夏だ!水着だ!おいかけっこだ! 6
「お、お、俺、浜に行きますんで。じゃ!」
三十六計逃げるにし如かず。真由美の好感度上げに集中してれば余計なフラグは立たないハズ。俺は右手をシュタッと上げてマリン親っさんに挨拶し、真由美のいる浜にダッシュした。しかし船尾の向こう側に回った所で何かにぶつかってしまった。
「きゃっ」
ぶつかったのは同い年くらいの女の子。下は短パン、上は薄手の半袖シャツを羽織ってヘソの上で縛ってある。良く見ないで飛び出したから、勢い余って跳ね飛ばしたせいで相手は肩と頭を派手に船尾にぶつけて砂浜に倒れてしまった。
「ゴメン! 大丈夫?」
「どこ見てんのよ! この愚図! のろま!」
「わっぷ」
俺は慌てて駆け寄ろうとしたが、向こうは喚き散らして砂を投げて来た。口の中がじゃりじゃりする。
「ぺっ、ぺっ」
「何だ、お前も見に来てたのか。コイツが噂の男だ。気に入ったか?」
「はぁ? アタシは女の尻ばっか追いかけるノータリンには興味ないんですけど!」
やけに喧嘩腰だな。だがそれがいい。その調子で俺の事はスルーしてくれ。余計なフラグは立てたくない。
「チェッ、擦り剥いちゃったよ」
「いま治癒魔法かけるから」
「コイツはアクティー、俺の娘だ。頑丈な奴だから、こんくらいツバ付けときゃ大丈夫だ」
「いやコレ青アザ出来ますよ」
「青なじみくらいどうって事ないさ。こら!触るなよ!」
「せっかく綺麗な肌なのに俺のせいでそんなになったら悪いからさ」
「綺麗…」
「…」
「…」
いや急にうつむいて黙って何この空気?
「いや特別な意味じゃなくて肌がね、綺麗だって」
「肌が… 綺麗…」
「…」
「…」
しまったーーーっ! 何かフラグ立った気がするソレも2本! 現実の女の子の気持ちはサッパリわからんがゲームの攻略なら何となくわかる!
「とりあえず治癒Lv1。これでOK! じゃっ!」
シュタッ
右手を上げて華麗に立ち去ろうとした俺だが、マリン親っさんに引き止められてしまった。
「話はまだ終わってないぞ。あれを見てくれ」
マリン親っさんの指差す方、船の側面の水に浮かんだ時に水面下になる辺りを見ると、直径20センチくらいかな、手のひらくらいの大きさの妙な丸い傷痕がいっぱい付いていた。
なるほどね。これが先生の言ってた牙の付いた吸盤の跡か。まあ物理打撃無効があるし水から上がれない雑魚だから、戦闘時にみんなを水に入れなければ何て事ないな。
「クラーケンに襲われるとこうなるから気を付けろよ。どうした青い顔して。恐ろしいか?」
俺が船に手を当てたまま青ざめているのを見てマリン親っさんは何か勘違いしたらしい。俺が怖いのはナイスボートだよ。
「あの3人の乗ってる船だ。今朝がたやられてな。連中さっきまで調べてたんだ。それでカリカリしててな、勘弁してやってくれ」
「ハッ、謝る事ないって。田舎娘だからって舐めやがって、鼻の下伸ばしてたんだから自業自得さコノ軟派野郎! あの3人の方がよっぽど真面目な働き者さ」
「あんなのは気にしてないよ。話してみたらすぐ打ち解けて、いい奴らさ。そうか、働き者なんだな…」
「な… なんだよ… わかってんじゃん…」
だからなぜ赤くなってモジモジする? まさか村の仲間を褒められるのがツボとかいうアレ?
「しかしよ、都会の市民は、ああいう話を聞いたらニタニタして娘を物色するのが普通なんだが、お前さんは違うんだな。それに面倒見もいい。感心したぞ」
バッドエンド回避の地道な努力です。
「市民のカス野郎!『市民は完全な人間、村人は不完全な人間だから狩ってもいい』とか言って好き放題! 父さんも父さんよ! 市民が来たらペコペコして村の娘あてがって! 恥ずかしくないの?」
「こうしてないと都市の兵隊がいつ奴隷狩りに来るか… わかってくれ」
あーそれでタイミング良く女の子達が現れたんだ。普段から言い含めといて、市民が来たら村長やマリン親っさんが斡旋してるって事?
「あ、いや俺ギルドで言われたけど在留外国人資格だから市民じゃないんで。ああいうのナシでいいです」
「え? じゃあ… 解放奴隷や村人と同じって事?」
「まーそうなるね」
「良かったじゃねーかアクティー。身分の違いはないってよ」
「そっ、そんなんじゃないから!」
真っ赤になって。そんなんってどんなん?
「な… なんたって正妻の目の前で奴隷女3人とイチャコラするベースケだもんね。今夜は4人並べて… あーヤダヤダ」
「ち、違うって! ちょっとした金が入ったから借金立て替えて開放しただけ! そしたら感謝してついて来たんだ!」
「そんな事言って、あの3人の付けてるチョーカーは奴隷の首輪だろ? 所有者の名前と『逃げたら捕まえてドコソコに返却願います』って刺繍してあるヤツ。下級奴隷は字が読めないから気付かないってね。卑怯者!」
「そんな訳ないだろ。途中の装備の店で気に入ったって自分で買ったんだよ。あの3人とは何もしてないって!」
「そっ… そっかぁ… なんにもしてないんだ…」
いやナニそのリアクション?
「それに真由美ともキ… キスまでしか…」
「おいおい、女房だろ?」
「俺達の国じゃあ18まで結婚出来ないんで」
「つまりアクティー、お前にもまだチャンスあるってよ」
「そっ、そっ、そっ、そんなんじゃないから!!! あ、あ、あ、アタシもう行くね! 仕込みがあるから。じゃあ、また後で!」
ちょっと待て。『じゃあ、また後で』って俺に言ったよね嬉しそうに。好感度上がってない? これもしかしてアレ? 嫌な奴だから絡んで喧嘩してたら、悪い奴なのに時たま見せる意外な優しさに惹かれて、いつの間にか好意を持って、でも身分が違うからって思ってたら誤解が解けてってベタベタなパターン? もしかして誤解を解こうと言い訳して片っ端からフラグ立てちゃった?
「俺も行くわ。今日はたっぷり楽しんでグッスリ寝てくれ。明日の早朝は仕事だから覚悟しろよ、叩き起こしてやるからな」
ふう。やっとイベントが終わった。さ、早く真由美の所に行こう。
「ちょっとソコの貴方! 私と勝負なさい!」
また変なのキターーーーっ!
ゆきひろ「プロット:浜に着くなり波打ち際に駆け出すヒロイン『ウフフ、つかまえてご覧なさ〜い♡』主人公『こらー♡待ーてー♡』『キャー』『追いついたぞ〜ホラホラ』バシャバシャ『いやーん水着が透けちゃった〜♡』」
賢人「それがどうしてこうなるんだ!」
ゆきひろ「つまんないから」
賢人「つまんない? いや、いいよねソレで行こうよ! サブタイ書いた時はそのつもりだったよね!」
ゆきひろ「アニメ化の時に頑張る」
賢人「そんな予定ないから!」
ゆきひろ「ナディアの島編みたいなモンだと思って」
賢人「それ駄目なヤツ!」




