勇者vs英雄、真夏の決闘 2
「でも何で俺がちりめんじゃこ問屋と喧嘩しなきゃいけないわけ?」
俺の当然の疑問に、黒髪で哲学者のようなしかめっ面の侍従が答えた。
「東方大砂漠で冥王が復活すると、小麦を東方に頼る我が国には大打撃です。小麦相場も大きく動く。勇者のレベルアップ状況は商人にこそ重要なビジネス情報なのですよ」
どっかで見た顔だと思ったらザビエルだ。フランシスコ・ザビエル。
もう1人の、金髪をコテコテに撫で付けたイケメンが続ける。
「まず私達2人が相手になろう」
女にはモテるだろうだが下半身がルーズそうな顔をしている。コイツはあちこちで女を騙して泣かせているスケコマシに違いない。
スケコマシは右手の親指を立てて人差し指で俺を指差した。拳銃の形だ。嫌な予感がしてとっさに避けたのと、勇者の証の魔法防御が光ったのはほぼ同時だった。端の方に光線のような何かが当たって光を放っている。
「うわきったね、いきなりかよ」
構わずスケコマシが続ける。
「シールドか。気絶モードでは効かないな」
言いながら左手を添えてダイヤルを回すような仕草。ダイヤルあるのか、と言おうと思って気付いた。ザビエルがいない。やられた! これは手品師の常套手段。手元に視線を集中させといてコインは既にそこにはない。手品なら肘からコインが出て来る所だが、戦闘なら死角から必殺の一撃が飛んで来る。師匠に何度も気絶させられた手だ。
嫌な予感がして前にダッシュするのと、首筋にヒタリと掌が当たるのがほぼ同時。ヤバかった。勇者の証の物理打撃無効は無害判定したのか、あるいは何かの無効化アイテムを持っているのか作動せず。気付かなければ気絶くらいはしてたかも。
挟み討ちという戦術があるが、飛び道具がある場合には危険な戦法だ。ザビエルが俺の真後ろに回り込んで、もしスケコマシの弾が俺から外れたら、あるいは貫通したら流れ弾はザビエルに当たる。だからプロならこのシーンで挟み討ちはしない。ある程度経験を積めば、それはわかる。だからこそザビエルは真後ろから攻めた。フェイントだ。
ザビエルは仲間が絶対自分に当てないと、その腕を深く信頼しているのか。あるいは光線自体が見掛け倒しのフェイクで綿密な作戦か。どっちにしろ見事なチームワークだ。ならば2人同時に相手は不利。危険でも片方だけ接近戦に持ち込んで各個撃破がセオリー。師匠はただDVをしているように見えて色々な経験を俺に叩き込んでくれている。いや本当にただのDVのような気もするが。
俺はスケコマシの懐に飛び込んで拳銃代わりの腕を跳ね上げ体当たりした。鉄山靠。師匠はアキラって人の技を見様見真似でパクったと言ってたな。流石に百回食らうと意外と覚える。バランスを崩したスケコマシの顎にアッパーカットを… 技名は昇竜軒? だっけ? ラーメン屋みたいな技。すぐにザビエルと戦わなければならないので固まる時間の短い小パンチで…
「そこまで!」
技が決まる寸前にアレキが鋭い声をかけた。拳は顎に軽く当たったがギリギリで何とか止めた。師匠ならためらわずに大パンチでブチ抜いてるだろうが。というかいつもブチ抜かれてるんだが。よく生きてるな俺。
「カクさん、スケさん、下がりなさい」
アレキが声をかけると2人は背筋を伸ばして退いた。
「ギリシャ人にしては変わった名前だな」
「本名はカークだ」
「スポッケです」
聞かなかった事にしよう。
「こう見えてもバルカン人ですよ」
「バルカン星?」
「バルカン半島です」
ザビエルが言って掌をこちらに向け、中指と薬指の間を広げる。
「長寿と繁栄を。これはバルカンのVを表す挨拶です」
「バルカン半島ならBっつーかβだろ」
「これを両手でやって『ふぉっふぉっふぉ』と言うのが公式な挨拶です」
それはバルタンの挨拶だ!




