勇者ケント捕獲作戦8
光がおさまった時、全ての風景が灰色の… モノクロームに染まっていた。俺は大きなテーブルに向かって座って… いや、テーブルが大きいんじゃない、俺が小さいんだ。右に真由美。左には美奈。そしてテーブルの上に宝石箱。
「ぉぉー」
口を少しとんがらせた美奈から小さな感嘆の声。
「キレイ〜」
これは真由美。
え〜っと… 確か何かの拍子に婚約指輪の話になって。そうだ、母さんにせがんで見せて貰ったんだ。
大きな指輪に大きな宝石が付いてて… そう。あの頃の俺達には全てが大きかった。テレビ画面は背丈ほどあり、自転車のカゴも見上げる高さ。車は3人ではしゃぎ回るくらい広く、クリスマスケーキなんか掌くらいの高さだったっけ…
「はめていい?」
目をキラキラさせて真由美
「いいわよ」
と母さん。
「やったー!わたしコレがいいー」
と美奈。
2人とも母さんの指輪をはめて、キラキラした目で宝石を見つめている。そうだった確か指輪は2つあって…
「お母さん、宝石は何が好きって聞かれて、どっちの石にするか最後まで迷ってたのよ〜 そしたらお父さん、結婚して初めてのボーナスでもう1つ買ってくれたの。だから2つになっちゃった。でも、この家をローンで買ったり、賢人が出来て物要りになったり… 今思えば家の頭金にすれば良かったかな?」
ハイハイ幼児に借金の話をしない。
「ぶかぶかー」
「ねえケンちゃん」
「なに?」
「真由美も婚約指輪ほしい」
宝石の指輪… すごく高そう。お使いのお駄賃10円を何回貯めれば買えるかな…
「そうね〜 相場はボーナス3回分よ。ケンちゃんのお駄賃何万回分になるかしら?」
そっ… それはお年玉3回分くらいですか?
「今ほしいー」
えっ
「今ほしいー!こんやくゆびわー」
「でもすごく高いって…」
「欲しいのー!」
「ちょっ、ちょっとまってて」
そうだった。俺は幼稚園のバッグからモール… 針金の入った毛糸みたいなヤツ、アレの切れ端を取り出して… 真由美のはめた指輪の宝石と同じ色のを選んで輪っかにしたんだった。
ハミ出した部分はなるべく宝石に似せて曲げて…
「これあげる」
「きゃー! カワイー!」
母さんが黄色い声をあげて…
後ろから先生が語り掛ける。
“思い出しましたか?”
「そうだ。俺はあの日、真由美の左手の薬指に嵌めたんだった。手作りの、モールの婚約指輪…」
“約束の指輪は1つでなければなりません。2人の女性に指輪を贈れば貴方は呪われた運命の渦中にその身を投じる事になるでしょう”
その時、世界に色が溢れた。
「ケンちゃん!」
真由美が息を切らせて走って来る。俺は今まで何をしていたんだ? 本当に恋しい、大切な人はキミだけだったのに!
「真由美!」
そう! いつだって俺の愛する人は真由美なんだ! 俺は立ち上がった! その俺の顔面に、真由美のドロップキックが炸裂した!




