くと、「何も聞こえてない」という答えが来た。


「さっきトイレ行ったんやけど、扉開かなくてさ」

「え!?そうやったん?」

「まぁでも何とか開いたんやけど」

「呼べばよかったのに〜」

「いや呼んだんよなぁ……」


あれが結局なんだったのか、私にはわからない。

しかし偶然であろうか。この事件から数年経ったある日。夏休みにひとつ下の後輩とたまたま近所のスーパーで会った時の話。

その後輩は私とよく話をしていた方で、私が少し変なものが見えるのを知っていた子だった。


「先輩、前トイレに閉じ込められたって話してくれたじゃないですか。私の友達が似たようなことありまして」


曰く、後輩の友人、仮に佐藤さんとする。佐藤さんは昼休みにトイレに入った。誰もいないトイレに入り、用を足し、出ようとするとまるで接着剤でくっつけたかのようにビクともしなかったという。

私と同じように外へ聞こえるほど叫んだが誰も来てくれなかったという。暫くして、突然扉をものすごい勢いでバン!と叩かれたのだという。佐藤さんは驚いて悲鳴をあげた。すると、扉がゆっくりと開いたのだと言う。


そのまま私が体験したことだった。その友人はその後どうしたかと聞くと、後輩はサイダーを飲みながら答えた。


「もうトラウマになっちゃったらしくて、学校のトイレ使えないって泣いちゃったんです。それで、噂じゃその後トイレにお祓いしてもらったそうですよ」

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