新イベント開始(物質界の場合)
「艦長! 目標、第2東京湾中央で回頭。速度22ノットを維持しつつ、真っ直ぐこちらに突っ込んで来ます」
「やる気か。自殺行為だな。ミサイル発射!」
対潜哨戒機P−8Aがバラ撒いた129本のソノブイと海面スレスレを哨戒する無人子機MQ−4Cの群れが探知した情報。それら全てはデータリンクを介してイージス艦に送られる。
モニター上では味方機はもちろん、敵潜水艦の位置・深度は丸わかりであり、ミサイルセルから垂直発射されたRUM−139VLAが投下したMK−54短魚雷が自動的に敵潜水艦を追尾し海中に葬り去る。
敵潜水艦はこちらの艦影を見る事もなく海の藻屑となる。この、空間そのものを制圧する情報統合システムこそがイージス艦の強味であり、極論すればイージス艦には装甲はもちろん攻撃兵器すら必要ない。ミサイルと砲弾を撃ち尽くしても弾薬をピストン輸送する僚機・僚艦に攻撃命令を送れば事足りる。これこそが最強の盾と呼ばれる所以である。
「海底より浮上する物体多数! 目標周囲に展開!」
「囮か、不味いな」
MK−54の探知能力では囮に阻まれ有効打とはなるまい。
「魚雷発射管注水音! シーウルフです!」
シーウルフ級攻撃型原子力潜水艦、一番艦シーウルフ。艦歴は古いが冷戦期にコスト度外視で建造された攻撃型潜水艦としては最強の艦。量産型のバージニア級とはモノが違う。世界最強の米海軍にも3隻しかない虎の子だ。
アレのMK−48魚雷なら有線誘導が可能だ。腕コキの潜水艦乗りが囮を回避して目標を確実に粉砕するだろう。
「手柄は取られたかな?」
まあ何にしろ今日の仕事はコレで終了という事だ。新兵には良い訓練になっただろう。
「シーウルフ直下より浮上する巨大不明物体1、このままでは接触します!」
「何だと!」
「シーウルフ急速潜行!」
なぜ回避しない。急速潜行? まるで吸い込まれるように…
「シーウルフ、圧壊!」
「馬鹿な!」
シーウルフの耐圧殻は水深600メートルの超高圧にも耐える。こんな浅海で圧壊など有り得ない。だがもし本当なら艦内の空気は圧縮され300℃にも達し、人体すら発火する。乗員は絶望だ!
「前方の目標、海面に浮上… 反応、消えました!」
「どこに行った!」
「不明の飛行物体発見、速度56ノット!」
潜水艦が飛んだだと? 時速60マイルで?
画面上では無人哨戒機トライトンのうち目標直上を哨戒していた1機と、この艦と目標の中間にいた2機の反応が消失している。墜とされたか?
全方に目を凝らすと、トライトンを吹き飛ばし、その爆炎をものともせずキラキラと輝く電飾をまとった巨大な何かが真っ直ぐこちらに突っ込んで来ている!
「総員、衝撃に備えよ!」
言い終わるや否や、激しい衝撃と音。全長170メートルを越える満載排水量1万トンの巡洋艦が前後左右に揺れ、ギシギシと音を立てながら前のめりに傾く。
「何が起きた…」
呟きながら窓を見ると、突然、窓外に白にベージュ色の斑の混じったヌメヌメ光る何かがベタリと貼り付いた。
まるで生物のような、そのヌメヌメの中には円弧状の吸盤の様な物があり… いや、窓から一部しか見えないソレが吸盤だとするならば、その直径はゆうに10フィートにも達するのだが… その吸盤の外周には三角の牙がずらりと並んでいて、おいでおいでと言うようにモゾモゾと蠢いている。
「何だこれは…」
そう呟いたまさにその時、ずらりと並んだ牙はまるで『聞こえたぞ』とでも言うようにピタリと動きを止め、ピンと垂直にこちらを向いた。そしてやにわに円周方向に回転を始めた。
工作機械のようなガリガリと耳障りな音に飛び散る火花。まさかコイツは船殻に大穴をほじり抜こうというのか? いや待て、もし喫水線下にコレと同じ物が貼り付いていたとしたら…
「機関室に浸水!」
「ダメージコントロール!」
「隔壁閉鎖!」
各部からの浸水報告と響き渡る切削音に、もはや艦橋は半ばパニックだ。
「総員退艦…」
「艦長?」
「総員退艦だ!」
イージス艦の強さは敵を寄せ付けない索敵能力と統合射撃システムの制圧力にある。だが接触されてしまえば禄な装甲を持たないイージス艦は貨物船はもちろん小型自爆ボートにすら敵わない事は、数々の実例が証明している。
しかし、この状況で何名の乗員が脱出できるか。
「艦長、こちらへ」
揺れる船体にふらつきながらも、士官全員と共に艦尾に進む。艦底のそこかしこからガリガリと響く音。浸水は相当の物だろうが艦はよく水平を保っている。タイコンデロガ級は良い艦だ。しかしそう長くは保つまい。対潜哨戒をP−8とトライトンに任せてヘリ2機を温存していたのは正解だった。
しかし艦尾ヘリポートに辿り着いた時、うち1機は既に離陸しようとしていた。
「あいつら帰ったら軍法会議だ!」
「こちらへ! すぐ出せます!」
2機目のパイロット、こいつは優秀だ。
「帰ったら…」
そう言い終わる前に、1機目がずどんと轟音をあげヘリポートに墜落した。見ると無数の光り輝く砲弾の弾幕が横なぎにヘリポートを乱打し、墜落した1号機に容赦なく突き刺さっている。その一部がこっちにも!
次の瞬間、頼みの綱の2号機のコックピットに穴があいた。透明なキャノピーが内側から真っ黒に塗りたくられる。赤い血ではなく黒? インク?
そう考える間もなく、ヘリは出鱈目に回転しながらこちらに転がって来る! 危ない!
激しい爆発音。一瞬気が遠くなる。気付くといつの間にか硬い床の上に転がっていた。ここはヘリポートの端? 吹き飛ばされたか。周囲に散らばっているのは… つい先程まで部下だったモノ。助かったのは私だけか。頭を押さえるとぬるりとした感触。血か。
こうなったら敵の正体だけでも突き止めなければ。艦橋の向こうに聳えるあの物体、あれは何だ? こちらを傲然と見下ろすキラキラと輝く… 巨大な女神。
そして艦橋に巻き付いた1本の長大な触手。別に、もう1本が艦中央を縦に締め上げている。
艦橋は鉄の軋む嫌な音を立てながら見る間に潰れて行く。シーウルフもこうして締め上げられ押し潰されたのか?
そして目の前に転がるコレは何だ? 不発弾?
その不発弾の端には何やら触手のような物が無数に生えていてニュルニュル蠕動している。その脇には大きくてつぶらな瞳が… これは丸々太った… イカ?
そいつと目が合った、そう感じた瞬間イカは10本の足を広げて狙い違わず顔面に向けて飛んで来た。ニュルニュルした物に顔を包まれる感触、口に突っ込まれるチューブ、喉を下るうじゃうじゃと蠢く何か、そして胃に耐え難い激痛が…
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パン、パン、パン
神殿にゆっくりと、主神の拍手が響き渡った。
「中々の奮闘であった。だがポセイドンだ、トリトーンだと名を借りても、当の本人の眷族には敵わなんだな」
「お目汚しを」
「良い。下がれ」
「は」
その声と同時にアメリカ大統領の立体映像は、かすかな電子音と共に消えた。
いやいや活きたアニサキスを大量に呑まされた艦長には気の毒だが失笑した。傑作だ。
これは本番が楽しみよの。しかしポセイドンめ、眷族を出すだけで自分は何もする気がないとは。まあ良い。鉄の人間共を消し去り、神に忠実な新たなる人類を創造した暁には貴様の取り分など僅かしかないと思うがいい!
賢人 「いやっコレどー倒すの? 割とマジで!」
真由美「頑張ってケンちゃん♡ 勇者として!」
さくら「なお労賃と危険手当は宿泊費と食費で現物支給よ♡」
賢人 「鬼! 悪魔! さくら!」




