ベータテスト開始
帰りの車の後席で。
温泉を満喫した美奈は俺の肩に頭を預けて、くうくうと寝息をたてている。
「そういえば温泉で凄い美人の外人さんがいたね。金髪の。母さん浴場で一緒だっただろ?」
父さん、嫁の前でヨソの女を美人とか言うのは禁句だと思います。
「お父さん!そんな嫌らしい目で他の女ばかり見てたの?」
ほらね。
「そんなひと見てないわよ!それで、その人がどうしたの!」
「変なとこつかむなよ子供の前だろ!あっ、危ない!」
対向車線のトラックがスレスレで通り過ぎる。正面衝突なんてしたら一家全滅だ。下手したら後ろの車まで巻き込んで大事故になる。母さんは運転席に乗り出して揉めていたが、しばらくすると落ち着いたのか助手席に戻った。
家まで1時間、その間に俺は清水のおじさんに頼まれたバイトを始める事にした。
元SEだったおじさんは勤務先が潰れて以来、リモートでゲームのシステム管理の仕事をしていたらしい。その経験を生かして絵師さんと新たに作った新作ネトゲ、その公開前ベータテスト。
課金アイテムやレアカードを無料で使いまくって、バグやゲームバランスの不備を運営掲示板に書き込むだけの簡単なお仕事です。バイト代は驚きの月3千円。嫁の実家に頼りっぱなしのおじさんに、今はこれが精いっぱい。
報酬的にはともかく、真由美ん家に恩を売っとくのは悪くない。
えーっと…
【音声が出ますのでイヤホンを御使用下さい】
はいはいポッスン。
師匠との涙の別れのオープニングムービーが終わると、まず名前の登録。
【主人公】 [山田 賢人] 読み(ローマ字)[YAMADA KENTO]
【OKですか?】 [はい]・[いいえ]
もちろん[はい]をタップ。常識、ネトゲで実名プレイは有り得ない。だけどこのゲームは未公開だし、何より次のコレ。
【ヒロイン】[清水 真由美] 読み(ローマ字)[SHIMIZU MAYUMI]
【OKですか?】 [はい]・[いいえ]
おじさんの説明では、好きなヒロインネームを入れて一緒に冒険すると会話イベントや恋愛イベントが発生する。レアアイテムやレアカードを収集しながら、恋愛シミュレーションをするシステム。
最初から入力済みとか、おじさんわかってらっしゃる。気が利くね。
[はい]をタップすると、ヒロイン設定画面に移動。
【髪形】 [開発中]
【髪の色】 [開発中]
【顔の輪郭】[開発中]
【肌の色】 [開発中]
【目】 [開発中]
【鼻】 [開発中]
【口】 [開発中]
【身長】 [開発中]
【スリーサイズ】[開発中]
【OKですか?】 [はい]・[いいえ]
おじさん。やる気あるのかと。でも現状のデフォルト設定は真由美をモデルにしたって言ってたし俺的にはオォッケェェェェェェェ! [はい]をタップ!ズビシッ!
【年齢(あなたは18才以上ですか?)】 [はい]・[いいえ]
あっと手が滑った。よく見えないうちに次に進んじゃったけど。確率的には50%で[いいえ]を押したハズ!さあ開始!
そして、気が付いたら俺と真由美は異世界に召喚されていた。
俺の首に例の女神謹製、自爆機能標準搭載『勇者の証』のネックレスを付けて。