決戦!vs冥王軍
「ぬうあああああああー!」
ズガガガガガガガガガガ…
眩い緑の光跡を引く、一秒間に百発の連撃。全弾命中!激しい火花が散る。しかし。
「硬い!」
叫んだのは筋骨隆々とした初老の拳士。死の神タナトスを一撃で屠った拳撃、その連打に火花を散らしているのは冥王の鎧ではない。神の金属オリハルコンの手甲が、自らの打撃に耐え切れず、削れ、砕け散る。
世の理が闇に傾いたとは言え、これ程までに力の差があるとは。だが時間は稼げた。
瀕死の重傷を負いながら転移呪文の詠唱を続ける神託の勇者。槍を握る彼女の手から力が抜ける。
そっと掌を添え支えた、その瞬間。女神の槍が光り輝き、通常の転移魔法を絶対妨害不能の神聖魔法に変え、その効果を100倍に増幅した。
冥王がこちらの真意に気付き、弟子達に向け魔剣を投擲するが、もう遅い!異世界から来た弟子達の姿が薄れてゆく。
これで数百㎞先の安全圏まで逃がす事が出来る。最早、遠慮も手加減も不要だ!
「予定通りだ!やるぞ!」
神の槍から立体積層魔法陣が展開し冥王を押し包む。冥王が纏う不可視の絶対防御が抵抗し、初めて光を放った。物理打撃無効、魔法攻撃無効、雷撃耐性、火炎耐性、低温耐性、状態異常無効、時間停止無効、などなどなどなど…
道理で硬いわけだ。だが今やそれら全てがゆがみ、ほころび、きしみ、悲鳴を上げている!
「逃がさん!」
拳を伸ばし、全ての防御をガラスのように粉砕し、冥王の髪をつかんで引き寄せる。しかしその瞬間、レイピアのように伸びた冥王の爪が二人の胸を貫いた。
「それも… 計算通りだ!」
命を触媒に『勇者の証』が真の力を開放し砕け散った。発生した1億度の火球は冥王の肉体を瞬時に蒸発させ、岩石蒸気と共に成層圏に… 一部は月よりも遠く、吹き散らした。
死を司る冥王ですら復活にはいくばくかの歳月を要する。その間に異世界から来た後継者達は、力を蓄え、志を同じくする仲間を結集する貴重な猶予を得るだろう。
後に『人類反攻の狼煙』と呼ばれる大爆炎。しかし、若き2人は未だその事を知らず、互いをかき抱きながら自らの非力さに涙するしかなかった…