東方大砂漠 地下大迷宮 冥王大神殿最深部 玉座の間。そして…
“騒がしい… 愚かな人間共め”
先日出現した新たな勇者か… まだか細い力しか感じぬが、チョコマカと動き回る気配。鬱陶しい。ハエと大して変わらぬ下等生物の分際で地上の支配者気取りか…
まあ良い。玉座に座する我が肉体が再生するには今しばしの時が必要。それまでは好きにするが良い…
「こんばんわ。いえ、こんにちはかしら?」
玉座の後方に忽然と現れる気配。予の玉座の間に生きて入り謁見出来る者なぞ数える程しか居らぬ。ましてや予の許可なく傍若無人にとなると奴くらいのもの。
“貴様か。何をしに来た。その鎌で予を切ろうとてか”
もし振り見れば三大神の一角たる予ですら奴の思う様操られよう。天空神の娘の力、伊達ではない。
「別に。貴方がログインしてるか確かめたかっただけ」
そう言うと、ウエーブのかかった長く美しい金髪に碧眼、そして男女を問わず神々すら欲情させずにはおかぬ天界の美肉をまとった、奴… アフロディーテは死神の鎌を振り上げた。
ごいーーーーーん
「あいたっ、たたたっ…」
後頭部に激しい衝撃。暗闇に目が痛いくらい明るく光る画面。何が落ちて来たんだ? 後ろの床には… 何も転がってない。入り口の、井桁の木組みにガラスが嵌め込まれた古い木戸… 何か所か割れてテープで補修してある、その窓から差す街灯の明かりとパソコン画面の明かりを頼りに、眠い目を擦りながら落下物を確かめる。
右側の腰より低い台… ずいぶん昔に閉店した駄菓子屋から貰い受けた幼児の目線の高さの台。その上にはファミコンにメガドライブにX68000などなど往年の名機たち。コマが3枚欠品したオセロゲームに折り畳み将棋盤(盤だけ)、更にその上に無造作に積んであるのは太陽系戦隊ガルダンのプラモ。アリイは良い仕事をする。知り合いのプラモ屋が閉店する時に全種コンプリートで何セットも引き取れたのは僥倖と言うしかない。
左側には朽ちかけた本棚と、この店には似つかわしくない立派な飾り棚。どちらも拾い物、つまりは粗大ごみだったものだが。
飾り棚にはフリートガールズや黄金聖戦士やブレザーアフロディーテのフィギュア、トレカやゲームカセットに混じってゼンマイ駆動のロビー・ザ・ロボットのブリキ人形。未使用箱付き完品。禁断の惑星はいい映画だ。その隣には口をパカッと開けて重いコンダラを引くアンドローくん人形。これは最近の物でプレミアは付いていない。
本棚には雑多な古書や古雑誌に月刊モー数年分。お隣の賢人君がまとめて持ち込んだ物。最近では美奈ちゃんが熱心に立ち読みして気に入ったのを何冊か買っているので所々歯抜けになっている。
そして入り口の明かりを背に立つシルエットは…
「心配ないわ。峰打ちよ」
「え? ああ、君か。何でこんな夜中にウチに?」
「ハイ! 後ろには誰もいませんよー」
「誰もいない…」
「ハイ前見て前。勇者ケントと魔道士マユミが大変なの。システムの管理はハーデース、貴方に一任してあるでしょ? しっかりしてよもう」
「ハイハイ。えーっと」
「あなたー。夜中に何騒いで… あら、こんばんわ。やだアタシったらこんな格好で。あなた、こんな夜中にお店に呼んだりして何…」
「ハイ!私はいませーん!」
「あれっ? 誰もいない」
「それより美妃ちゃん、これ、これ」
「え? あーーーっ、あの子達こんなプレイしてるの?」
「いやいやいやいや完全に熟睡してる時間だし。多分AIシステムが勝手に動いてるだけじゃないかな」
「AIって人工知能のこと?」
「誰も操作しなくても自動学習しながらザキやザラキを撃つシステムはファミコン時代からある技術でね。将来リリースしたら1チーム20人でパーティーを組むんだけどログアウト中の人のかわりをさせようと思って」
「あなた、このシーンは3年後に開くようにしたって言ってなかった?」
「そうなんだよ。勇者ケントの魅力値が999になって魔道士マユミの好感度が999になったらロック解除。そこまでやり込むのに3年はかかるハズなんだけどなあ」
「ヒント、ボーナスポイント」
「あっ」
「どうしたの?」
「そう言えば賢人君に早く次のイベント検証して貰いたくてボーナスポイントと上限開放アイテム出したんだ。経験値稼ぎとか時間の無駄だからね。でも普通は攻撃力とかに配分…あっ… 魅力[999]…」
「真由美の方は?」
「好感度530[796]… バグったのかな? 枠からハミ出してる。修正も受け付けないよ」
「とりあえず止めて緊急メンテナンスの画面を出して」
「えっ? 何でこんな夜中にウチに?」
「駄目じゃない、女の子がこんな真夜中に出歩いちゃ」
「ハイ! 誰もいませんよー! それより早く!」
「ハイハイ緊急メンテ緊急メンテっと。ヨシ!」
「もーあなたったら独り言ばっかり。ねえ… そんな物イジってないで… 私をイジって」
「美妃ちゃん… 美妃ちゃん!」
「ちょちょちょちょっと待って!私の目の前で何するのよ!」
「あれ? 誰か何か言ったような」
「誰もいないわよ。それより来て…」
「わ、わ、わ、私は愛と美と性の女神アフロディーテ。ごきゅり。これは私の領分。しっ、しっ、知っておく必要が。ってヤッパリ駄目ーーーっ!お休みなさーい!」
ガラガラガラガラ→
ガラガラガラガラ←
ピシャリ!
「あれ? 誰か出てった?」
「誰もいないってば。それより、もっと…」




