それぞれの夜、ふたたび
「何で俺の皿はカニカマばっかりなんだーっ!」
ダイニングの俺の席、皿の上には確かに棒状のフライが6本並んでいる。しかし… しかし尻尾がない。つまりこれは全てカニカマ!
「私はちゃんと3本・3本で分けといたのに美奈が入れ替えちゃったのよ〜」
サクサクサクサクがりがりボリボリごっくん!
「たべちゃった♡」
「ああ… 俺のエビフライ… 3本まとめて… シッポまで」
「しょうがないわねー、お父さんの1本とお母さんの2本あげるから」
「良かったねお兄ちゃん!」
ヒョイパクヒョイパクヒョイパク
サクサクサクサクがりがりボリボリごっくん!
「言いながら取るなーっ!」
「え? お兄ちゃんカニカマ嫌いだった? じゃあ美奈が食べてあげる」
ヒョイパクヒョイパクヒョイパク
「ふぉいひー、ほぉぶぉぶわひ〜」
「ああ… 残り3本…」
「もう! 美奈ちゃん!」
「だあって〜 食べ盛りなんだも〜ん。いいでしょ? キラーン☆」
「まあいいけど。賢人はお兄ちゃんなんだから少しは我慢なさい。竹輪が5本あるから磯辺揚げしたげる」
ヒョイパクヒョイパクヒョイパク
「わらひふぉほん」
「お前はもう食うな!(泣」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方お隣の清水家では。
「今日は贅沢にビーフカレーよ」
「お、やった!」
「もうあなたったら子供みたい。うふふ。昨日100グラム198円の国産スジ肉を半額で手に入れたのよ」
「母さん、半額になるまで粘ったね」
「もう! 母さんったら! 恥ずかしいんだから! 昨日は大変だったのに!」
「2人が遅くなるって電話があったからそこのスーパー覗いただけよ。さ、どうぞ」
「「頂きまーす」」
「頂きます」
「そう言えば合宿で泊まるとこ、高級リゾートホテルなんだな」
「さすが合田さんね」
「お父さん、わたし高級ホテルなんか泊まった事ないんだけど、どんな服で行けばいいかな?」
「お父さんもちゃんとしたとこなんて1回しか。かっ、母さんはあるだろ? お嬢様なんだし」
「お母さんが?!」
「アナタやめてよ今更。そうね〜 リゾートホテルならそう煩くはないと思うけど、式場があってワインが売りなのよね? 上層階のレストランにはドレスコードがあるわね。でも学生服は正装として通じるから大丈夫よ」
「良かった〜」
「当然バスローブにスリッパで廊下に出ちゃダメよ」
「そんな事しないわよ〜。ねぇ、お父さんが泊まった所は?」
「高級って言っても温泉旅館だし、そっ、それどころじゃなかったからなぁ。な、母さん、あ、あは、あはは」
「懐かしいわね〜」
「え? 2人で泊まったの? 初耳だけど!」
「こっ、子供に話す事じゃないし」
「子供に話せない事したのね!」
「ご馳走さま! さあ早くプログラム仕上げなきゃ! あとは任せた母さん!」
「あなた〜!ズルい〜」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方、つぐみヶ丘ニュータウンの麓、築何年かもわからないオンボロアパート2階、飯田家。
「お父さんただいまー。ごめーんバイトで遅くなってー」
「お帰り真由美。晩御飯は有り物で済ませたよ」
私は手を洗い、手早くエプロンを着け、いつものように冷蔵庫から良く冷えたビールを取り出す。
「もー、またテレビばっかり見てー。ハイ、ビール」
「こんな体じゃ散歩にも行けないし、仕方ないさ。あれっ、これ賞味期限過ぎてるぞ」
「あっ、ゴメーン! バイト代入ったから買っとくね」
「出してくれても滅多に飲まないからなぁ。発泡酒かノンアルでもいいんだよ」
「大好きなビールくらい、美味しいのを飲んで欲しいのに…」
お父さん前は毎日5本飲んでたのに、お金の事で気を使って…
「いいんだよ。学校はどうだった?」
「あ、これとこれ」
「集団登下校? 了承に丸、っと。こっちは… おっ、ケンちゃんと合宿か!」
「行ってもいい?」
「もちろん。3日くらい自分で出来るから行ってきなさい」
「でもホテルの御馳走、お父さんにも食べさせてあげたいな… 自分だけ良い物食べるなんて私…」
「いいんだよ。父さんの体には必要ない物だ。お腹に脂が付くと取れなくってね。でも美味しいからって食べ過ぎないようにな。お父さんが『どちら様ですか?』って聞く程食べるなよ?」
「ひどーい! そんなに食べないよぅ」
お父さん、あんな事言ってるけど私のために遠慮ばっかり。
「こんな時お母さんがいてくれたらなぁ。真由美にも心配かけないで済むんだが」
「お母さんの話はしないで! お父さんに借金押し付けて黙って出てっちゃった人なんか大っ嫌い!」
私は優しいお父さんとケンちゃんがいてくれたら、それでいいの…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「出」
「姉さん。何だい? 後ろから急に」
「こうするのも本当に久しぶりね」
「そうだね。いつから会ってなかったっけ? 随分長いような…」
「あら? このチェーンは?」
「さくらがくれたんだ。小さい時に。知ってるハズじゃなかったっけ? パラジウムさ。変わってるだろ?」
「このマークは…」
「なに? 姉さん」
「ううん。何でもない。教育実習も明日で終わりだから、また会えなくなるね」
「またすぐに会えるさ」
「そうね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『お嬢様、報告があります』
「続けて」
『横須賀にイージス巡洋艦と攻撃型原潜が各1隻入港しました』
「妹が喜びそうな話ね。あの娘に教えたげて」
『艦隊は続々と集結中です』
「デモンストレーション? 民主党の新しい大統領は派手好きね。アフリカ系の女弁護士だっけ? 軍事素人はコレだから」
『7月中に第2東京湾で大規模な軍事行動を起こす確率、87%』
「シミュレーション。その場合の損耗率は?」
『完了。90%以上』
「全滅ね」
『如何なさいますか』
「別に。そのための勇者様よ。他には?」
『報告。来生 綾女の暗号をあらゆる解読プログラムで解析しましたが有意な回答は得られませんでした』
「恩でも売れるかと思ったけど担がれたかしら?」
『その場のアイテム、仕草などと組み合わせると解ける確率78%』
「そこまで再現してシミュレート。優先順位は下げて。米軍の監視が優先」
『承知致しました』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「艦長、目標は観音崎を通過、東京湾に進入し尚も北上中、速度22ノット」
我々を追けて来た国籍不明の潜水艦か。通常動力で22ノット巡航は頑張った方だが、バレていないとでも思っとるのか?
「追うぞ。交戦命令が出た」
「しかし」
「副長、ここは我々の海だ。そしてこれは大統領命令だ」
「はっ!」
通常動力型潜水艦1隻を相手に、イージス巡洋艦と攻撃型原潜ではオーバーキルだな。対潜ミサイル1発でカタが付くが夕食は少し遅くなるだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「我が主よ、アメリカ大統領からホットラインが入っております」
「繋げ」
玉音と同時に玉座の下段、足下に立体映像が現れた。高級感溢れるタイトなスーツをピシリと着こなしたアフリカ系アメリカ女。予に敬意を表し屈した膝が窮屈そうだ。
「お呼びにより参内仕りました」
「堅苦しい挨拶は良い。どうだ? 大統領の椅子の座り心地は」
「全て我が主のお蔭にございますれば」
「ふん。我等に人間の地位など詰まらぬ物よ。で、首尾は?」
「観艦式の準備は計画通りに。まずは今宵、前座を御観戦頂きますれば光栄至極に存じます」
「イージス艦、だったか。言うほど強いのか?」
「御身より賜りしアイギスの盾から名を取っておりますれば」
「ふはは、初手から神頼みとはな! しかしそんなに訛っては御利益もあるまい」
「そこはその目で御覧頂ければ」
「楽しみにしておるぞ」




