水遁の術 1
「やっぱりケンちゃんを狙ってたのね!」
「いやいやいやいや待て待て待て待て」
「そーゆーアンタはどーなのよ!委員長として、風紀がどーの道徳がどーの言って恋愛なんか興味ありませーんって顔して!」
「とととてりあえずおおお落ち着こう」
「本当は山田が好きな癖に!私は告白したわよ!アンタはどうなのよ?!」
うっ、そこは聞きたい。真由美が本当は俺の事をどう思っているか俺も気になる。小学生の時みたいに『ケンちゃん大好き』って言ってくれたら俺も自信が持てる……
「私がっ……?」
「どーなのよ!」
「私だってケンちゃんが……」
「ケンちゃんが?」
俺が?
「すっ、すっ、すっ」
「す?」
す?
「すっ、すすすすすすすす」
「言いなさい!」
言うんだ真由美!
「水遁の術ーーーっ!」
真由美がパンッと両手を打ち合わせ指を組んで何かを叫んだ。同時に海蛍の大水槽から青白く輝く10匹の水龍が竜巻の如く巻き上がり、俺たちの頭の上に10本の滝となって落ちて来た。
「あぎゃーっ!」
「ケンちゃんこっち!」
「おうおうおうおう〜」
真由美の召喚した青く白き水龍は館内の広場いっぱいになって渦を巻いた。だがそれもつかの間ふた手に分かれ、その1方はさくらをあっという間に博物館の奥に連れ去った。
そして残る水龍は真由美と、彼女に手を握られワケもわからず為すがままの俺を出口から外に向けて押し流してしまったのだった。