幻影
畜生!畜生!畜生!
喉が痛い。胸が苦しい。目が熱い。涙が止まらない。何で俺はこういう時ダメなんだ。もっとチャラチャラして女の子をホイホイ引っ掛けてる例のアイツみたいなのもいるのに。真由美が笑って答えるようなうまい会話が出来たらいいのに!
「止まりなさい」
急に声をかけられ俺は自転車を止めた。それは聞き覚えのある声だったから。
「アフロディーテさん?」
「占ってあげる。あなた彼女とケンカしたわね?」
高1男子が泣きながら自転車漕いでたらソリャ失恋したかイジメられたかだろ。占いもクソもあるか!
「引き返して彼女に謝りなさい」
「何を謝るんだ! アイツはいつもいつも俺の事、関係ない関係ないって!」
「それで傷付いたの? でも先に『関係ない』って言ったのはアナタじゃない」
なんでオマエがソレを知ってるんだよ!
「誰に聞いたよ?」
「もちろんアナタによ。ごらんなさい」
彼女が指差した先には学童机…中学校のがあって。いやココは道路だけど? そこには詰め襟の中学生が… 俺が… 座っていた。
俺の右と右後ろの女子…真由美と仲が良かった2人がペチャクチャ喋っている。誰それと彼それが付き合ってるだのキスをしただの。俺は少し羨ましかった。俺も真由美とそういう事がしたい。そう思い始めていたから。
「ねぇ。山田君は誰が好きなの?」
片方が突然俺に話を振って来た。ビックリした俺がどう誤魔化そうか考えてると真由美が正面から食い付いて来たんだ。
「ねえ!ケンちゃんは誰が好きなの!」
目がキラキラ…いやギラギラしてる。
「ねえ教えて」
「知りた〜い」
「誰?誰?」
女子3人に囲まれ、囃し立てられた俺はパニックになって言ってしまったんだ。
「かっ…関係ないだろ!」
そしたら女子は突然黙って。真由美は凄く傷付いたような顔をして自分の席に戻った。そして真っ赤な顔をして俺の事を睨み出したんだ。俺は思わず目を逸らした。セリフを間違えた。もっといい言葉があったハズなのに。
あの日から俺は『ケンちゃん』じゃなく『山田君』になったんだ。
「神殺しは神を斬る。正確には神のいる時空ごと斬るの。だから空間を斬って移動したり、時間を超えて過去や未来や並行宇宙も見られるの。引き返して彼女を助けなさい。過去と未来を良く視て。敵の前で考えるの。何をするべきか。絶対に熱くなって突っ込んじゃダメ。さあ行きなさい」
これは夢なのか? 振り返ってそう聞こうとしたが、そこには誰もいなかった。俺は自転車に乗るのも忘れて元の道へ、裏門へと走った。自分の足で。真由美が助けを求めている! なぜだかそうわかったんだ!




