俺と幼馴染と妹の限りなく残念な現実
「お兄ちゃん、聞いてるー?」
「あ… いや、ゴメン。今朝も凄く長い夢を見て、まだボーッとしてて」
「またー? どんな夢なのー? 教えて、おしえてー」
異世界で清水のお姉ちゃんとエッチな冒険をする夢だよ、なんて家族の食卓で言えませんがな。
「はい、どうぞ」
「いただきます」
「いただきまーす!」
「それより美奈。夢の中で知らない言葉が出るなんて事はあるのかな?」
「はんへほほは?」
「神話的原型、って…」
「親和に減刑?聞いたことないな。裁判で使う新語かな」
「違うよ父さん。神話とか伝説が原型になって何かに影響する、みたいな意味っぽい」
「ほひいひゃん、ほへ、ひっへふはふほ」
「こーらー、美奈。 食べながら喋らない!」
「ごっくん。おかあさん、ごめんなさーい! おにいちゃんコレ見て、これー!」
「徹底解明! 未来人による世界線の改変! 神々の正体は未来人! 神話の幻獣は未来人の生物兵器だった… このゴチャゴチャした煽りだらけの表紙は…」
「当然!『月間モー』よ! 学校で読書の時間に読もうと思って用意してたの!」
読書・・・ 読書?
「美奈ったら。ちゃんと選びなさい」
「これ元々はお兄ちゃんの本だもーん」
美奈め、また俺の黒歴史を。 確か中3くらいの時のか? あの頃はもう惰性で買ってて真面目に読まずに古本に出したんだよな。
「未来人はタイムマシンで歴史を改変しているの。 でも歴史には復元作用があって、変えたつもりが元に戻るのよ」
漫研の部活でSFマニアの部長と優介が論争してたヤツね。
「復元するって根拠がわかんないんだけど」
「たとえば『鉄人ハトム』を見てロボットを発明したと人がいるとするわね。タイムマシンで戻ってこの人を殺しても…」
「同じ漫画を見た別の人がロボットを発明する?」
「そう! 神話や伝説や『元寇で嵐が来たからまた神風が吹く』とか鉄人ハトムとか、お兄ちゃんの好きな『機甲戦記マンダム』とか」
「俺が好きなのはスパロボ系だよ」
「おんなじよ! それは全部、集合的無意識イコール神話なの! 人間は無意識に神話をなぞって行動する。だから細部を改変しても全体としての流れは変わらないの」
あ… あたま痛い。
「それで?」
「だから神を名乗って歴史の原型となる神話を作り、それに合わせて歴史の流れを変えるのが未来人の作戦! それが『神話的原型』なのよっ!」
「熱中してるとこ悪いけど遅刻するわよ、美奈」
「あっ、大変、たいへーん! いっへひはーふ」
「美奈! パンくわえて走らない!」
美奈は喋らなければ可愛いんだけどな…
美奈は中学まで歩きだけど俺は自転車だから少し飛ばせば間に合うな。話し込んで少し遅れたから運が良ければ先に出た真由美の後姿を学校まで見ていられるかも。左右に揺れる可愛いポニーテールとグッと来る首筋の後れ毛を…
そういった期待は玄関を出たらアッサリ打ち砕かれた。俺んちと隣の真由美んちのある通りには誰もいない。
いや! まだだ! もしかしたらあの角のブロック塀の向こうに今、真由美の自転車がいるかも!
俺は猛烈に自転車を漕いだ。
しかし… 当然のように角の向こうにも真由美の姿はなかった。少しは期待したんだけどな。夢の中の俺に都合のいい幻の真由美は、俺の事が大好きで、俺を追け回して… 後方尾行に前方尾行、だっけ? 夢の通りなら、真由美は隠れて俺の動きを見張っていて、今頃はダッシュで飛び出した俺をあわてて追いかけて…
俺はブロック塀の角を曲がった所に自転車を停めて、向こうから見えないように後ろの気配をそっと伺った。まあ後で飛ばせば少しだけ時間はあるし…
ガシャガシャガシャ、キキー、ズザー、ガシャン!
ん?何の音だ? そう思って角からそっと顔を出してビックリ! 向こうからも顔が! いや誰? 一瞬パニクってわからなかったが、頬を上気させ荒い息でこちらを覗き込んで来たのは、まぎれもなく真由美だった!
あの、夢にまで見た柔らかい唇、甘い舌、そして熱い吐息が、突然、俺のすぐ目の前に!




